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契りきな・・・。  作者: 吉高 都司


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第二話 その3

 館の前について、来訪を下女に伝えた。


 ふと、庭先を見ると、庭先に一輪の花が咲いていた。たった一輪である。


 何と言う花だろうかと、思いあぐねていると、下女が出てきて、本日は故あってお会いする事は出来ないとの返事を持ってきた。


 少し、面食らった、この国の姫が直々に会いに来ているのに、しかも褒美を持って、だ。

 もう一度、確認のため、私が、この国の姫がわざわざ、褒美を携えて、やって来たと、しかと伝えるように、追い返すようにもう一度取り次いでもらった。


 待っている間、もう一度庭先の花に目をやるとそこには、萎れた花が一輪、花弁も落ちかけていた。


 えっ。

 と、先程あった花は何処、と庭先の方に体を向け、目を皿のようにして見回した。


 花を確認していると。


 その花は来る人の心を映すのです。

 彼が庭先から声を掛けてきた。


 随分お待たせいたしました、私の用事は後回しにすることにしました。ところで褒美とはいったい何のことでしょう。

 と慇懃に彼は続けて言った。


 私は、急に声を掛けられたものだから、居ずまいを慌てて直し、先日は見事な扇子の鷹の術を披露し、合わせて、見事だったから褒美をと、殿から直々に私が言付かって来た。

 そう言うと、彼は暫くジッと私を見て。


 せっかく来ていただいたのですから、どうぞ、と、母屋の方に案内してくれた。


 私が上座に座り侍女たちを控えさせ座った。

 侍女の一人が恭しく扇子の入った、漆の箱を掲げなら私の前に置き、殿、つまり父上から託された巻物を広げ、口上と共に読み上げ、扇子の箱と一緒に取りに来させた。


 御城で、学友たちとワイワイやって、学問や武道をやっている時に比べ、格式ばったやり取りは仕方がなかった。

 本当は、いつも通り御城で日常と言う中で渡すことが出来たらと、少し後悔があった。

 でも、彼と個人的に会うにはこの方法しかない。

 しかも御城で個人的に、ものを下賜する事は出来ない、全て作法や、格式があってのことだ。

 息が詰まると言ったらそうだ、しかし今の世はこれが当たり前であった。


 元の位置に彼が戻り、さて、何をしゃべろうか逡巡していた時、ふと、先程庭先で言われた事。

 花の事を聞いてみようと思った。

 彼の答えは、あの花は来客された方の心根を推し量るものです。一度見られた時は咲いていましたが、二度めは枯れて散りかけていたとの事。

 私は、来られる方は誰でも一度は断ります、その時に花の咲き具合を見て会うかどうかを決めます。

 何故なら、私の術を利用しようとする輩が多いのでそうする事に致しております。

 心の底から私に会いたい方を、または、利用しようとする方を選別いたしております。


 つまり、最初来られるときは、皆私に会いたく、良い心根なので咲いておりますが、会えないとなると、折角来たのにとか、利用できないことへの失望とか、口汚く罵って帰られる方がおられます、そういう心根に花は反応して枯れてしまうようにしております、私はその花を見てその様な方には会ういわれはありません。と。



 それを聞いた時急に悲しくなってきて、それと同時に怒りが込み上げてきた。

 彼にそんな風に見られていたのかという、思いが。

 自分では分からないが涙が溢れてきて、つい声を荒げてしまった。


 じゃあわらわはそなたを利用する悪い奴と申すか。

 思わず、怒鳴ってしまった。


 彼は、平身低頭。

 いえ、決してそのような。


 その態度が自分の意思とは逆に一段と荒げてしまった。

 いや、そちはいまそう言ったではないか。


 ああ、ダメだ感情を、涙を止めることが出来ない。涙声になってしまう。

 もうよい、帰る。帰るぞ!もう二度と来るものか!こんな失礼な奴だったとは!


 ああ、二度と来ないなんて言ってしまった。

 涙が止まらない。

 侍女を押しのけ、取るものも取り敢えず、館を後にした。


 後から、侍女の声だろうか、彼の声だろうか。

 入り混じって、私を引き留める声を後にした。


 そこまで、感情が揺さぶられることではないはずなのに、彼に少しでもそのような目で見られたという事が、そうさせた。


 歩きながら。

 涙がこぼれた。

 泣いた。


 ふと空を見ると、夕日が傾き空を真っ赤に染めていた。


 そして、それはその日から数日後に起こった。


引き続き目を通していただき、読んでいただき貴重な時間を割いていただき、誠にありがとうございます。今しばらく、お付き合いくださいませ。

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