4.有事!
緊張しながら反応を待つ私に、彼は口を開いた。
「ああ、貴族子女は多くいるぞ。皇宮で働くと拍が付くから、結婚に有利なんだ。高位貴族とも知り合えるしな」
(むっ。なんでそんな平然としてるわけ?)
もしかしてアンネとの関係に、私が気づいてないと思っているのだろうか。
それともまだ、彼女との交流が成り立ってないとか?
(ううん。だってそれならどうして、アンネが皇宮にいるの?)
小説のアンネは、ヴィンケル伯爵家の事業のため市場調査に勤しみ、頻繁に街に出ていた。皇宮での従事だと、家の手伝いが出来なくなる。
自発的に彼女が志願するのは考えにくい。
やっぱりシュテファンが誘ったとしか思えないんだけど……。
(──契約した日に"気になる人が出来たら教えて欲しい"と頼んだのに、お飾りの皇妃相手じゃ、そこまで話す必要を感じてないのかな。あっ、もしかしてステファンの当たりが柔らかくなったの、彼女の影響とか?)
ふいに突き上げた不快な何かに、気持ちをかき乱される。
「…………。ヴィンケル伯爵家のご令嬢、お可愛らしい方ですね」
胸のうちのモヤモヤが、家名までも口にさせた。
「ヴィンケル? ──すまない。把握してない。その侍女を気に入ったなら、あなたの専属としてつけるが」
(! なんて白々しいの)
「結構です」
自分でも驚くほどの固い声に、シュテファンも目を丸くする。
「エリザ? どうした? その侍女があなたに何かしたのか」
腰を浮かせかけるシュテファン。
「いいえ、そういうわけでは。お気になさらないでください」
「しかし……」
(落ち着け私。とぼけてるんじゃなくて、ホントに知らないのかも知れない。もしそうなら、八つ当たりは気の毒だわ)
──八つ当たり?
どうして私、こんなにイライラしちゃってるの?
私は契約妻で、アンネとシュテファンが仲良くなるまでの場繋ぎ役じゃない。
小説ではふたりの恋のスパイスになった皇妃。
(つくづく損な役回りだわ、エリザって。こんなに美人なキャラなのに、いずれ来る離婚に向けて準備するくらいしか、出来ることがないなんて)
エリザがリーネル家の娘である限り、シュテファンとの間に子どもを儲けることは出来ない。
子どもの存在は、彼の命を脅かす要因になるから。
けれど皇帝には、後継ぎが絶対に必要。
だから私とシュテファンが、この先結ばれる未来はない。
(ンもう! いつか絶対幸せになってやるんだから!──あっ)
シュテファンの前に置いたティーカップが、紅橙色の波を立てる。
いささか乱雑に置いてしまったか。
全然駄目だ、今日の私。
「少し疲れているようです。すみませんがお茶を飲んだら、今日はお戻りください」
「あ、ああ……」
シュテファンは"皇帝を追い返す"という私の不作法を咎めることなく、上目遣いにこちらの様子を伺いながら、大人しくお茶を飲んで帰った。
扉前でも引き止めて欲しそうな、チラチラとした視線を感じたけど、きっと気のせい。
……。
初対面での剣呑さはどこへやら、彼はとても気遣ってくれてると思う。
だからつい、勘違いしそうになるけど。
(ダメよ。"冷酷皇帝"はいずれアンネ一筋になるんだから、切り離して考えなきゃ。でも……)
シュテファンは"冷酷"と言う呼び名に反し、ずいぶんと思いやりのある人物だった。
公爵家でのエリザの扱いを話した時も、真摯に耳を傾けてくれて。
私の中のエリザはいくぶんか報われ、私自身も救われる思いがした。
(一途な溺愛キャラになるというのも頷けるわ)
だから。
私たちは清い関係のまま、良い距離を保つのが一番。
時折実家が「子どもはまだか」と接触してくるけど、「まだ」という言葉で追い返せるし、シュテファンがいる時は、彼が間に入ってくれる。
(彼とアンネはいま、どんな関係なんだろう。なんだか寂しいけど、私が廃妃になる日も遠くないわね)
十八歳のシュテファンと、十七歳のアンネならお似合いだ。
シュテファンには、幸せになって欲しい。
そんなつもりで、割り切って過ごそうとしてたのに。
ある夜、私のもとに訪れたシュテファンは、いつもと様子が違っていた。
潤んだ瞳、熱に侵されたように荒い息。
彼は私を、ナチュラルに押し倒した。
「エリザ……、すまないが俺を受け入れて欲しい……!」
(!!!! なんですとぉぉぉぉぉ?!!)
「待って。待って陛下、どうしたの? 私とは子作りしないって、あれほどおっしゃってたはずじゃ」
「媚薬だ。薬には気を付けてたつもりなのに、やられた」
(媚薬? 媚薬ってこんなに苦しそうになるの??)
ラノベでよく登場するアイテムだけど、実際摂取した人を見たことがなかった私は驚いた。
なんだか高熱に侵されてるみたいなシュテファンに、心配になる。
(どこか痛かったりするのかな? どう介抱したらいいんだろう)
慌てる一方で、私の理性は現状を分析した。
(あっ、もしかしてリーネル公爵家の仕業だと思われてない? だから私のとこに抗議に来たとか?)
ちゃんと否定しておかなくちゃ。
「私は何もしていませ──、っ」
言葉途中で唇をふさがれる。
(!?!)
会社員歴数年。家と会社の行き来が全てで、男性との深い付き合いなんて皆無だった私にとって、初めてのキスだった。俗にいうファーストキスだ。はじ……、はじめ……、んんんん!
(キスってこんなに執拗に、情熱的にグイグイ来るものなの?)
息が出来ない──。
頭の奥がクラクラし始めたタイミングで、シュテファンが口を離した。ほっ。今のうちに呼吸!
「っはぁ……、わかっている。あなたではない。あなたは俺に、興味がないから……」
興味がない、わけではない。
ただ、いずれ別れる相手だと線引いていただけで。
(え? 逆じゃない? シュテファンが私に興味ないんだよね?)
きっと言い間違えたんだろう。そう思いながら、一人の女性が頭に浮かぶ。そうだ!
「私に手を出すなんて。アン」"ネはどうするんです?"
続けたかった言葉は、二度目の口づけで声にならず、代わりに。
シュテファンの手が、私の着衣下に滑り込んで来る。
「! だ、だめ……」
「あなたは俺の唯一の妃だ。そうだろう?」
(だから、ア、アンネは──?)
彼と彼女はまだそんな仲ではないにしろ、後で気まずくなったりしないのだろうか。
混乱する頭の中は、グルグルと思考がまとまらない。
かつてないほどの至近距離でシュテファンの体温を、吐息を、鼓動を感じる。
シュテファンからの甘い刺激が、私の全身を包み込んで。
私たちは共に一夜を越えた。
急展開。といいますのも、お題がシークレットベビーなので、子どもを作らねばならず…! ←
すみません、うちのシュテファンが性急で、ほんとすみません…!(ノД`)・゜・。
R15、この範囲ならセーフでしょうかと、どきどき。ダメなら書き換えます。難しい。
土・日はあまり執筆出来ないため、明日の更新が難しかったらごめんなさい!(こんな区切りで!)
短編用に短く書いてたお話に、ライブ加筆で投稿してるため、このバタバタ感よ(;´∀`)




