第一話 その5
返す返すこのバカ娘が再びご迷惑をおかけいたしましたと、私の頭をねじ伏せるように頭を下げさせるため掌で私の頭を押し付けるようにグイグイと下げさせている。
父上と母上とが居るその席に相対して、検非違使の別当と呼ばれる人が我が家にいた。
いや、ご無事で何よりです、そう言いながら、下碑の出した白湯を飲みながら言った。
続けて、私にこの時期にあの刻限うろうろされていては、いかにも襲ってくださいと言わんばかりです。
しかも我々、検非違使の調査によると、最近酒呑童子や茨木童子の動きも活発となって来ているとの報告も上がって来てます。
私も日々アベノ清明先生の下陰陽道を学んで、先程の術もやっと成功した位です、ミナモト頼光様、ワタナベ綱様、サカタ金時様、ウスイ貞光様、ウラベ季武様と共に警戒を強めている最中に困ります。
それには少々お嬢様は少し、と言ってちらっとこっちを見たかと思うとフッと笑った。
検非違使に、笑われたことに、小馬鹿にされたことに少しカチンときた。
なによ、アベノ清明先生で学んで、あの程度の術がやっと成功ですって。
もしそんな不安定な術、失敗したらどう責任を取るおつもりなのかしら。
と、毒を吐いてやった。
負けじと、検非違使は。
だから、頭でっかちの女子は嫌なんだ、少々和歌や物語が創る事が出来るからと言って、天狗になっているんじゃないですか。
大切にしている創作活動について、揶揄されたものだから私自身火が付いた。
そんな事、関係ないじゃないですか。なんですか大体、私は宴の時にご迷惑をお掛けしたと反省して、しかも私の為に骨を折ってくださった事にお礼を言いたくて、ただそれだけなのに、私の和歌とか創作活動は関係ないじゃない!
顔を真っ赤にして言った言葉に、検非違使はハッとして、しまったといった顔色がありありと伺えた。
でも、私はその事に到底許すことが出来なかった。
だがここで、全く違った方向を向いている人たちが居た。
父上と母上だ。
父上と母上は何を勘違いしたのか、その私たちのこのやり取りを見て、まるで私とこの検非違使との仲がまんざらでもないように映った様で。
どこをどう見ればそうなるのか不思議だった。
急にニコニコ満面の笑みとなり、父上は急に思い立ったように、そうじゃ、そなたの兄に今度、都での普請状況について相談があると聞いておった、お前も暫く兄上に会ってないだろう。
と、母上の兄に会いに行くよう、母上に急に促し出した。
母上も。
ほほほ、そうじゃ、確か兄上のお孫さんが生まれたから、一度見に来てくれともいわれておりました。
そそくさと、じゃあ、後は懇ろに、よろしく。
そうそう、帰りは明日昼過ぎになるので、ごゆるりと、と。
余計な事を。
意味深な満面の笑みを残しながら
となりに住んでいる伯父の家に行ってしまった。
二人の出掛ける様子を目で追いながら、全く、いい意味で、私たちの温度が上がった口喧嘩に丁度水を差して下さった父上や母上には感謝しかない。
と、思っていると、検非違使と目が合って、二人は俯いてしまった。
再びシン、と静かになった家に、鈴虫がリンリン泣いていて。
月明かりが、二人の影を長くして、少しずつ右から左へその角度をかえていった。
月明かりを見ながら、多分、私のこの性格は母上や父上譲りだとつくづく再確認した。
拙作に目を通していただいて誠にありがとうございます。




