第3話 目 ズルズル
これは私が小さい時祖母の家で体験した話である。
祖母の家は一軒家で二階建て
上の階には兄、母、祖母の部屋
下の部屋には祖父が寝てるかなり広い畳の仏間があった。
壁にははめ込み式の立派な仏壇があり
広々としたその部屋は私のお気に入りだった。
秘密基地ブーム
座布団を家みたいに組み立てて秘密基地にする
今考えたら秘密基地でもなんでもないのだが
当時の私はそれにハマっていた
座布団で作った狭い空間は自分だけの空間なような気がして落ち着くのだ
ある日家のみんなが用事があり1人で留守番をする事になった。
もちろん速攻で仏間に行き
その日も座布団を組み立てると中に入り
秘密基地を堪能していた。
1人で留守番も相まってドキドキして楽しかった。
仏間の扉は引戸式のすりガラスになっていて
うっすらすりガラスの向こうが見える
それをぼぉっと眺めながら
段々と眠くなりうつらうつら..していた
どれくらい経っただろうか
どうやら少し寝てしまったみたいだ
まだ誰も帰ってきていない
時計の針の音だけが部屋に響いていた。
ふとすりガラスが目に入る
向こう側にうっすら階段と階段下の収納が見えている。
何気なく見ていると
女の人がいる真っ直ぐ廊下の先お風呂場の方へと歩いていく姿が見えた
怖いが目を離せず
震えながら座布団を抱きしめていた
長い髪の毛を
ズルズルズルズル...ズルズル..
と引きずる音がする
ザーッ
髪を擦りながら女消えていった。
今見たものが怖いより不思議という気持ちが勝っていた。
「ただいまー!ちょっと荷物取りに来てくれなーい?」
玄関から母の声が聞こえる
私は呆然としててすりガラスを開ける気にはならなかった。
私が出てこないのを不思議に思った母がすりガラを開け私と目が合う
呆然としてる私を見て
「呼んだのに って...あんた、どうしたの?」
不思議そうに私の顔を覗き込む。
今目にした女の事を母に話した。
母は目を丸くした後
ちょっと嫌な顔をしながら
「その女私も見たことある」と話しをしてくれた。
それはこの家に住み始めたばかりの頃
その日は知り合いの法事に家族が出掛けており
母は1人で留守番をしていた。
仏間でゆっくり過ごしていると廊下の方から
ズルっ..ズルズル...ズルズル...
と何かを引き摺るような音がする。
なんの音?と思い廊下の方に目を向けると
すりガラスの向こうに白いワンピースを着た女が
歩いているシルエットが映し出されていた
家族は皆出掛けており母1人のはず
廊下の奥お風呂場の方に向かっていく女。
ざぁーっ
長い髪が擦れる音と心臓の鼓動だけが響くその髪は人間の物とは思えないほど以上な長さをしていた。
姿が見えなくなったと同時に恐怖のあまり
母は仏間のすりガラスを開け玄関から飛び出した。
ちょうど知り合いと一緒に帰ってきた母(祖母)が
「あんた、どうしたの?そんな血相変えて」
びっくりした様子で心配そうにしている。
「か、髪の長い女がズルズルって!お風呂場の方に!」
尋常じゃない様子の母を横目に中に入っていく
すぐ戻ってくると
「何も居ないわよ..あんた、寝ぼけてたんじゃない?」と呆れた様子で言われたそうだ。
「同じ女の人を見たんだろうね...やっぱり夢じゃなかったか」
と言うと母は台所の方に向かっていった。
私が見たのは同じ女だったのだろうか?
何者なのかはいまだに分からない...
姿を見たのはその一度のみだった。