忌み子と呼ばれ見捨てられた令嬢は、転生前はトップアスリートだった・序
※コロン様主催『アフォの祭典』企画参加作品です。
コロンは転んだ。
歩き方がクソ下手だからだ。
でもコロンは歩きたい。
正確に言えば走りたい。
もうすぐ四歳になるコロンだが、三歳までは歩けなかった。
ついでに三歳まで、一言も喋らなかった。というか喋れなかった。
彼女が双子の妹として生まれ落ちた時に、父であるコロンダ子爵は言った。
「忌み子は捨てろ」
このフィオ王国では双子や三つ子は忌み子と呼ばれ、捨てられるとか養子に出されることがよくあった。
捨てろと言われたコロンであったが、お産婆さんのミックがコロンダ子爵を窘めた。
「こんな可愛いお嬢様、捨てるなんてもったいないですよ」
そうかと思った子爵はコロンをすてるのだけは止めた。ただし子爵の愛情と子育て費用は、双子の姉として生まれたココミンだけに、注がれたのだった。
コロンの養育は、もっぱらメイドが行った。
ちなみにコロンダ子爵家には執事が一人、侍女が二人、護衛が一人、メイドも一人。
メイドは朝、日の出とともにコロンを籠に入れ、庭の片隅に置いておく。
メイドは掃除や洗濯、庭の手入れなどを行い、庭に水を撒くついでに、時々コロンに水分を与える。
午後になり、風が冷たくなってくると、籠ごと子爵家の離れに入れる。
何日かに一度、沐浴させる。
夜は離れで一人寝をさせる。
というような、放置プレイ育児であったが、コロンは生き延びた。
その代わり、一歳を過ぎても二歳を越えても、歩けず喋れずという子どもだった。
三歳のお誕生日を過ぎた頃、コロンは喋り始めた。
いきなりたくさんの文節を口にした。
「私はトップアスリートよ。なんでなんで、こんなトコにいるの? オリンピックのメダル候補というのに」
メイドはびっくりして本邸に走る。はわわ。忌み子の見捨てられお嬢が、訳のわからんことを言っている。妖か、あるいはなんかの呪いかと。
コロンはメイドの後を追うように、籠から飛び出る、つもりだった。
が、転がり落ちた。
しかも顔から落ちた。
痛かった。
今まで伝わり歩きもしていないコロンの筋肉では、よちよち歩きも危うかったのだ。
コロンは所謂転生者である。
前世はエリートアスリート候補として、赤羽のトレーニングセンターで、毎日八時間以上練習していた。
欧州での国際大会に出場していて、テロに巻き込まれ命を落としたのだ。南無。
本邸から執事がやって来て、状況を確認する前に、コロンは前世の記憶を取り戻し、現況を把握した。
どうみても此処は日本でなく、雰囲気としてはヨーロッパ系。
練習の合間に読んでいた、異世界系の漫画みたいだ。いやきっと異世界だ。
ともかく三歳児っぽい振る舞いをしないと、まずい気がする。執事の前では、精一杯幼児のふりをした。
その後、執事は双子だからと見捨てられていたコロンを哀れんで、使用人の部屋の隣に彼女を住まわせた。子爵家の父も母も姉も、コロンに会いに来ることはなかった。
数年後。
コロンは走っている。
七歳になる頃には、息切れせずに四里くらいの農道を、スタコロサッサ走れるようになった。
以前よりもまともな食生活になり、体も大きくなってきた。執事や侍女が仕事の合間に遊んでくれるようにもなって、この世界のことが少し分かってきた。
子爵家本邸は、割と風光明媚(ひらたく言えば田舎)なところにある。
毎日毎日走るコロンはそれなりに目立っていたようで、いつの間にかコロンと一緒に走る子どもが増えた。
「ねえ、コロン」
「何? トッシー」
トッシーは執事の息子だ。コロンの遊び相手であり、お目付け役でもある。
年齢はコロンよりも一つ上。横顔が、前世で指導してくれて男性に、ちょっと似ているとコロンは思っている。
「貴族の令嬢が一人で、出歩いていて良いの?」
「良いんじゃない? 歩いてないし、走っているから」
いや、そういうことじゃなくて、とトッシーは思った。
が言わなかった。
走っている時やみんなと一緒に遊んでいる時のコロンは、頬が紅色に染まっていて嬉しそうだ。
コロンの行動を制限するのも可哀そうな気がする。
「騎士ゴッコしようぜ」
前世のチャンバラゴッコなのだろう。
男子がその辺の枝を持ち、振り回している。
「コロンは危ないから下がって」
トッシーがコロンをかばうように立つ。
「えええ、私もやりたい!」
目をキラキラさせて「やりたい」というコロンをとめることは、トッシーには出来なかった。
コロンも適当な枝を手にした。長さが丁度良い。
久しぶりに心躍る。
「ラッサンブレ、サリュエ(Rassemblez ! Saluez !)」
コロンは勝手に宣言し、枝を構える。
対する少年はむやみやたらに、枝を振り回すのみ。
瞬時にコロンは枝を突き出し、相手の首にぴたりと付けた。
「すげえ……」
トッシーは見惚れる。ちょっと自慢気なコロンの笑顔も可愛いなと。
遠くから見守っていた子爵家の護衛も、驚いた。
何度やっても、誰とやっても、コロンの剣さばき(枝さばき)に勝てる子どもはいなかった。
そりゃあそうだろう。
コロンは女子フェンシグのジュニアチャンピオン。日本代表としてオリンピックに出場予定でメダルも期待されていたのだから。
トッシーの父である子爵家の執事は、コロンの才能をこのまま埋もれさせるのは勿体ないと、子爵に進言する。何度も何度も。
渋々と、子爵がコロンを王都の騎士学校へ進学させる気になったのは、コロンが十二歳になってからだ。トッシーも一緒に通うことになる。
ここから、コロン・コロンダの進撃が始まるのである。
序・了
Q:「序」とありますが、「破」とか「急」とかあるんですか?
A:次になんか企画があれば(他者任せ)
お読みくださいましてありがとうございました!!