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3.お母様との日々3

 イデアが母の寝室に戻ると、そこには父もいた。

「お父様! おかえりなさい!」

 母が腰かけるベッドの横に立っていた父の脚に飛びつくと、父はイデアを抱き上げてくれた。

 使用人が用意してくれた材料をテーブルに置いて去ってゆく。

「ただいまイデア。いい子にしていたか?」

「うん! あのね、これから鏡を修理するの! お父様も一緒にやろう」

 父はテーブルの上の材料を見て首を傾げていた。母も同様だ。

 精霊の光が集まってきて、テーブルの上を凝視しているようだ。

「あのね、万華鏡を作るの。私はお父様に作るから、お母様は私に作って、お父様はお母様に作ってね!」

 この世界に万華鏡は多分存在しないのだろう、二人とも不思議そうにテーブルの上を見ている。

 イデアは前世夏休みの宿題で作った万華鏡の作り方を覚えていた。

 父にお願いして子供用の椅子の上に降ろしてもらったイデアは、父が母を抱き上げて椅子に運ぶのをにんまりしながら眺めていた。

 

「あのね、この竹筒の中にね、割れた鏡をはめこむの!」

 イデアは小さな手で鏡の破片を掴むと、父が慌ててイデアの手を掴む。

「待て、危ない」

 そう言うと父はかわりに鏡の破片を掴んでどうするのかと聞いてくる。

「あのね、中で三角形になるようにするの」

「三角形? この不ぞろいな破片では難しいだろう」

 言われてみればそうだとイデアは思った。前世では百円ショップではさみで切れる反射板を買って作っていた。

 イデアは困ってしまう。転生してから少し肉体の影響が精神面に出ていて本当の赤子のように後先を考えない行動をすることがある。今のように絶対に無理なことをやろうとしてしまうのもその一つだ。

「仕方がないな……」

 父はそう呟くと大きな鏡の破片を手に取って、竹筒の大きさと比べながら破片を指先でなぞった。

 するとみるみるうちに鏡が長方形に切断されてゆく。イデアは驚いて身を乗り出した。

「すごい! すごい! なんで⁉」

「……銀水晶は熱に弱い。俺のギフトなら簡単に切断できる」

 父のギフトは炎を自在に操れるというものだ。指先に熱を集めることもできるのかと、イデアは感心した。

 

 あっという間にイデアの要望通り竹筒の中に三角形になるように鏡を設置した父が次はどうすると聞いてくる。

「あのね、ガラスケースにたくさんビーズを詰めるの」

 用意されたガラスケースはピアスを保管するための物のようで、竹筒の円周より少し大きめだった。丁度いいサイズが無かったのだろう。

 イデアはガラスケースと竹筒を交互に見て、どうしようか考えた。

「筒に入れたいのか? また溶かして形を変えればいい」

 父がいてくれてよかったとイデアは思った。ビーズを詰めたガラスケースを竹筒の片側にはめ込むようにお願いする。

「俺がいなかったらどうするつもりだったんだ?」

 父が呆れた顔でこちらを見るので、イデアは笑ってごまかした。母も楽しそうにころころと笑っている。

 

 さてあとはのぞき穴作りと飾り付けだ。三人で好きな布を取ってイデアの言う通りに竹筒に飾り付けてゆく。

 最初にのぞき穴を作った時に、中を覗き込んだ母は感動していた。くるくると回すたびに中の形が変わる万華鏡は、二度と同じ形になることが無いと言われている。その刹那的な美しさは誰の目も引き付けるだろう。

 精霊たちも大喜びで完成前の万華鏡に群がっている。嬉しくなったイデアは鼻歌を歌いながら万華鏡に布を巻きつけてリボンで飾った。父にあげるものなので濃い青に黒のリボンを巻いてかっこよくする。

 四歳児の小さな手ではリボンを巻くのも大変でかなり不格好な仕上がりだった。

「はい! できたよ! お父様の!」

 万華鏡を父に渡すと、父は目を細めて上手にできたと褒めてくれる。イデアは得意になって胸を張る。

 母はイデアにピンクのリボンの可愛らしい万華鏡を作ってくれた。父は母に水色の布に銀のリボンが巻かれたものをプレゼントする。

 両親が仲睦まじくしている時が、イデアの一番幸せな時だ。

 

「お父様はまた仕事?」

 イデアはもじもじとしながら父に問いかける。父は貴重なギフト持ちだ。そのうえ炎を操れるものだから、騎士団に混ざって魔物の間引きを行っている。騎士の間では父は尊敬の的らしく、会う騎士はみんなイデアに優しくしてくれる。

「すまない……またしばらく帰れない」

 イデアはもっと父と一緒にいたかった。いや、父と母に一緒にいてほしかった。離れられると前世を思い出して不安になる。

「近いうちにまとめて休みをとろう」

 その言葉に嬉しくなって、父に小さな小指を差し出した。

「なんだ?」

 しまったと、イデアは自分の失敗に気が付く。この世界には指きりなんてない。

「あのね、約束のしるしなの! 小指で握手するんだよ」

 慌てて説明するイデアに、父は優しく小指を絡ませてくれた。

「約束だ」

 その時の父の優しいまなざしをイデアはずっと覚えている。

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