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円満離婚に持ち込むはずが。~『冷酷皇帝の最愛妃』  作者: みこと。@ゆるゆる活動中*´꒳`ฅ
本編

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11.シルム王《幕間③》

(闇落ち……??)

 それもシュテファンへの恋心から。


 ぎくりとした。

 私もシュテファンのことを好きになってしまっている。


(この想いは封印しないと、闇落ちしかねないということ?)


 無意識に、ぎゅっと手を握りしめる。


「それでリヒトさんは──」

「リヒトでいいよ。あと敬語も無しで。僕ら同い年くらいでしょ? なんで、"ですます調"なの?」


「それは……」


 初対面だし礼儀というか、"距離感気にして?"と言うメッセージなんだけど。むしろあなたは何故(なぜ)にフランク?

 まあいいか。気楽に話そう。


「でもエリザのファンなら、がっかりしたでしょ。中身が変わってて」


 中の人が私だもん。たおやかな貴族令嬢とは程遠い、前世庶民だ。


 それにリヒトが登場するらしい続編の《逆襲編》とやらは、永遠に来ない。

 私はシュテファンに仇なすつもりなんてないからだ。


(むしろ何かあれば助けてあげたいと思ってるのに)

 微力な私に出来ることはないけれど、それでも彼が苦しんだり、悲しんだりするのは望まない。幸せになって欲しいと願ってる。

 好きな人の隣に居られないことは、辛いけど……。


 (うつむ)きそうになる私の前で、リヒトの明るい声がはじけた。


「うん? 驚きはしたけど、自分の例もあるから。それに、きみもすごく素敵な女性(ひと)だってわかるから、問題ないかな」


(チャラい)


 冒険者リヒトがどんなキャラだったのかわからないけど、中身こんな軽くて大丈夫なんだろうか。私も他人(ひと)のこと言えないけど。


「ところできみは、なんでそんな恰好で、こんな街にひとりでいるの?」

「ええ、まあ、事情がありまして、追放される前に出てきたと言いましょうか……」

「事情」

「~~~っ。いろいろあるの! なんで詳しく聞きたがるの?」

「だってそりゃ……、女の子のひとり旅なんて危なそうだから。エリちゃんはともかく、"エリザ"って箸より重いもの持ったことなさそうだし……」

「それは確かに」


 私もエリザになってからは、カトラリーまでしか持ったことない気がする。


「どこに行くつもりか知らないけど、僕で良ければ同行しようか? きみの行きたい場所に送ってくよ」


 テーブルに身を乗り出すようにして、リヒトが提案してくる。

 正直頼りたくなる気持ちもあるけど、でも。

 私はこの人をよく知らない。


「だ、大丈夫。きっと何とかなると思うし、何とかするから」


 自分に言い聞かせるように断ると「遠慮しなくていいのに」と言いながら、リヒトは椅子の背まで身体を引いた。

 ほっ。


(善意からの申し出なら恐縮だけど、このくらい用心してたほうがいいわよね)

 それに、リヒト自身の予定もあるだろう。邪魔しちゃ悪い。


「あ、ちょうど料理が来た。まず食べよう。それで、尼僧院までは送るよ。そのくらい良いだろう?」

「それは……すごく助かります」

「良かった! 転生仲間に会えて、もっと会話したかったから」

「あ、それは私も」


 食後に地図と格闘しなくて良い安堵感から、私は美味しい食事と懐かしい話題を堪能できた。

 ハーブを使った焼肉に、お豆たっぷりのあたたかなスープ。パンも柔らかくて、かしこまった皇宮とは違う素朴な手料理が、疲れた体に沁み込み嬉しい。


 それから私たちは涼やかな夕暮れの道をそぞろ歩きながら、尼僧院に辿り着き。

 予定通り門の前で、手を振って別れた。


「何かあったら連絡して。冒険者ギルドで"リヒト"を指名してくれたら、どこからでも駆けつけるよ」

「ふふ、ありがとう。良くしてくれて。あ、何かお礼を──」

「大丈夫。推しの役に立てたなら、本望だから。またいつか会える日まで、元気でね」



 リヒトは爽やかで親切な人だったから。

 私はその後、彼のもとに近づく人影があるなんて、思いもしなかった。



 ◇

   ◇

     ◇



「我が主君は、いつから冒険者になられましたので」


 リヒトのもとに近づいた人影が、(うやうや)しく、けれどはっきりと口にする。


「植生を調べるため集めていた薬草を、適当な尼僧院に寄贈されてまで」


 非難めいた言葉に、リヒトが影を見る。

 深く被ったフードからのぞく顔は慣れ親しんだ()きょうだいで、気心知れた配下だ。

 この世界には"()きょうだい"という存在がある。それだけでもずいぶん、自分が元いた社会と違う。


「ま、ま、種と記録はとったから。近辺の地形と気候は割り出せるでしょ」


 自分と同じく旅装姿のとも(・・)に対し、リヒトの口は孤を描く。


「街で皇妃を見かけたんだ。何事かと確認したくもなるじゃないか」


 エリザを見つけた時は、本当に驚いた。

 よく似た別人かと話しかけてみたら本人で。カマをかけたら転生者だと判明した。大人しいはずの皇妃がイレギュラーな行動をとっていたのは、そのせいだ。


 だが小説通り、シュテファンとの関係は複雑らしい。皇帝はきっと、例のとんでも宣言を初夜に(はな)ったのだろう。

 個人の(ねや)事情がダダ漏れなんて、ロマンス小説はプライバシーの侵害甚だしい。


「冒険者ギルドに"リヒト"の名前で登録しておいてくれ。エリザからの連絡があれば、すぐ伝えるように」

「はぁ。また"リヒト"などと言う偽名を、どこから思いつかれたのです」

「ん? その辺から」


 何気ないことのように答えた名前が、彼にとって特別な意味を持つことは、転生者である本人しか知らない。


「あ──。続編を知らなかったなら、いまの名前……ヨナスを名乗(なの)っても気づかなかったかな。いや、さすがに国際情勢上、知っているか……?」


 リヒトがひとりごちる。


「続編とやらは、私も存じませんが」

「いいんだよ。こっちの話」

「しかし……よろしかったのですか? 主君。この場で(さら)って、連れ帰っても良かったのでは」


 "いい加減、王妃を娶ってくだされば、我が国も安泰なのですが"と、付け加えられた言葉に、リヒトの表情が苦々しく変わる。


「やめろ。そんなことしたら、自主的に家出したエリザの責任を、ウチが負わされることになるじゃないか。()()()はまだ、この国に対抗出来るほど育ってないのに」


 小説と違い、エリザの離婚、追放が成り立ってない。


 人妻を攫って妃にするなんて、元の世界でも歴史に残る大戦争が勃発していた。トロイ戦争と呼ばれる、ギリシャ神話兼史実。


あのエリザ(・・・・・)は、そう簡単に落ちそうにないし──」


 純粋培養の貴族令嬢に、別の誰かが転生していたのは計算外だったが、彼女の警戒心は嫌いじゃない。それに案外、手順を踏めばコロッといくかも知れない。人の良さそうな性格だったから。


 リヒトこと、シルム国王ヨナスの目が光る。


 でも。奥手そうな()だったけれど、やはり人妻。

 何がどうあったのかはわからないが。


「それに彼女は、妊娠している」


「っ?」

「胎内にも魔力反応があった」


 エリザの手に触れ、確かめたのだ。間違いない。

 小さいながらも力強い、エリザとは異なる魔力が、彼女の内で脈打っていた。


「残念だなぁ。エリザの子は魔力が強いと小説(ほん)にあったから、僕の子を産んで欲しかったのに」


 確かに存在するものの、引き出し方が難しく、あまり活用されてない魔力。

 王侯貴族であれ、少し熱を発生させたり、風を起こしたり程度の力を、最大限活用しているのは、資源不足の国シルム。

 こと魔術において大陸の中でも抜きんでているシルムは、生産の中心が魔力。なので、強い魔力を内包する人材を常に求めていた。


「皇帝の子でしょうか? なら妨げになる前に、母子ともに消してしまった方が──」

「余計なことをするな」


 厳しい声が、空気を打つ。


「産ませたほうが、(こじ)れやすい」


 将来シュテファンとアンネが結ばれた時、エリザに子があったとしたら。

 それは具合良く揉めてくれるのではないだろうか。


 ただ気になるのは、どうして子を孕んだのに皇宮を抜け出したのか。


(他の男に何かされた? それで居られなくなったとか? でも後ろ暗さは感じなかった。あの手のタイプは不貞に平気ではいられないはずだ)


 闇とは無縁そうな真面目な人柄だった。胎の子はおそらく皇帝の子。並ではない魔力を宿した胎児。


(だがそうなると、何があってひとり出て来たのかだけど──)


 皇帝に、酷い目に遭わされたのか?

 あの無愛想な男(シュテファン)は、以前から気に入らなかった。なぜか今日は、無性に腹が立つ。


 出来る限り、調べさせよう。


 それはそれとして、子どもが出来ると女は変わる。

 今後、困る彼女を助けたら、(みずか)ら手中に来てくれるかも知れないし、失敗しても大国をかき混ぜる要因になりそうだ。


 混乱した隙に、切り崩していく。広い領土を、豊かな資源を。


 血なまぐさいなどと言ってられない。一国の王に転生してしまった以上、自国を強く発展させる責務がリヒトにはある。

 民の不満は王家(うえ)に向く。侵略されても処刑が待つ。まったく命賭けの家業だ。


 皇帝シュテファンは皇太子時代からその働きが縦横無尽過ぎて、いくら仕掛けても勝てなかった。

 今も、別の場所からちょっかいを出しているところだが。


「戦況の方はどう?」

「は。今回はもとより陽動でしたので、そろそろ引き際かと」

「うん、じゃあシュテファンも帰ってくるね。僕たちも引き上げよう。敵国皇帝のテリトリーにいるなんて、怖くて仕方ないからね」


 そんなことは微塵も思ってない様子で、両腕を抱き、震える真似をする。


 収穫はあった。


 すでに日は落ち、夜の闇があたりを包む。その暗さに身を溶かしながら、リヒトは笑った。


「ああ、そうそう。エリちゃんが無事目的地に着けるよう、こっそり便宜を図ってあげて。後のことは、再会した時の楽しみにとっておこうか」




 お読みいただき有り難うございます!

 賑やかしに出てきたリヒトさんでした。

 次こそホントに4歳児出てきますので、引き続きよろしくお願いしますっっ。


 そういえばエリザの国の名前出てなくて。シュテファンの髪色も出てないのです。

 決まってはいるですが、こっから遡って前半に挿入すると言うのもなんだし、今更出すのもどうだろうと…。どうしよう。


【覚書】

◆エリザ・ライザー(旧姓リーネル)/銀髪・露草(あお)色の瞳/登場時20歳+1年経過

リーネル公爵家の次女、姉と兄がいる。転生者。シュテファンの妻。

シュテファンの呼び方「陛下」、心の中では「シュテファン」。


◆シュテファン・ライザー/紫紺色の髪・金紫の瞳/18歳+1年

皇帝。父親に厭まれて育ち、母親は生まれてすぐ死別。口下手。エリザの夫。

エリザの呼び方「エリザ」「あなた」。


◆アンネ・ヴィンケル/黒髪・ハシバミ色の瞳/17歳+1年

小説『冷酷皇帝の最愛妃』のヒロイン。伯爵家の出。

皇宮に侍女として勤め、事を急いて宮を追放される。転生者。


◆リヒト(本名ヨナス)/明るい髪色・緑の瞳/登場時21歳

シルム国王。リヒトは偽名。饒舌。転生者。

エリザの呼び方「エリちゃん」「きみ」。


 ……こうしてみると転生者が多い気がしますが、気のせいです。

 今回あえて漢字ではなく、ひらがなの部分があります。読みにくいかと存じますがご了承ください。

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アンネが追放って気になる〜(笑)
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