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21.幸せな生活2

 帽子を目深にかぶってエヴェレットと冒険に行く。帰るころには、街にはいたるところにミラメアの姫を探す御触れが張られていた。

 露店街を歩くと、露店の数が半分以下になっている。見たところ値段もかなり高かった。

「参ったな、こんなに値段が変わるなんて……」

 エヴェレットは本気で困っているようだ。イデアはこっそりとエヴェレットに囁く。ドンおじいさんの話だと、物価は一月も待たず改善されるはずだと。

「そうなのか? ドンさんの話なら本当なんだろうけど……孤児院が心配だ」

「孤児院?」

「俺の生まれ育った場所だよ。結構切り詰めて生活してるけど、ここまで物価が上がると数日もすれば子供たちが満足に食べられなくなる」

 それは一大事だ。イデアはエヴェレットの腕を引っ張って言う。

「エヴェレット、安い食材を探してたくさん買おう! 今ならまだ何かあるよ!」

「……そうだな。手伝ってくれ、イデア」

 露店街と商店街を回って、買うことができたのは大量の芋と豆だった。途中鏡屋に寄って荷車をかりたので、エヴェレットがそれをひいている。

「これだけあれば、しばらくはもつか? 芋と豆だけじゃ味気ないかもしれないけど、仕方がないな」

「お芋も豆も工夫すれば美味しくなるよ。コロッケとか……」

 イデアは間違えたと慌てて手で口をふさぐ。つい前世の事を口に出してしまうのは悪い癖だ。

「コロッケ? なんだそれ? 美味いのか?」

「うーんと、ふかしたお芋を潰して、豆とか混ぜて丸くして油で揚げたやつかな」

 幸いにもこの国では油は高級品ではない。イデアはよく知らないが何やらそのへんにたくさんある花から簡単に採れるらしい。店を見た時は日本との値段の違いに驚いたものだ。

「揚げ物か……それ、院長先生に作り方教えてやってくれないか? 先生、料理は苦手でレシピの数が少ないんだよ」

 イデアは別に大丈夫だろうと了承した。前世のものをこの世界に持ち込むのはあまり良くないかもしれないが、たかが料理だ。

 

 孤児院にたどり着くと、院長先生があたたかく出迎えてくれた。

「まあ、エヴェレット。そちらのお嬢さんは?」

 自己紹介すると礼儀の正しい子ねと褒められる。とても物腰の柔らかい人で、精霊も近づいていた。

「二人で安い食材を探してくれたの? 嬉しいわ、とても困っていたの」

 荷車からたくさんの木箱をおろすと、子供たちが寄って来て手伝ってくれる。見たところ十歳くらいまでの子しかいないようだ。

「院長先生。イデアが新しい料理を教えてくれるって。厨房かりていいか?」

 エヴェレットが言うと、院長先生は厨房に案内してくれる。

 エプロンと三角巾をつけて準備は万端だ。

「まずお芋と豆をふかして柔らかくします」

 イデアは大きな蒸し器に大量の芋と豆を入れると、しばらく放置する。大きすぎてちゃんと火が通るか心配だった。

「その間にパン粉を作ります」

 イデアはパン屋で交渉して古くなった廃棄パンを安く売ってもらっていた。固くなったパンをゴリゴリとすり潰す。

「へー面白い料理だな。そんなの見たことないぞ」

 そうだろうなと思う。そもそもパンが主食のこの国ではパンは毎日食べるので余りにくいし、多少硬くなってもスープに漬ければいいという考えの人が多い。固くなったパンを活用しようとは考えないのだ。

 イデアは前世でよく商店街のパン屋さんからパンの耳などを貰っていたなと思い出した。母親が病気なのだと言えば商店街のお店の人たちは小学生のイデアにたくさんおまけをしてくれた。

 弱さを武器にするのは悪いことではないと、イデアは思う。商店街の人たちにはとても感謝している。

 パン粉を作るとやることがなくなってしまったので、院長先生と豆のスープを作る。これは孤児院のいつもの味だ。

 そうしたらふかしあがった芋の皮を剥く。これは孤児院の子供たちも手伝ってくれた。みんなでやけどしそうになりながら頑張って皮を剥く。

 あとは芋と豆を少し形が残るくらいに潰してゆく。そして塩で味を調えた。こしょうも欲しかったのだが高級品なので諦める。

 出来上がったものを小判型に丸めて、溶き卵、小麦粉、パン粉の順にまぶして油で揚げたらコロッケの完成だ。

 油で揚げて、いい匂いが漂ってきた頃には孤児院の子供たちがみんな集まって来ていた。

 ソースはこの国でよく使われる甘辛ソースを使う。子供たちは迅速に食事の準備を始めた。早く食べたいのだろう、鼻歌を歌っている子もいる。

 食卓に並べるとなかなかの出来だとイデアは達成感でみたされた。

「イデアちゃんも一緒に食べよ!」

 帰ったら夕食が用意されているので一緒に食べる気は無かったのだが、子供たちの誘いでコロッケを一つだけ食べることにした。

 食前の祈りをすると、みんな一斉にコロッケに齧りつく。

「なにこれ! 美味しい!」

 イデアはコロッケを半分アゲハにあげて、自分も食べる。

「うん、上手にできた!」

「ありがとな、イデア。こんなに喜んでるみんなを見るのは久しぶりだ」

 エヴェレットもコロッケを摘まみながら、嬉しそうだ。手伝ってよかったなとイデアは思う。

「イデアちゃん! またいつでも遊びに来てね!」

 すっかり子供たちと仲良くなったイデアはあたたかい気持ちでエヴェレットに送られながら帰路につく。

「騒がしくて悪かったな。でも助かったよ、ありがとう」

「私も楽しかった! 友達もできたし、休みの日は遊びに行くね」

 エヴェレットと笑いあいながら帰る道のりはイデアにとっては宝物だ。こうして交流の輪が広がっていくことをイデアは楽しんでいた。

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