51.説得
ゼイビアたちはハイネルを連れて村に入る。ゼイビアとアドニスは緊張していたが子供たちは楽しそうだ。精霊の祝福持ちだからか幼さからなのか、子供たちには警戒心が足りないようにゼイビアは思う。
ちなみにゼイビアたちに付いて来た精霊たちには、アゲハが鏡に惑わされないように術をほどこしてくれたため安心して鏡に近づける。
村人たちが万華鏡を買ってくれれば、中に入った精霊たちが少しでも村の精霊不足を補う役に立ってくれるだろう。
「俺はハイネルと村長の所へ行ってくる。アドニス。子供たちを頼む」
「りょーかい。気をつけろよ」
ハイネルの話だとここは完全な農村で、武勇に優れたものはいないらしい。そんな人間たち相手ならもし戦闘になってもアドニス一人いれば大丈夫だ。
表向きは子供の行商と魔物化した雇われ護衛に見えるのだろう。子供たちが商売の準備を始めると、アドニスの容姿に驚きながらも興味を持って村民が近寄ってくる。
ゼイビアは本当はこんなきな臭い村にイデアを連れてきたくはなかったが、イデアがこの村に精霊王の恩恵をもたらすまでが今回のミッションだ。離れるのは心苦しいが仕方がない。ゼイビアは自分の仕事をまっとうすることにした。
「ハイネル。村長の所へ案内してくれ」
「うん。こっちだ。あの一番大きな家だよ」
ハイネルと一緒に村長の家を訪ねると、村長はゼイビアの容姿に驚いていたが、すぐに苦々し気な表情でハイネルに視線を移す。
「お前、出て行ったんじゃなかったのか?」
「この方に村長を紹介してほしいと頼まれたんだ」
ハイネルは村長の視線にたじろいだが負けじと言い返す。強い子だ。
「私は帝国騎士団第二特殊部隊隊長。ビィ・ファリアだ。この村の鏡が禁制品である精霊の檻であるという情報を得てきた」
ゼイビアは懐から騎士の階級章を取り出した。ちなみに精霊の檻はイデアから情報を聞いたその日に国に報告して、所持しているだけで違法となる禁制品扱いとなった。
精霊王の使者であるアゲハが危険なものだと言い、愛し子であるイデアがそれを伝えたのだ。先日精霊がらみの事件があったばかりのこの国で禁制品に認定されるには一日しかかからなかった。
「鏡……そんな馬鹿な。騎士様の勘違いでしょう」
ゼイビアは村長の目をじっと見つめる。この目は恐らく村長も薄っすらだが鏡が危険なものであることに気がついているのだろう。ただ今更後にはひけないと言った目だ。
村人たちは本当に恩恵を与えてくれるありがたい鏡と信じているのだ。そりゃあ村長としては今更違いましたなんて言えないだろなとゼイビアは思うが、反対を恐れて決断ができないのは愚かだとも思う。
「精霊の檻は精霊を吸収し、鏡に閉じ込め最終的に殺す。そしていずれその土地の精霊をすべて消滅させる。心当たりがあるだろう?」
「それは……」
「精霊が居なくなった土地からは邪気が湧きだす。国として帝都に近いこの場所をそのような不毛の地にさせるわけにはいかない」
ゼイビアの言葉を聞いて、村長は黙り込んでしまう。隣に座るハイネルが村長を説得しようと口を開いた。
「わかるだろ! あの鏡は危険なんだよ。村長!」
「そんな……そんなはずがない! あの方々はあの鏡は精霊の力を増幅させるものだと言った。みんなあの方々に感謝している。そもそもそいつは本当に騎士なのか? そうだ、この村から鏡を奪おうとしているだけかもしれないじゃないか!」
「村長……」
ハイネルは失望した目で村長を見た。もはや話し合いの余地はないだろう。
「そちらの意向はわかった。邪魔したな」
ゼイビアはハイネルの手を引いてその場を後にする。
「いいのか? 村長を説得しなくて……」
困惑した様子のハイネルに、ゼイビアは言う。
「説得は不可能と判断した。今夜、この村の精霊の檻を全て破壊する。場所と数はわかるな? ハイネル」
ゼイビアはもとより説得より破壊を優先するつもりだった。そもそも村長が許可しても村人の邪魔が入る可能性がある。イデアたちに危害を加えようとする者もあらわれるかもしれない。
どのみち破壊しなければならないのだからそもそも許可など必要ないのだ。ハイネルは精霊の檻のある正確な場所を案内させるために連れてきたにすぎない。
一旦村を出て、今夜闇に乗じて精霊の檻を全て破壊する。その後イデアに精霊王の力で精霊の回復をしてもらう。後日正式に騎士を派遣して村を調査させる。これがイデアが一番安全に力を発揮できる方法だとゼイビアは考えていたのだ。




