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6.お母様との日々6

 その日を境に、屋敷に使用人が来ることは一切なくなった。

 きっと侍女頭が手を回したのだろう。

 イデアは母の腕に抱かれながら、伯父がイデアたちを憎んでいるようだと相談する。

「ああ、やはりそうなのね……」

 母は何やら訳知り顔だった。伯父は憎きミラメアと言っていたから恨みは深そうだ。

「ミラメアの王女が他国に嫁がないっていうのは有名な話でね。でも求婚者は後を絶たないの。それぐらいミラメアには力があるから。あなたの伯父様も、熱心に交渉してきた一人だったわ」

 それだけで母を憎んでいるとしたら相当な逆恨みだ。イデアは憤慨する。

「ところがある時、知性を持った強大な魔物がミラメアを狙ったの。ミラメアの聖結界に阻まれたのだけど、執拗に攻撃してきてね。偶然近くにいたトツカ帝国の騎士団が討伐に協力してくれたのよ。その時騎士団の指揮をとっていたのがお父様なの」

 お父様と聞いてイデアは微妙な気持ちになったが、顔に出さないように気を付ける。

「ミラメアは感謝して、魔物を倒した第二王子とミラメアとの婚姻を許可したの。条件付きだったけど。熱心に求婚の手紙を送ってきていたのは、第一王子のほうだったのにね。彼からしたら、狙っていた獲物を横から掻っ攫われたようなものなんじゃないかしら」

 イデアには伯父の心情がよくわからなかった。母のことが好きだったのか。そんなそぶりはなかった気がする。

 

「イデア……何かあったらすぐにお父様の所か、ミラメアに逃げなさい。私の体力では一緒に行ってあげられないから……」

 イデアは返事をしなかった。前に飲んだ銀の角の効果は、もう薄れてきている。きっと母も体力が落ちてきているのを感じているのだろう。

 イデアは無理やり笑顔を作った。

「わかった、お母様。何かあったらすぐに逃げるから。もう少しここで暮らそう」

 母は悲し気に目を伏せる。イデアが母を置いていけないことをわかっているのだろう。

「そんな事より、今日からどうしようか。掃除とか洗濯は私がやるけど、問題はご飯かな?」

 勤めて笑顔で話すイデアに、母の頬には涙が伝う。

「ごめんね……」

 その姿は前世の母にそっくりだった。泣かないでと、イデアは思う。大丈夫だ。前世では動けない母の代わりに、掃除も洗濯も料理も全部イデアがやっていたのだから。母にはゆっくり休んで、早く元気になってほしいというのがイデアの心からの願いだ。

 

 離れの屋敷にも厨房があるが、長い間使われていないようだった。

 それよりも切実なのが食材がないことだ。イデアは城の食糧庫に忍び込むことにした。

 侵入にあたって、まずは服を整える。屋敷に備えられている使用人用の部屋から使用人のお仕着せを見つけると、イデアはそれを纏った。

 一番小さいサイズでも少し大きかったので袖をまくった。

 次にリボンで髪を高く二つに結んだ後、三角巾で髪が前に落ちてこないように押さえつける。

 少々不格好だが、隠密行動には最適な見た目になったのではないかとイデアは思う。

 イデアは使用人が忙しくしている時間を狙って城の外れにある食糧庫まで走った。

 

 食糧庫の中には、大きな木箱がたくさんあった。イデアは一つ一つに頭を突っ込むと中身を確認してゆく。

「パンは焼かないとないなぁ……あ、米がある。お母様が食べやすいようにリゾットにしようかな」

 イデアは持ってきた籠に必要な食材を入れると、また駆け足で屋敷に戻る。

 イデアは前世で生活保護を受給するようになってから、節約料理を色々と研究していた。

 母が医者だった頃は、お金に余裕があったのでお店で売っている弁当などを買って食べていたが、生活保護になってからはそんな贅沢はできない。

 でも前世のイデアはひとりでお弁当を食べるより、母と一緒に食べる食事の方が好きだった。

 医者だった母は忙しかったから、イデアはずっと寂しかったのだ。

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