第6話 目 歌声
これは私が中学生の頃に体験したお話である。
私の学校にはちょっとした噂があった。
渡り廊下の先に理科室、理科準備室があり
その隣にはあまり生徒が使いたがらない
トイレがあった。
汚いとかではないのだがちょうど日が差し込まず薄暗く
理科室の気持ち悪い展示も相まってなのか
みんな明るい教室側のトイレを多く利用していた。
ちょっとした噂というのはトイレに入っている時
隣の個室から歌声が聞こえるというものだった。
私は半信半疑で噂を信じておらず
隣の個室に他の生徒が
たまたま入って鼻歌でも歌ってたのでは?と思っていた。
それに全然使わないトイレだから
遭遇することもないだろうとも思っていた。
ある日の午後の理科の授業で実験室を使うことになった
渡り廊下の先理科室に向かう
昼間なのにも関わらず薄暗くシーンと静まり返っている。
確かに不気味な空気が漂っていた。
授業が始まって実験中しばらくするとトイレに行きたくなった。
半信半疑とはいえ
薄暗いトイレに入るのは気が引ける...
でも、渡り廊下を戻って教室側のトイレはかなり距離が離れていた
仕方ない...
先生にトイレに行きたい旨を伝え
渋々理科準備室横のトイレに向かう。
準備室のガラスケース内の展示がより不気味さを出している。
だいたいこのホルマリン漬けなんなんだ?
気持ち悪いなぁ..と思いながら横を通り過ぎた
すぐトイレの入り口が見える
日が差さない為薄暗く教室から離れてることもありやけに静まり返っている。
早く用を済まして戻ろう...
半信半疑とはいえ噂のせいで耳を澄ましてしまう
でも誰かが入ってきた様子はない
入る時に見たが隣も向かいも個室のドアは空いていた。
何後ともなくトイレを流して
ドアの取っ手に手をかけた時だった。
「〜♪♪」
隣の個室の方から鼻歌のようなのが聞こえる
えっ?....
でも誰も入ってきたような足音もしてなければ個室が閉まるような音もしてなかった。
ゾワッとした感覚
ドアノブに掛けた手が震える
お、音楽の授業の音かも...?
と自分に言い聞かせようとするが
音楽室は
渡り廊下を渡り教室の1番奥つまり真反対
こんなにはっきり歌声が聞こえるはずがない...
冷や汗をかきながら歌声が止まるのを息を潜めて待っていた
「〜〜♪♪」
心なしか音が大きくなっている気がする
音が近づいてくるような感覚に
居ても立っても居られなくなり
ただの生徒かも..
大丈夫...
と言い聞かせ
意を決して扉を開け脇目も振らず走り廊下に飛び出した
遅いと思った担任が様子を見に出てきていた。
「遅いぞ?大丈夫か?」
「せ、先生誰もいないのに歌声が聞こえて」
必死に話す私にため息をつきながら
「よく見てみろ誰もいないだろ?」
とトイレの中を指差した
全ての個室は空いており
もちろん私の隣も誰も入ってなどいなかった。
あの歌声は何だったんだろうか...
この出来事から
トイレに行きたくなってもここのトイレは使わなかった。
またあの歌声が耳元で聞こえてくるかもしれないから。