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42.再会3

 ゼイビアは城に帰還すると、離れの屋敷でイデアからもらった手鏡をながめる。

「大きくなったな……」

 イデアはゼイビアの想像通りに成長していた。小さい頃から顔がエルに似ていたが、大きくなるとそれがより顕著になった。男の自分に似なくてよかったと、ゼイビアは思う。

「こんなに醜くては父を名乗れないな……」

 ゼイビアは鏡に映る自分を見て自嘲した。今は仮面をつけていない。目の周りに生えた黒水晶の鱗も、血のように真っ赤で吊り上がった目もよく見える。

 じっと鏡を見つめていると、鏡が淡く光る。不思議とゼイビアは驚かなかった。その淡い光を見つめていると、次第に眠くなってくる。まるで催眠術にでもかかったようだと頭の片隅で思った。

 そのまま、ゼイビアは深い眠りに落ちた。

 

 起きたのは翌日の昼も過ぎた頃だ。幼い頃から戦場に身を置いていたゼイビアは睡眠時間が短い。丸一日眠ってしまうなんて、幼い頃を除けば初めての経験だった。

 仕事をしなければと目を開けると、ゼイビアは異変に気がついた。視界の端を漂う淡い光。最初は何かわからなかった。しかし、よく見れば確かに精霊だった。

「精霊が……」

 ゼイビアは魔物化が進んでから徐々に精霊が見えなくなった。もちろんギフトも使えなくなって、完全に精霊から見放されたのだ。

 もしやと思いゼイビアはギフトを使うことを思い浮かべる。しかし、精霊は見えてもギフトを使うことはできないらしかった。

「なぜ?」

 ゼイビアは握りしめたまま眠っていた鏡を凝視する。自身の容姿は魔物化したままだったが、自分の中に根付いていた邪気の元が完全に消えていることに気がついた。これで今以上に魔物化が進行することはない。

「奇跡だ……」

 これが精霊の愛し子の力なのかと、ゼイビアは怖ろしくなった。これほど体に根付いてしまった邪気を完全に浄化できるものなど、世界に他に存在しないだろう。邪気の多い値域に住む者も、世界には存在する。彼らからしてみれば、イデアは喉から手が出るほど欲しい存在に違いない。

「護衛を増やすか?」

 イデアが精霊王の使命とやらを果たすというなら、護衛は今の数では足りないだろう。力は行使すればするほど、人に知られる可能性も高くなる。

 いやそれよりも城に連れ戻すべきか。ミラメアと争うことになっても、せめてもう少し大きくなるまでは安寧に暮らしてもらいたい。

 

 鏡を握ったまま考え事をしていると、また鏡が淡く光る。また何かあるのかとゼイビアは鏡を覗き込んだ。すると、鏡の中に淡く人影のようなものが見えた。

「なんだ?」

『……ビア……ゼイビア』

 徐々に焦点が定まって、形になった人影にゼイビアは言葉を失った。鏡の中から聞こえてきた声も、間違いなく知っているものだ。

「エル……」

『会いたかった。ゼイビア』

 それはずっと恋しいと、会いたいと願っていた妻の姿だ。精霊になったからだろう、その姿は淡く発光していてとても美しい。なぜ話せないはずの精霊の声が聞こえるのかは不明だが、もしかしたら精霊王が慈悲をかけてくれたのかもしれない。

『話をできる時間はあまり無いの。聞いて。どうかイデアを守って』

 愛しい妻の言葉を、ゼイビアは一言も漏らさないように耳をこらす。

『私は精霊王様と契約したの。イデアにサポート役をつけてくれるかわりに、代償として私はイデアが使命を果たすまで鏡越しでもイデアに会えない』

 エルの瞳は決意に満ちていた。母は強しと言うが、イデアに与えられた使命を飲み込んだうえで、イデアのための選択をしたのだろう。結婚したころから、儚げにみえて強い意志を持った人だった。

『イデアが使命を果たさなければ、いずれ人は滅びの道へ向かう。だからお願い、イデアを助けて。そして守って……』

 それ以降、声は聞こえなくなった。鏡の中ではまだエルが口を開いていたが、ゼイビアは首を横に振った。

 もう声が聞こえていないことに気がついたのだろう、エルは鏡の中で穏やかに笑った。ゼイビアが自分の願いを叶えてくれると疑っていない顔だ。昔から、こういう賢しいところがあった。ゼイビアはエルのそういうところも愛している。

 ゼイビアは鏡の中のエルと額を合わせた。

「お前の願いを叶えよう。愛しいエル……」

 鏡の中のエルが笑う。もう声は聞こえないが、唇がありがとうと動いたのがわかった。

 それから二人は、鏡越しに見つめあった。ゼイビアもエルもお喋りな方ではない。むしろ寡黙な方だ。二人で過ごす時間は、ただ見つめあうだけのことも多かった。

 それから日が暮れるまで、ゼイビアは二人の時間を楽しんだ。エルにもう一度会えた喜びを噛み締めながら。

 イデアもエルに会わせてやりたい。そのためにはイデアは使命を果たさなければならない。この時ゼイビアの心は完全に決まったのだった。

挿絵(By みてみん)

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