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忘れられ姫は精霊の愛し子でした~鏡屋さん始めます~  作者: はにか えむ


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66.発覚

 運命の日の朝がやってきた。イデアは時間より早く目が覚めた。隣ではまだルーラが寝息を立てている。部屋の中はまだ暗いのでろうそくに火を灯すと、着替えを始めた。

『イデア、今日はがんばってね。私、応援するわ』

 ふさふさのしっぽを振りながら近づいてくるアゲハを抱きしめると、ふと疑問に思ったことを聞いてみる。

「アゲハは、私が使命を果たしたら居なくなっちゃうの?」

『……きっと戻れと言われるわ。私はイデアのサポートのために生み出されたものだもの』

「そっか……寂しいね」

 アゲハは初めて会った頃より感情豊かになった。イデアに出会った当時は本当に生まれたてで、人間の感情がわからなかったのだろう。

 でも今ではイデアに共感してくれることが多くなった。アゲハはただのサポート役なんかじゃなく、大切な友達だとイデアは思っている。

 呪術を使うやつらを捕まえたら、使命は終わりなのだろうか。そうしたら、アゲハとも離れ離れになるのだろうか。イデアは不安だった。

 

「イデア……? もう起きてたの?」

 ルーラが目を覚ますと、イデアはいつものように笑う。ルーラは心配性だから、悲しい顔は見せられない。

「着替えたらビィさんの所に行こう。あ、その前にエヴェレットを起こそうか」

 努めて明るく言うと、ルーラはあくびをしながらのろのろと着替え始めた。

 ルーラが着替え終わるより早く、扉を叩く音がした。

「おーい、起きてるか?」

 エヴェレットの声だとわかったので、返事をしてルーラが着替え終わるのを待って扉を開ける。

「よく眠れたか? ビィさんが連れて来いって言うから迎えに来たぞ」

 いわくエヴェレットは、二時間ほど前にビィさんと一緒に起きて先に騎士たちの宿舎に行っていたらしい。手伝えることはあまりなかったそうだが、騎士たちの指揮をとるビィさんはかっこよかったと興奮気味に語っている。

 イデアたちはエヴェレットが持ってきてくれたパンを齧りながら一緒にビィさんの所に向かう。騎士たちの宿舎というのは普通の宿を貸し切ったものだった。

「ああ、来たか。もうすぐ出陣する。そうしたら三人は孤児院前の広場で待機してくれ。他にもカティア姫と数名の騎士がそこに待機するから、なにかあったら邪魔にならないように下がっていろ」

 ビィさんは忙しいだろうにわざわざイデアたちの所まで来て声をかけてくれた。いつもと違って黒い騎士団の隊服を着たビィさんを見て、イデアははなんだかとても不安になった。

 ああそうか、ビィさんが着ている隊服は、いつも父が着ていたのとおなじ色だ。イデアはビィさんが父のように帰ってこないのではと思ったのだ。

「ビィさん、ちゃんと帰ってきて下さいね」

 イデアは不安を振り払うために、ビィさんに小指を差し出した。

「ああ、もちろんちゃんと帰ってくる。約束だ」

 イデアの小指に同じように小指を絡めて約束してくれるビィさんに、イデアは少し安心した。

「じゃあ、行ってくる」

 ビィさんは、そのまま振り返ると騎士たちの元へ行って指示をだす。すぐに出陣の合図が鳴り、イデアたちは最後尾に並んで騎士たちについて行った。

 

「なあイデア。さっきのは何だ?」

「さっきのって?」

 速足で騎士について行く途中に、エヴェレットが小声で聞いた。

「なんかビィさんと変な握手してたろ」

 そう言われて初めて、イデアは気がついた。小指を絡めて約束する文化など、この世界には存在しない。

 イデアの体から血の気が引いた。だってそれを知っているのは、イデアの家族だけだ。ありえない。違う。だって、声も、顔も、何もかも違う。

 父は、母を捨てて、他の女の元にいるのだ。だって、伯父がそう言った。本当に?

 伯父はイデアを憎んでいた。伯父の言葉を信じてよかったの? わからない。

 イデアはその場に立ち尽くした。

「どうした? 大丈夫か?」

 蒼白で立ち止まるイデアの肩をエヴェレットが揺さぶる。イデアはの目からは涙があふれていた。突然泣き出したイデアに、エヴェレットとルーラは仰天している。

 

「あらまあ、気がついたのね」

 立ち止まって泣くイデアの手を優しい手が掴んだ。イデアは思わすその人を見る。

 そこには母に似た、優しい笑顔があった。

「信じてあげて。きっとリリーシュはいつも、そう言っていたでしょう?」

 そうだ、母はいつもイデアに言った。父を信じていると。イデアは信じられなかった。だって前世の父が母を裏切っていたから。同じ思いは二度としたくなかった。

 ますます、イデアは涙が止まらなくなる。父に会えて嬉しい思いと、恨み言が頭の中を駆け巡って、自分の感情がよくわからない。

 伯母にゆっくりと手を引かれ歩きながら、イデアはしばらく泣き続けた。

  

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