祠壊されRTA
コラ―コメディです。ただし普通に被害者が出ます。
あくまで主人公は祠を壊された側です。
「こ、こんにちは。今日の挑戦者、です。よろしくお願いします。ええと、私は昨日、祀られていた祠を壊されました。これから、その犯人たちを祟ります」
はい、オッケーです。あとはこちらが引き取ります。
視聴者の皆さまこんにちは! TATARI・RTAチャンネル本日のライブ放送の実況と解説を担当いたします、協会のひのえです。
本日は○○山中腹の壊された祠に近い廃屋をスタート地点・中継拠点として、お送りしています。
さきほどご本人が申されました通り、祠を壊されたということでご連絡いただきまして、私と判定を担当いたしますみずのとがこちらへ派遣された次第です。
それでは今回も、ルールの説明から始めましょう。
ひとつ。プレイヤーご本人の神名を避けるため、プレイヤーを『祠さん』と呼称いたします。
ふたつ。対象者は特定の条件を満たさない限り、助命は認められません。この条件の判定は協会員、今回は前に申しましたとおり、みずのとが担当いたします。
みっつ。対象者は祠さんのテリトリーから逃れたことで逃げ切ったと判定されます。
今回は県境を超えた時点をテリトリー外になったとみなします。
このみっつが基本ルールとなります。
実行中のルールについては、都度ご説明いたします。
それでは、開始のカウントダウンを始めます。
祠さん、スタートのご用意はよろしいですか?
じゅう、きゅう、はち、なな、ろく、ご、よん、さん、にぃ、いち、ぜろ!
さぁ、祠さんが移動を始めました。
カメラが追いかけています。
対象者は現在、山のふもとの村に留まっているので、手始めと宣告のためにそこを襲うようですね。
では村に到着するまで、簡単に祠さん、ならびに今回の対象者の説明をいたします。
今回の祠さんは生贄として十代で亡くなったのち、祀られた方になります。
もともと真面目で大人しい性格であったため、そのままおよそ百年にわたり、村の人柱として護りの務めを果たされていたのですが、江戸時代、もぐりの術者によって邪な霊を習合させられたのをきっかけに零落の身に落とされました。
このときに術者ならびに術者を祠に案内した者……彼女を売った里の者を族滅させています。
また明治期の廃仏毀釈、神仏分離のあおりをうけて勘違いとともに祠に加害した二家族を族滅させています。
祠さんは今回のチャレンジに不安をお持ちですが、この経験から実力は充分と申せましょう。
次に対象者ですが、亜米利加の民俗学者と彼の率いる学生たちとなります。
今回の対象者たちの血縁はとつくにに住んでいるため、今回は学者と学生たちをひとまとめの「一族」と見なしての族滅を目指します。
ちょうど村へたどり着きましたね。
時刻は深夜零時。まさしく頃合いといえましょう。
今回は火の玉カメラを使用、肩上からのボディカム状態での映像も含め随時切り替えを行います。
またカメラを複数追随させている形になります。
ご覧いただけますでしょうか。
村の雰囲気としては昭和後期から平成初期、かろうじて昭和レトロに入らないといったところでしょうか。
文化住宅というには新しい、建売の住宅がメインの構成ですね。
塀と駐車スペース、それから庭がワンセットになっている住宅が並びます。
村というより、ちょっとした郊外の街というようにも見えますね。
祠さんが進むにつれて、住宅が時代がかってきますね。
かつての村がニュータウンとして造成されたが、あくまで時代が入り口までにとどまった形とも見える構成です。
あ、見えました。前方に民宿があります。
ここが最初の目的地です。2階に灯りが灯っている部屋がありますね。
おっと祠さん、ここで一気にジャンプして2階へ。ショートカットをしつつ、対象者を増やさないルートを選びました。
このルートは対象者外を巻き込まない事で、逆に対象者を追い込んでいくルートになります。
遭遇鏖ルートに比べると逆襲の危険性があり、畏怖は得にくくなりますが今回は海外出身者が相手ということもあり、神職者などとのつなぎをとりにくくなる判断にもよるものでしょう。
今回はリーダー格である学者を最初に狙うようです。
今回、学者本人は直接祠を壊したわけではありませんが、破壊を知られることで自分の調査結果が発表できなくなる……学説を守るために止めませんでした。重罪ですね。
気配に目を覚ました学者の喉を一端「閉じ」ます。
叫べなくなりましたね。目がぎょろぎょろ動く中を、祠さんが近づいていきます。
さぁ、一撃!
心臓に致命傷を与えつつ、祠さんが耳元でささやきます。
あえての日本語。
うわ言のように繰り返させるのが目的ですね。
この言葉を調べている間は行動を止めることができます。
また最初に学者を狙ったのも、彼が今回の引率者であり、日本の交通について良く知っていたため逃亡ルートを潰す一助となります。
はい、ここで喉を解放。叫びに寄って学生たちが駆け付ける中を、ちらっとだけ姿を見せて祠さんは消えました。
さぁ、学者と大学生のメンバーの絶叫により、民宿の女将が起き出してきたところで説明パートに入ります。
また通報によって、しばらくすると警官がくると思われます。
では、その間に祠さんよりご提供いただいた映像を使用して、対象者の説明をさせていただきます。
第一目標、学者のジェームズ。先ほど絶命させた人物です。
このゼミの教官にして責任者の教授です。
彼が帰りの飛行機などのチケットを管理しています。
次にトーマス。現在学者を揺さぶっている学生です。
彼が祠破壊の張本人。ふざけての行いですので許されません。
エレナ、学生。この映像ではトーマスを焚きつけたのはエレナのようですね。
ボブ、学生。こちらも同じく焚きつけた側のようです。
最後のサリー、学生。彼女だけが止める側に回りました。ただし止められなかったという結論になります。
女将が学生からの聞き取りを終えたようですね。
女将は祠さんの祠がどういったものかを知ってはいましたが、詳しくは知らないようで、夜が明けたら村長を訪ねることを勧めていました。
あ、祠さん、第一ターン終了といったところですが、いかがでしたか?
「は、はい。上々のできだと、思います」
学生たちは自分たちが壊したと言ってはいなかったようですが。
「やはり叱られるのが嫌というのは世界共通のようですね。女将は少し欠けたくらいだと思っている可能性があります」
なるほど、女将からするとまだ弁解の余地や、時間の余裕があると。
今夜はひとまずこれで『中断』でしょうか?
「はい、中断します。明日は夜明けに顔見せに行こうと思っています」
おつかれさまでした。
では、『再開』までに初めての方のために中断ルールの説明を。
祠さんは行動の節目に、『中断』『再開』『終了』『リタイア』を宣言できます。
襲撃の中断、その再開、またチャレンジの終了、そして途中終了としてのリタイアです。
自分から状況を動かすことができない場合の様子見としての中断が有効であることは視聴者の皆さんはご存知かと思われます。
また、いわゆる「詰んだ」状況などではリタイア宣言によって、強制終了します。
この場合、審判によって終了条件である対象者の状態を判定、クリア可否を決定します。
判定基準については、ホームページで公開しております。
それでは皆さん、再開時刻となる夜明けまで、ごきげんよう。
アラームをどうぞお忘れなく。
視聴者の皆さん、おはようございます。
時刻は午前4時半、祠さんの行動再開時刻となりました。
祠さん、おはようございます。本日の予定はいかがでしょう?
「おはようございます。本日は『村への足止め』、ならびにボブとエレナを標的とします。責任者であり引率であるジェームズを喪って行動力、思考力が落ちているところを狙います。特にエレナはトーマスと関わりが深いため、トーマスをさらに追い詰めることができる、と思います」
はい、了解しました。
では再開の宣言をお願いします。
「はい。これより、再開します」
さぁ、祠さんが民宿に侵入しました。
おっと? エレナの部屋に本人がいません。
恐怖からサリーの部屋に行ったのでしょうか?
祠さんは先にボブの部屋に向かうようです。
寝ていますね……。魘されている顔を覗き込んで、祠さんは頬を一撫で。
ボブは起きましたが、声も出ない様子。呼吸もおかしくなっていますね。
あ、そのまま心臓が止まりました。
亜米利加人にも祠さんの圧がクリティカルヒットです!
悲鳴が上がらなかったので、祠さんはそのままトーマスの部屋へ向かうようです。
女子同士は恐怖を慰め合う傾向が見られますので、単独でいる男子を……あ、これはいけません。
トーマスの部屋にエレナがいますね。
短い時間でしたが、皆さんもご覧いただけましたでしょうか?
ああ、しかも、その、ええ、とても不謹慎な状態ですね。
これが単なる添い寝であれば、恐怖を耐えるためであったということもできますが。
祠さんもお怒りの様子。火の玉から伝わってきます。
ボブのときと同じく顔を覗き込んで……あ、目を覚ました。
エレナがけたたましい悲鳴を上げたのにトーマスが目を覚ましましたが、祠さんは素早く部屋を出ていますね。
祠さん、早業でしたね。
「あ……はい、ありがとうございます。あ……頭に血がのぼったようになってしまって。エレナの悲鳴が大きすぎましたし……サリーに圧を与えられなかったのは失点です」
しかし、エレナに対する対処は当然でしょう。
彼らにとって庇護者であるジェームズが死亡したことで生じた動揺を鎮めるにしても、あれはあまりに短絡的です。
祠さん、大丈夫です。がんばってください。
「……はい!」
祠さんはサリーの部屋に向かうのはとりやめ、しばらく庭に佇むことにしたようです。
民宿内の宿泊客は対象者だけでしたが、ジェームズ死亡の通報によりすでに警官が到着していたことで、エレナの悲鳴が彼らも起こしたようです。
民宿内が慌ただしくなりました。
あ、死亡したボブが見つかりました。あの状態だと一瞬「どっち」かわからないので、さらに恐怖をあおることになるでしょう。
続いて部屋から出たサリーが、騒ぎから離れるようにして庭に面した廊下に出てきました。
ここは庭が一望できるので、祠さんを発見できるはずですが……あ、これは……祠さんが人間としての姿を保っているからでしょうか、サリー、祠さんがなんであるかを気づいていません。
スルー、スルーです!
しかしながら、サリーを追いかけてきた女将は気づきました。
……すごいデシベル数を叩きだせそうな悲鳴です。
逃げた女将が戻る前に、祠さんは離脱しました。
はい、ここで情報が入りました。
やはり女将はあまり英語に堪能ではなく、かつこのグループ内は学者以外は日本語が拙いとのこと、その上で学者死亡のショック状態でまくしたてていたため、祠の破壊状態が正確に伝わっていなかったため、女将はまず警察を手配したというわけですね。
これにより寺社の介入が遅れることが見込まれる、かつ一度警察が介入したことで今後も寺社の動きが鈍くなるあるいは制限されると思われます。
これは今後も使えそうなノウハウですね。
さて、女将はどうやら朝を待って村長以外に寺にも連絡を入れるようですね。
おや、電話の有る受付の前を祠さんが横切りました。
聞こえましたでしょうか、断末魔を思わせるような絶叫でしたが、女将は死んでいません。
気絶状態です。
祠さんは直接手を出さず、姿を見せることで女将に圧を与える形をとったようですね。
今回の祠さんは祠に直接害を与えたグループ、ならびに向こうから接触を持ってきたものを対象者にし、また一度目の民宿侵入時に対象者を増やさないルートをとりましたが、この範囲の接触であれば女将は対象者に含まれません。
ですが、この先祟りを直接邪魔するなどの行動があると、対象者化することになります。
……まぁ、その対象者の範囲については、対象者ならびにその周囲が知るすべはありません。
ひとまず完全に怯えたあの様子なら、その可能性はないようですね。
このあと目を覚ましたら、一応寺に連絡は入れるかと思われますが、それ以上にはかかわってこなくなるでしょう。
祠さんが戻りました。お疲れさまです。
先ほどの女将への警告ですが……
「はい、本来の対象者を獲るのを優先して、今回はあれまでに留めました」
なるほど、メインターゲットを確実に仕留めるのを優先したわけですね。
「到着した警察官が地元の人間ではなかったのが決め手でした」
……ああ! なるほど、地元であれば伝承を知っている可能性があった。
「はい。その場合は逆に寺が夜明けを待たず入ってくる確率が高くなるので」
ありがとうございました。その点を見落としていましたね。
これは地元密着ゆえの視点ですね。
「すいません、ここからまた一旦中断を宣言しますが、対象者の監視は続けます。再開は二時間後、通報が入ってからの予定です」
はい、ではその時間まで、皆さんお待ちください。二時間後まで、ごきげんよう。
皆さんお待たせいたしました。再開の時間です。
祠さんの再開宣言がかかりまして、さっそく対象者トーマスの部屋へ。
相変わらずエレナはここにいるようですね。
さぁ、昨夜と同じく同衾状態のままのエレナに乗りかかります。
気配を感じて目を覚ました時には、胸の上に祠さんがいること、また金縛りで身動きはとれず、さらに隣に寝ているトーマスには気づいてもらえないという絶望を味あわせながらじりじりと窒息させていきます。
顔と目が助けを求めていますね。ここでトーマスが運よく目を覚ませば助かります………………間に合いませんでした。
三人目、クリアしました。
トーマスは目を覚ました瞬間に恋人の死体とご対面というわけです。
ここでトーマスはエレナの味わった絶望の逆側面を味わう、と。
これは高得点です。
おや、どうやらトーマスの眠りが浅くなったようですね。
いった! 大絶叫!
これは明らかに変死、そして隣にいた第一発見者ということもあり、事情聴取が入ります。
日本の法律において、呪殺は罪になりません。
これは呪うという行動と死亡の事実の因果関係を立証できないから、といわれておりますが、また視点を変えれば「呪殺」という死亡原因は法律上認められないとみることもできます。
エレナの死因はおそらく窒息となると思われますが……はい、昨夜女将の呼んでいた警察官が部屋に駆けつけ、一旦トーマスを連れ出しました。
ここから先、トーマスは所轄警察署に連行となりますね。
またサリーは現場検証のため、この民宿を出るようになると思われます。
あ、祠さんから通信が入りました。どうぞ。
―――このままトーマスを追いかける形で、警察署に向かいます。
サリーはその間フリー状態になりますが、大丈夫ですか?
―――はい、サリーは学者に話をきちんと聞いていましたから、異常事態において自分たちのしたことと結びつけられると考えました。
なるほど、サリーであればこの後の行動が読み切れる、と。
「はい。ここからは二画面をお願いします」
了解しました。
それでは視聴中の皆さんにも、ここから二画面で状況を追っていただきましょう。
画面を半割します。
「では再開します」
祠さんが再開を宣言しました。
左右での進展をお楽しみください。
現在、祠さんは皆さんから向かって左の画面、サリーは向かって右の画面担当者が追いかけています。
祠さんは画面でパトカーを追いかけています。
サリーはどうやらよく眠れなかった様子ですね。
おや、荷物からノートをとりだしました。
常人としては強靭な精神です。
どうやら昨日からのことについて、纏めているようです。
何かせずにいられないのか、それとも恐怖から目をそらすためか、いずれにせよ彼女の中では祠を壊したことが原因なのではと結論が出つつあるようですね。
背後からズームで……ノートの紙面に描かれているのは祠さんの祠です。
彼女の日本語は拙いので、日本語で「祠」を書けない模様。
ああ、それに? crashと単語を加える、と。
なるほど、文章は無理でも単語なら伝えられますね。
サリーは体を震わせていますが……祠さんは現在別画面でパトカーを追いかけて移動中ですので、単なる彼女の気のせいです。
祠さんが対象者として見ている、つまり獲物であることは周囲に伝わっているので、小物も手出しを控えている状態です。
あ、祠さんが警察署へ到着したようです。
そのまま後を追いかけ、取調室のトーマスの前、警察官の後ろに佇んで独り言のようにジェームズにいった言葉を繰り返しています。
これは他の祠さんの攻略時にもあった事例ですが、最初は祠さんの気配も感じられなかった鈍感さんが、接触のみならず接近によっても回数を重ねると気配を感じ、見え、聞こえるようになります。
何度か祠さんに接近したトーマスだけに、感度も上がっていますから見えるはずです。
おや、今回は進行が早いようですね。
聴覚にも達しているようで、最初に見回した後で祠さんに焦点が合った瞬間、椅子から転げ落ちるように距離をとりました。
警察官が落ち着かせようとしていますが……トーマスが焦りゆえに早口になっている上に英語ですから、聞き取れないようです。
おっと、サリーの方に動きがあったようですね。
ああ、限界を迎えたようです。泣きだしました。
書きあがったらしいノートを拡大してみましょう。
自分たちが祠を壊したこと、それにどうやらサリーは元からある程度見ることができるようですね。
割としっかりと祠さんをイラストで描いています。
特徴をとらえているので、伝承を知っている人であれば祠さんと理解できるのではないでしょうか。
彼女はジェームズが国内での連絡先にしていたところも、ちゃんとメモをしていたようですね。ここに書き足しています。
……サリーの泣き声が聞こえたものがあったようですね。ノックの音が……おや、おやおやおや。未就学児と思われる年頃の娘が部屋に入ってきました。
サリーを気遣っていますね。
ここで資料が届きました。
この子は民宿の娘で、名前はやよい。
祠さんのことは祖父母から聞かされているそうです。
また、祠を世話する役も担っていたとのこと。おそらく古い慣習なのでしょう。
サリーのノートを見て、それが自分の知っている祠であることを理解したようですね、やよいの顔が真っ青になりました。
これが男性であれば、「お前あの祠を壊したんか!」とお決まりの声がくるところですが、やよいはまだ幼いのでとにかくサリーに何が起きているかを説明しようとしていますね。
オバケのポーズをしたり、鬼の角を指で作ってみたりと、非常に微笑ましい光景です。
ええ、やよいが必死な顔をしていることを除けば。
サリーも祠さんが普通の幽霊ではないと気づいたようです。
悪かった顔色がさらに悪く、青を通り越して真っ白ですね。
そのサリーの手をぎゅっと握りしめています。
落ち着かせるためでしょう。
さぁ、トーマスの方が動きました。
取調の最中に祠さんを警察官の後ろに見つけたことで、金切り声をあげて錯乱したこと、それと取り調べに協力的ではなかったことで、二人がかりで強制的に着席させられていたトーマスですが、時間をかけてやっと落ち着いたようですね。
ぽつぽつと俯きながら、昨日からのことを話しています。
ああ、これはいけません、祠を破壊したことを全く話していない!
祠さんがトーマスの背後に回り、そのままその首に手をかけましたが、正面にいる警察官にはその手が見えません。
祠さんが締め上げていくのに、トーマスは首を掻きむしっていますが、接近による霊感強化の進行の早い彼でも、まだ触れられるほどには強くないので、指が触れることはありません。
正面の警察官にも、祠さんの食い込んでいく指のかたちが見えたようです。
慌てて他の人間を呼びましたが……聞こえましたか? 首が折れました。
四人目クリアです。残るはサリーのみとなりました。
ゆっくりと祠さんが人間の間を縫って退出していきますが、警察官の一人はどうやら霊感があるようですね。祠さんを目で追っていました。
さて、現在の祠さんは四人分の生気を手に入れた状態ですが、残り一人となったことで強化を施すようですので、現在の二画面をそのまま利用して解説します。
強化は一人目からできる仕様ですが、最後の一人に合わせたものにするためのようですね。
まず、基本の女性形から、爪および身体が巨大化、髪も長くなっています。
着衣もぼろぼろの着物ですが、その上からもう一枚羽織っているかたちになりました。
この上着、人間にはどろどろとした闇に見えるので、怯ませる効果が期待できますね。
その状態で祠さんはサリーの所へ移動を開始しましたので、画面をサリー方面の一枚に戻しましょう。
さて、民宿に電話がかかってきて、受話器を取ったのは女将ですが、見る間に顔色が悪くなって震えていますね。そしてサリーの部屋へと。
「出てって! この罰当たり!」
はい、すごいデシベル数ですね。それだけ焦っていたのでしょう。
女将はサリーの傍にいたやよいを引きはがし、抱きしめています。
サリーは「罰当たり」が理解できないようで呆然としていますが、ただ、その表情から感じとることはできたのでしょう。
「出てって! 早く!」
「お姉さん!」
やよいの声にも振りかえらず、サリーは僅かな荷物とノートとともに出て行きました。
「お母さん、どうして! お姉さん助けないと!」
「あいつはね、―――様の祠を」
ああ、危ない危ない。祠さんの名前が出る所でしたが、処理が間に合いましたのでご安心ください。
さぁラスト一人です。
外に出て行ったサリーをカメラと祠さんが追いかけます。
あまり日本語が得手ではない彼女ですので、あらかじめメモから引き写していた連絡先への電話は諦めたようですね。
一旦物陰で端末を取り出しましたが、カバンに仕舞いました。
この道、皆さん覚えておられますか? 祠さんがパトカーを追いかけた道です。
どうやらサリーは警察署に向かうようですね。
あ、情報が入りました。
さきほど民宿に入った電話ですが、警察でのトーマスの最期を知らせるもので、かけてきた警察官は祠さんを目撃した人物だったそうです。
さらに彼は地元民だったと。祠さんの伝承を知っていたため、トーマスを手にかけたのが祠さんであったことに気づいたようですね。
なるほど、祠さんを怒らせた=祠に何かしたと女将が判断したのはここからですね。
ただし、激昂した女将は追い出すことを優先した結果、サリーはトーマスの死亡を知らないままとなっています。
その状況であれば、警察署に向かうのが順当でしょうね。
「ヒッ?」
はい、現在祠さんは民宿方面へと移動中ですので、サリーが警察署への道を通れば当然移動中の祠さんと遭遇しますね……。
道の先の光源のわからないなにかを目撃したサリー、慌てて道を変えました。
現在は寂れているとはいえ住宅地ですが、さほど山からは離れていません。
必死で走るうちに、山道に入りましたね。
実はサリーの前に祠さんはいませんが、手で前を払いながら走っています。
もう幻覚を見ている状態ですね……。
「おねえさん?!」
祠さんの祠へ到着しましたが、……どうやら、彼女がサリーが出て行った直後からやよいがこちらへと向かっていたようですね。
ご覧ください、祠さんの壊された祠を、やよいは修理していたようです。
『どうしてここに! 逃げて!』
「直してたの! 直して、ごめんなさいすれば許してくれるかもしれない!」
英語と日本語ですし、やよいは未就学児ですから会話がかみ合っていませんね。
『あれが来るわ! 逃げて!』
さぁ、祠さんが追いつきました。ゆっくりと近づいていきます。
今はサリーに見えるようにしているので、当然やよいにも異形である祠さんの姿は見えるでしょう。
サリーの背後に祠さんを見たやよいの目が大きく開かれました。
「おねえさん!」
あわててサリーに駆け寄ったやよいが、彼女を背に庇う位置に入ります。
「―――さま、ごめんなさい! おうち、直しました!」
『ごめんなさい! 私はいいの! この子はゆるしてください!』
頭を下げるやよいの姿に、彼女が何を言っているか理解したのでしょう、サリーは逆にやよいの前に出て同じように頭を下げて謝罪しています。
祠さんは……やよいの向こうにある祠を見ていますね。
「もう二度と、こわしません!」
祠さんの口が小さく開きました。
「……リタイアを、宣言します」
リタイア宣言です!
祠さん、確認をします。リタイアで間違いありませんか?
「……はい、もう……ここまでです」
了解しました。判定に入ります。みずのと、よろしく。
視聴者の皆さんには判定が出るまでリタイアについてご説明します。
祠さんが対象者を全員排除し終えるか、生き残りの対象者に逃げ切られるか、リタイアを宣言したときにRTAは終了します。
リタイアでの終了時のみ、判定が行われます。
この時点で生き残った対象者が、残してもいいものであるかというもので、本来殺すと設定した対象者も一定の条件下で助命することができますが……基本的に助命可能なのは一人ということは祠さんも事前に理解・了承しています。
判定で不可が出た場合、ペナルティとして祠さんは助命した相手を殺すまで、RTA終了が認められなくなります……はい、みずのとから判定が出ました。
……セーフ? セーフです!
やよい、サリーの両名とも、伝承者として助命が認められました。
今回のポイントは、やよい、サリーの言語が違うことだそうです。
やよいは地元の人間、サリーは亜米利加での伝承を行うことがありえるため、両名とも助命が認められたというかたちです。
また判定が入るため、同じ条件に見えても次回もこうなるとはいえませんが。
祠さん、RTA成功おめでとうございます。
「あ、 ありがとう、ございます。直された祠に、戻って、眠ります……」
お疲れさまでした。
こちらのRTAの詳細な結果報告については、ホームページ、ならびに編集版でお伝えします。
皆さま、ご視聴ありがとうございました。
それではまた次回のTATARU・RTAライブでお会いしましょう。
読んでいただきありがとうございます。
以下、作中の協会につきまして。
TATARI・RTA協会
かつて祠を壊された神が祟りを実行したおり、幽チューブでライブ実況したところ、映像越しでも視聴者から畏怖を寄進された。
信仰者以外からの畏怖も充分己の力にできたため、同じ憂き目を見た同輩のためにルールを作り、協会を発足。
同輩が畏怖を集め、祠を壊されたあとのたつきの立て直しの元手とできるようシステムを構築した。
協会は通報があればすぐにスタッフを派遣、被害者の支援にあたる。
スタッフであるみずのと、ひのえは協会発足の機会となった祟りで族滅した人間を眷属にしたもの。人間の頃の記憶はすでにない。スタッフはあと五十八人いる。




