57.教会1
翌日イデアは昼前に目が覚めた。起きた時は驚いた。朝食の支度を手伝わないといけないのに日が昇っていたからだ。
どうやら疲れているであろうイデアに気を使って寝かせておいてくれたらしい。
「あ、イデア起きた」
「ちょっとスープ飲んだら出かけようぜ」
部屋から出るとアランさんとロランさんが待っていた。ロランさんが大なべからスープをすくってくれる。
「カフェに寄るから少しな」
具沢山のスープは美味しい。旅の間はイデアがスープを作っていたが、干し肉で出汁をとった簡単なスープだった。野菜がごろごろと入ったスープは久しぶりでもっと食べたいなと思ってしまう。
イデアの横ではアゲハもスープをもらっていて美味しそうに飲んでいる。旅の間はアゲハはほとんど食事をとらなかった。あまり美味しくないことがわかったからなのか、食糧の残量に気を使ってくれたのかはわからない。
食事がすむと、早速着替えて家を出る。アゲハを抱えて白い屋根の大きな教会を目指した。
「教会って帝都のどこからでも見えるけど、歩くと遠いよな」
「近い感じするんだけどな……大きすぎるから」
教会は貴族街の入り口にある。ちょうど二つの区域をまたぐように作られていて、貴族用の入り口と平民向けの入り口があるのだ。
教会は高くそびえる大きな鐘がついた白い屋根がその存在を主張している。帝都の建物は二階までの決まりがある中、貴族の屋敷と教会、城だけが高層階の建物を建築することを認められているのだ。だから遠くからでもよく見える。
「わあ、綺麗」
やっと教会の入り口にたどり着くと、イデアは感動した。教会の中はたくさんの植物が植えられていて、精霊がたくさんいた。精霊の放つ淡い光が、昼間でもよく見える。幻想的な光景だ。
「弱ってる精霊が多いのかな?」
『教会は精霊王の力が濃いから、傷ついた精霊が休みにくるのよ』
「へえ、そうなんだ」
精霊たちはイデアを見つけると手を振ってくる。それに手を振り返していると、アランさんとロランさんがくすくすと笑った。
「イデアは精霊と仲良しだね」
「やっぱり精霊も愛し子だってわかるのかな?」
『そりゃあわかるわよ。イデアからは精霊王の気配がするもの』
アゲハの声はアランさんとロランさんには聞こえないが、二人の疑問に答えている。イデアが精霊王とつながっているから、気配もするのだろう。
「まずはお祈りしよう。そしたら展示室に案内してもらおうか」
アランさんが扉を開けると、そこは円形のホールだった。中央にまるでプールのように綺麗な水がたまっていて、美しい台座に取り付けられた鏡が鎮座している。鏡はまるでミラーボールのように球体の全面に取り付けられていて、どこに立っても鏡に映りこんでしまう。
その水場を囲むように取り付けられた椅子では何人かの人が祈りをささげていた。
この場には外以上に多くの精霊が居て、イデアはあまりの眩しさに目をすがめる。
「ここは平民用の祈りの場だよ。見たことないけど貴族用はもっと豪華らしい。じいさんが鏡のメンテナンスをしてるんだ」
ロランさんがイデアを水辺に案内すると、祈りの説明をしてくれる。
「守り鏡があるだろう? まずはそれをここの水に沈めるんだ。そうしたら席について祈る。祈り終わったら守り鏡を回収して終わりだよ」
アランさんが左耳の、ロランさんが右耳の守り鏡のピアスを外すと水に沈める。それを見て、イデアは困ってしまった。
「私、万華鏡以外の守り鏡を持ってません」
さすがに万華鏡を水に沈めるわけにはいかない。アランさんもロランさんも虚を突かれたように固まってしまったが、アゲハはなんてことないように言った。
『何を言っているの? イデアは直接精霊王の力を鏡に込められるんだから、そんなことする必要ないでしょう?』
そういうものなのだろうか。水に鏡を漬けるのは、どうやら精霊に力を与えるためらしい。それなら大丈夫だろうと、イデアたちは席につき、祈りをささげた。




