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15.精霊の愛し子5

 エヴェレットが剣で銀水晶の根元を溶かしてゆく。

「二人で一日に採取できる量の平均より少し多く採取して、また明日も採取に来よう。一度にあまり多く採取すると噂になるからな」

 小山になった採取した銀水晶に、アゲハが寄り添いながらしっぽを振る。

『イデア、この銀水晶たちに触れてみて。精霊王の力を少しわける気持ちで』

 イデアにはアゲハの言う意味がよくわからなかった。イデアに精霊王とつながっているという自覚はない。

 恐る恐る銀水晶に触れると、何かが銀水晶の方に流れるのを感じた。恐らくそれが精霊王の力なのだろう。

 イデアは手に持った銀水晶をじっと見る。心なしか輝きが増したような気がする。

『あとはそれを鏡にしてもらえば、中に入った精霊たちに力を与えられるわ。鏡に直接精霊王の力を注ぐこともできるわよ』

 なるほど、とイデアは頷く。普通に暮らしながらでも大丈夫と言っていたのはこういうことだったのかと、イデアはあまり壮大な使命でなかったことにほっとした。

 あくまでしばらくは(・・・・・)とアゲハが言っていたことをイデアはこの時忘れていた。

 

 今日の分の採取が終わって、二人は街に帰ることにする。

「明るい内に戻れそうだな。戻ったら直接鏡屋に納品に行くぞ」

 エヴェレットが言うには、この辺りの鏡職人の組合のまとめ役と冒険者ギルドが契約していて、銀水晶の採取専門の冒険者をギルドが斡旋しているらしい。

 いちいち冒険者ギルドを介するのも費用が掛かるので、納品と報酬の支払いはまとめ役の所で直接行うそうだ。まとめ役となにかあれば冒険者ギルドが間に入ってくれるので、個人で取引するより安心して取引できる仕組みになっている。

「銀水晶の採取専門の冒険者ってのは俺たち祝福持ちのことだな。冒険者ギルドがあまり儲からないこの仕組みで冒険者の斡旋をするのも、それだけ祝福持ちが貴重な存在だからだ。転職しないように、なるべく俺たちの取り分が多くなるようにしてくれてるんだよ」

 イデアはまだ祝福持ちの冒険者がどれだけ稼げるのか知らない。知ったら驚くぞとエヴェレットは笑っている。

 まだ十歳のイデアでは住み込みで働いたってせいぜい月に銀貨五枚がいいところだろう。安い部屋を借りるには月にそれと同じくらいかかる。冒険者の稼ぎ次第では住み込みの仕事を探さなくてよくなるかもしれない。

 母が残してくれたお金もあるといえばあるのだが、イデアの母は元々お姫様だ。持っているのは市井ではほぼ使えない金貨や白金貨ばかりだった。市井で主に使われるのは小銅貨と銅貨、小銀貨と銀貨だ。それ以外は城に置いてきてしまった。

 

 街に戻ると、エヴェレットは職人街に案内してくれた。職人街に入ってから、なぜか一体の精霊がイデアの周りをものすごいスピードで飛び回っている。

 エヴェレットはひときわ大きな銀水晶の絵が描かれた看板の鏡屋の扉を開けた。

「こんにちは、納品に来ました」

 中に入ったイデアは感嘆する。店内は見渡す限り鏡で埋め尽くされていた。その鏡の意匠の美しさときたら、城にあった鏡に引けを取らない。きっとこの店にはいい細工職人が居るのだろう。

 アゲハが鏡を気に入ったのだろう、店内を人間の様に見て回っている。

「あら、エヴェレット。今日は早いのね。……あら、その子が昨日言っていた新人さん?ずいぶんかわいい子ね」

 カウンターで座っていた茶髪の老婆に声をかけられて、きょろきょろとしていたイデアは慌てて挨拶をした。ついでにアゲハを抱き上げてアゲハの事も紹介する。

「はじめまして。イデア・リリーシュです。この子はアゲハです」

「はじめまして。メリッサ・シャナテットよ。奥へどうぞ。主人がいるから」

 エヴェレットと一緒に奥に入ると、そこは工房のようだった。金髪の老人と茶髪のおじさんがいる。

「おお、エヴェレット。それとイデアって言ったか? 小さいのにご苦労さんだな、俺はこの辺りの鏡職人のまとめ役をやっているドンだ。こっちは息子のダニーだ」

 快活そうなドンおじいさんが白い歯を見せて笑う。イデアは頭を下げた。

「今日の収穫はどうだ? 嬢ちゃんは初めてだったんだろう? いつもと同じくらいは採れたのか?」

 ドンおじいさんの言葉にエヴェレットはにやりと笑う。

「それが大収穫だよ。イデアは俺より強い祝福持ちだから、銀水晶を見つけるのがうまいんだ。イデアが見つけて俺が採取するって形にしたらいつもの倍以上とれたよ」

 エヴェレットはそう言いながら袋の中身を机の上に転がした。事前に用意した大量収穫の言い訳も自然である。

 ドンおじいさんは目を剥いて驚いている。イデアもなんだか得意になった。

「こりゃあ助かる。最近きな臭いからな、銀水晶の在庫は多ければ多いほどいい。ありがとな、嬢ちゃん」

 乱暴に頭を撫でられたイデアはくらくらした。しかしそんな事よりドンおじいさんの言葉が少し引っかかる。きな臭いとはなんだろう。戦争でも始まるのだろうかとイデアは不安になった。

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