第一話 その1
ミカドの館にて、初春の宴が催されると、使者がやって来た。
蹴鞠や、和歌をミカドの御前で披露するといったものだ、この宴の趣旨は、男女の仲を取り持つといったもので、その証拠に年齢制限があり、またそこそこの役職をもっている者限定だ。
上は大納言、中納言は言うに及ばず、八省の正四位などの娘や、親族がここぞとばかりおめかしして、鼻息も荒く将来の婿取りをそれこそガツガツしていて、まあ、辟易している最中である。
まあ、そこに参加している男も男で、そんなガツガツを見破られず、まんまと引っかかるバカを見るのも一興と日和見を決めこんで、キャッキャッしているところを、ボーっ、と人間模様を見ていた。
私の幼馴染は前回の宴によって、婿を刈取り、あれよ、あれよと言う間に輿入れが決まり、今や中納言の内儀となっている、それを聞いた父や母は、やれ早く、決断しないからだ、行き遅れだ何だとうるさいし、やかましい。
私は、そんなことより、日々の事や、些細な事を、和歌や、日記に認めて、みんなに詠んでもらいたい、実際、あのムラサキ式部様と呼ばれている方や、イズミ式部様なんかは、物語、和歌、日記を書き上げ、宮中、都中の女性はもとより、人々に詠まれ親しまれている。
私も、その様な創作活動で何か残したい、何か人々に愛されるような作品を作ってみたい。
日々、そんな事を思っている。それで、わたしというものが、この世に出てきた事の証明できるのではないか。
そう思って、部屋に籠って、父上、母上の五月蠅い騒音を遮断して、せっせと和歌に、日記にと創作に精を出していたら、いよいよ堪忍袋の緒が切れたというのでしょうか、今度の歌会、宴に参加して、めぼしい殿方に見初められなければ、尼にでもなんでも成りなさい、私たちは知りませぬ!といよいよ、退路をふさがれた。
とにかく行って来いと、半ば叩き出された状態で、私はこの場にいる。
はあ、川のせせらぎが今は耳障り以外の何でもない、遠くで、蹴鞠に興じている者の嬌声が聞こえる、川の両岸に対になるように、男女が並んで座っていて、川上から流れてくる盃が自分の所まで来る前に和歌を詠む曲水の宴を催している。
下手くそな歌を詠いながら、キャッキャ言っている。
何だか、媚びを打っている様で、舌の一つでも出してやろうかしら、ベー。
貴殿もこの様な宴はお嫌いで。
声を掛けてきたのは、武者装束の若者、と言っても私とそんなに変わらない男性が蹴鞠を興じている者たちの方に視線を預け、言葉だけ私に語り掛けてきた。
はあ。
突然、男性から声を掛けられたこともあるが、武者装束の男性を見るのはほとんどなく、大抵は、宮使いの官僚姿ばっかりだった。
牛車から時折検非違使、近衛府の方々が警備で都を巡回しているところを見る位で、武者装束姿を間近でみることはほとんどなかった。
それもあって、現実的でない男の人から声を掛けられたものだから、自分でもびっくりする位、なんて間抜けな間延びした返事をしたのだろうと、顔から火どころか、炎が出る位真っ赤になってしまった。
彼の視線が知らない間に、こっちに向けられている事に気付いて、見つめられて、その視線に余計頭に血が上って、早くこの場から去らなければと、慌てて、立ち上がろうとした途端、足元がふらつき、曲水の宴の盃が流れている最中の川に頭から。
ざんぶと、まだ初春の肌寒い時期に、気の早い水浴びを頭からしてしまった。
はじめて、恋愛もの?と呼べるか分かりませんが、お付き合いくだされば幸いです。




