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33.お買い物2

 イデアとルーラは昼休憩に人気のカフェに来ていた。

「夢だったんだ! ここのカフェに来るの!」

 アゲハがいるからテラス席でないと駄目だと言われたが、二人はこの店のケーキが食べられるのならそれでよかった。テラス席に座って一緒にメニューをながめる。

「どれにする? 迷うなー。私こんなの食べるの初めてだよ!」

 イデアは城にいた時にお菓子はたくさん食べていた。しかし城で出されていたお菓子も、日本のお菓子の味には及ばない。こういう時に心から喜べないのが転生者の辛いところだなと思う。

「オレンジのケーキがいいと思うよ。今ちょうど美味しい時期でしょ」

 イデアはクリーム系のお菓子より季節の果物を使ったお菓子の方が美味しいと思っている。この世界のクリームは甘すぎたり口当たりが悪かったりとあまり好きではなかった。

「イデアが言うならそうしようかな」

 ルーラはイデアの事を、家を乗っ取られた元裕福な商人のお嬢様だと思っていた。貴族にしては家事ができるし、平民にしては常識を知らないからだ。

 きっと小さい頃は何不自由なく美味しいものを食べられていたのだろうと思っているから、イデアの味覚を信頼している。

 

 二人は注文を済ませると街並みをながめた。

 このカフェは貴族街に近い場所にあるため、イデアたちが暮らす職人街付近より洗練されている。

「あ、万華鏡持ってる人が居る!」

 ルーラが指さす方向を見ると、若い女性がカバンに万華鏡をつけていた。

 中に精霊が入っているのが、遠くからでもわかる。

「もっとたくさん売れるといいね。そうしたらまた服を買いに来よう」

 イデアはルーラと笑いあって約束した。今度は靴を買うのもいいかもしれないなと思っていたら、店員が注文したケーキをもってきてくれる。

「わぁ、食べるのがもったいない!」

 ルーラが目の前のケーキに夢中になっている間に、イデアはアゲハのために注文したケーキを床に置いてやる。

『ありがとう。……ねえイデア、気がついている? お城に精霊が少ないの』

 アゲハは不安そうな目で城の方を見る。イデアもそちらを見ると、確かに城の周囲は少し暗く見えた。周囲にある大きな貴族の屋敷はそんなことはないのに、城だけが暗く感じる。

『何かがおかしいわ。こんなに局所的に精霊が少なくなるなんて普通じゃありえないの』

 イデアは困ってしまった。イデアはもはや平民だ。城には入れない。原因を調べようにも無理である。

「……今すぐどうにかしないとまずい?」

『そんなことはないの。……でも定期的に様子を見にきたいわ』

 アゲハはイデアの事情もくんでくれているのだろう。しきりに城の方を気にしていたが、イデアに調査を強制することはしなかった。

「どうしたの? イデア。美味しいよ! 早く食べなよ」

 ルーラに呼びかけられてイデアは慌てて返事をする。城のことが少し気になったが、ルーラと楽しく話している内に頭の片隅に追いやられてしまった。

 

「あー! 楽しかった!」

 その後二人で商店街を一周しているうちに、夕暮れ時になってしまった。ルーラは普段の落ち着きが嘘のようにはしゃいでいる。イデアも今日一日楽しくて、帰る足取りも軽い。

「お、イデア、お帰り」

「お帰り。ずいぶん楽しそうだな」

 ルーラと別れて鏡屋にたどり着くと、アランさんとロランさんとエヴェレットが何やら大きな鏡を大量に荷車に積みこんでいた。エヴェレットは今日はひとりで銀水晶を採りに行くと言っていたから、納品の終わりに手伝っているのだろう。

「ただいま帰りました。……それなんですか?」

「あーなんか城から大量発注があったんだよ。うち、一応王家御用達だから」

 城からと聞いてイデアは城に精霊が少なかったことを思い出す。

 考えてみれば、城にも当然精霊の祝福持ちが雇われているはずだ。彼らは各地の精霊の数を把握するため国のあちこちに派遣されるが、本拠地は城だ。城の精霊の数が減ったらすぐに気がつくはずである。

 減った精霊を呼び戻すために、鏡を大量に購入したのだろう。

『イデア、この鏡に力を。これもきっと精霊王の導きよ』

 イデアは大量に積まれた鏡にこっそりと触れる。精霊が突然いなくなった原因がわからないので、できるだけたくさん力を込めるようにした。

「イデア、ギフトの力を使ったのか? 鏡の輝きが変わった……」

 エヴェレットに問われたイデアは頷く。エヴェレットはイデアのギフトを鏡の中の精霊の強化だと思っている。そしてその力を鏡屋の全ての鏡に使っていることを知っているから、追加で力を使う必要があるのかと少し不思議そうだ。

「お城の精霊が突然減ったの。どうしてかわからないからできる限り強くしておこうと思って……」

「精霊が突然減った? なんだか怖いな。なにか精霊が逃げるような魔物でも出たのか?まさかな」

 エヴェレットは眉を寄せる。イデアは城に生きた魔物を持ちこむ馬鹿なんていないだろうと笑い飛ばした。

「まああの広大な城から精霊が消えるとなったら、魔物一匹程度じゃ無理だよな。……そう考えると余計怖いな。あんまり城には近づかないようにするか……」

 イデアは真剣な顔で言うエヴェレットに同意する。とりあえず城に送られるすべての鏡には、出来得る限り精霊王の力を込めておいた。

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