65.作戦会議
「それでフランクの潜伏先と、どのような作戦を考えているのか教えてください」
カティアは真剣な顔に戻ると、ゼイビアに問いかける。
「彼らの潜伏先は国で運営している孤児院です。教会で運営しているものとは違うので、子供がいなくなっても気づかれなかったようです。街の人は孤児院自体が無くなったと思っていたようですね。書類上では複数の子供がいてその為の費用が使われていることになっていました」
「そこにいた子供たちは……」
「恐らくもう生きてはいないでしょう。……数日張り込みして人の出入りをチェックさせましたが、孤児院内部に潜伏しているのは十数名。孤児院から別の場所に移動するものもいなかったので、きっとこの街の拠点はそこだけでしょう。周囲の精霊の様子に異常はなかったので、城を抜け出した時のような大規模な儀式は行っていないと思われます」
ゼイビアは一旦話を止めてカティアを見る。カティアは眉をひそめて考え込んでいた。
「フランクたちが見つからないわけですね。孤児院はクリーズメイの端にありますし、孤児が居なくなった後、建物を誰かが占拠していても村人には気にされない。書類上は正常に運営されていることになっていることを考えれば、恐らく領主かその補佐も関わっているとみていいでしょう。きっと補佐でしょうね」
補佐が関わっているというのはミラメア王族の勘だろうが、妻を知っているゼイビアからすれば信頼に足る的中率だ。ゼイビアは領主を疑う必要は無さそうで良かったと思う。領主が絡んでいたら色々と面倒なことになる。
「念のため、領主の協力を仰がず拠点に攻め入ろうと思っています。……ミラメアの兵はなんと言って入国したのですか?」
「一応領主が関わっていることを疑って、禁制品が密輸された可能性があるから調査のためと言って入国しました。正解でしたね」
ただの深窓の令嬢だと思っていたカティアは、意外に頭がきれるようだ。ゼイビアはミラメア兵の指揮はカティアに任せてよさそうだと安堵した。
「イデアは騎士による制圧が完了した後、邪術がかかった物だけ外に出して浄化してもらおう思います。……内部には子供に見せられないようなものがある可能性が高いですし」
「それがいいでしょうね。……少なくとも孤児院に元々いた子供たちは邪術のいけにえにされているでしょうから」
ゼイビアは城の光の間の騒動を思い出した。思い出すだけで吐き気がする、凄惨な光景だった。
「では、襲撃は明日の早朝でいいですか? 明日までゆっくり体を休めましょう」
それから双方の兵の代表者を呼んで明日の作戦について話し合った。中の人間を逃がさないように包囲しながら制圧する作戦だ。
話し合いが終わるとゼイビアは作戦を伝えるため子供たちの元へ向かった。宿の店員から人数分の食事を受け取ってイデアとルーラの部屋に行くと、エヴェレットも一緒にいたためそのまま伝えることにする。
「作戦開始は明日の早朝だ。騎士が内部の制圧を完了するまでイデアたちは指揮官の元にいてほしい。念のため前に使っていた気配隠しの術を使えるか?」
イデアがアゲハとなにやら話している。アゲハの言葉はゼイビアには聞こえないが、きっとできるか相談しているのだろう。小さな犬と顔を寄せ合って話すイデアの愛らしさにゼイビアの緊張は解けていった。
「大丈夫です。できます」
「そうか、なら安全な場所で待っていてくれ。明日は早朝から忙しいからな、今日は遊んでないで早めに寝るんだぞ」
三人とも自分達が戦いに参加できないことは十分わかっているのだろう。誰も不満を口にすることはなかった。
「イデアは私が守るからね!」
そう言って弓を握りしめるルーラに一抹の不安を覚えはしたが、そもそも内部の人間を逃がさないように作戦は立ててある。ルーラがその弓を使うことはきっと無いだろう。
ゼイビアはエヴェレットを連れて女子部屋から出ると、男性部屋に入る。
「あのビィさん。ビィさんとアドニスさんも、中に入るんですか?」
エヴェレットの心配そうな声に、ゼイビアは頷いた。
「魔物化した俺たちの戦闘力は高いからな。作戦からは外せない」
「……そうですか。……無事に帰ってきて下さいね」
ゼイビアは昔を思い出した。イデアはゼイビアが仕事から戻るたびに、小さな小指を差し出して早く帰ってきてねと言っていた。王子であり騎士でもあったゼイビアは、その度に絶対に生きて帰ろうと思っていた。
今回も絶対に生きて帰る。そしていつかイデアに父だと打ち明ける。ゼイビアは心に誓ったのだった。




