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忘れられ姫は精霊の愛し子でした~鏡屋さん始めます~  作者: はにか えむ


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64.義姉

 ゼイビアたちが宿に泊まって数日が経過したころ、やっと騎士の補充とフランクの潜伏先を割り出すことができた。

「関係者とみられるフランクの行方を掴めた今、騎士団に任せた方が安心かもしれないが、イデアの力はきっと必要になるだろう。大捕り物になるがついて来てくれるか?」

 本当ならイデアを連れて行きたくはないが、愛し子だから連れて行かないわけにはいかない。念のためイデアとアゲハとルーラとエヴェレットは常に離れずいるように言いつけた。

 

 宿を出る準備を済ませると、一行はクリーズメイに入った。ここが世界一厳しい入国審査基準を持つ神聖ミラメアとの国境の街だ。見回すと精霊王の信徒と思われる人が多くいる。

「ミラメアほどじゃないんだろうが、精霊の祝福持ちが多いな」

 精霊が見えるエヴェレットが言うので、イデアも馬車の外をそっとうかがっている。確かに精霊がくっついている人間が多い。

「みんなミラメアに移住希望なのかな?」

「いやクリーズメイ自体が精霊王の聖域であるミラメアに近いから、ほかの街より祝福持ちが生まれやすいって聞いたことがある。この街の住人なんじゃないかな?」

 ルーラとエヴェレットが話す間に、馬車はある宿の前に止まった。ここがミラメアの使者と約束している宿だ。大まかな連絡はしてあるが、ミラメアから戦力の応援があるかなど、確認しなくてはならないことが多くある。

 アドニスに馬車を任せて子供たちを連れて先に宿に入ると、一人の女性が話しかけてきた。

「お久しぶりです。もう二度と会う事はないと思っていましたが、また会えて嬉しく思います」

「……カティア姫」

 ゼイビアは夢でも見ているのではないかと思った。カティア姫。愛する妻であるエルの姉で、今は国内の貴族に嫁いでいたはずだ。エルとの結婚が決まった時に食事会で一度出会っただけだが、妻とよく似たその顔を忘れることはない。

「覚えていてくださったのですね。嬉しいことです。元々はクリーズメイを案内するために来ましたが、そちらはすでに標的を発見したそうですね。ですから今日はミラメアの兵を指揮するために参りました」

 そこまで言うと、カティアはひざを折ってイデアに目線を合わせると、じっと見つめる。

「あなたが愛し子ですね。私はカティア・ローデンス。トツカ帝国王家に嫁いだリリーシュの姉です。……とてもあなたに会いたかった」

 最後の一言は愛し子ではなくイデア本人に向けられたものだと、ゼイビアは気がついてしまった。この人はつまりはイデアの伯母だ。初めて会ったがイデアの正体を知っているのだろう。

「リリーシュ様の姉ってことは王族の人ですか!?」

 ルーラが驚いて叫んだ。神聖ミラメアから初めてトツカ帝国に嫁いできたリリーシュ姫の名は庶民の間でも有名だ。

「私はすでに結婚しておりますので、王族ではありません。だから国を出てここ来ることを許されました」

 神聖ミラメア王族は、それこそ妻のように精霊王の託宣が無ければ国外に出ることはない。いいや、許されないのだ。王族の血を引くカティアも本来は同じはずだ。

 

「イデア、ルーラ、エヴェレット。先に部屋に行っていてくれ。……カティア姫と話したいことがある」

 ルーラが抗議の声を上げるが、イデアとエヴェレットがなだめながら部屋に連れて行った。

「……申し訳ありませんでした」

 カティアには言わなければならないことがたくさんある。ゼイビアの迂闊さから、妻は死んだのだ。

 カティアがどこまで知っているのかわからない、しかし妻が昔言っていた。ミラメアの王族はカンがとてつもなく鋭いのだと。きっと妻と同じでカティアもまるで預言者のようにゼイビアの心境を言い当てるだろう。

「それは何に対する謝罪でしょう。……私はリリーシュをあなたの妻にするよう精霊王様から託宣があった時に妹との永遠の別れを覚悟しておりました。……私があなたと妹の間に何があったのか知ったのは、最近のことです。ミラメア王族のしきたりに従い、妹に手紙すら出せなかった私はあなたを責められない。……それに妹が死んだ原因はフランクにあると私は思っています。だから仇を討つべくここに来たのです」

 カティアはゼイビアを責めなかった。ゼイビアはいっそなじられた方が楽になれるのではないかと思ったが、首を振ってその考えを捨てる。妻を死なせたことは、ゼイビアが一生背負って生きなければならない罪だ。

 

「イデア……あの子は可愛いですね。色彩はあなたに似たのでしょうが、顔立ちは妹そっくり。父親だと明かさないのですか?」

 カティアに問われてゼイビアは言葉に詰まった。

「勇気が……ないのです。イデアはもう父親はいないものとして生きている。俺が名乗り出てもイデアを困らせるだけではないかと……」

 カティアが妻に似ているからだろうか、ゼイビアの口はするすると弱音を吐き出した。今まで色々な言い訳を自分にしてきたゼイビアだが、根底にあるのは不安だ。イデアに拒絶されることがたまらなく怖ろしいのだ。

「そうですか……でもきっと大丈夫ですよ……あなた達は」

 カティアがそう言うと何もかも大丈夫に思えるから不思議だ。ミラメア王家特有の予言めいた物言いに、ゼイビアは少しの勇気をもらった。

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