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忘れられ姫は精霊の愛し子でした~鏡屋さん始めます~  作者: はにか えむ


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11.精霊の愛し子1

 エヴェレットが冒険者の宿舎まで連れて行ってくれたので、イデアは明日のためにと早めに寝ることにした。

 宿舎は狭く、ベッドが一つあるだけの部屋だ。そもそも家が無く働いている人のための格安の宿舎の為、物が無いのだ。誰もが寝るためだけに使う部屋である。

 イデアはベッドに寝転がった。仰向けのまま首からかけた母に貰った万華鏡を覗き込んでくるくる回す。今は精霊たちは万華鏡の中にはいないようだ。ただ綺麗な宝石屑のビーズがキラキラと輝いている。

「なんとかなりそうだよ、お母様」

 イデアが呟くと万華鏡の中が少し明るくなった気がした。いや気がしたではない、実際にまばゆいばかりに明るくなっている。

 イデアが驚いて万華鏡から目を離すと、のぞき穴からあふれる光の奔流にイデアは体を起こして小さく悲鳴を上げた。

 あふれだした光はまるで大きな卵のような形になって、イデアの目の前にまとまる。

 それがおさまると、光はまるで鏡が砕けるように消えた。

『イデア・マヤ・トツカ、私は精霊王の使い。あなたを導くために生み出されたもの。精霊の愛し子として使命を果たしなさい』

 割れた光から突然現れそう口にしたのは、どこからどう見ても犬だった。犬種はパピヨンだ。イデアが前世で憧れて、飼ってみたかった犬である。

「可愛い」

 イデアが思わずそう呟くと、愛らしい少女の声で犬は語る。

『私の姿を定めたのはあなた。あなたが無意識下で一番心を許せる動物の姿に私は生み出された』

 イデアはよく意味がわからなかったが、とりあえず話せるのなら対話はすべきだろうと口を開く。

「えと、お名前は? なんて呼んだらいいですか?」

『名前はない。決めるのはあなた』

 犬のかわいらしいアーモンドアイで見つめられ、イデアの心はときめいた。

「私が名前をつけてもいいの? じゃあアゲハでもいい?」

 イデアが前世でもし犬が飼えたらつけたかった名前だ。

『いいわ。私はアゲハ』

 アゲハのしっぽが揺れているのを見て、イデアはひとまず気に入ってくれたようだと安堵した。

 

「それでアゲハは、精霊王様の使いなの? 愛し子ってなあに?」

 イデアはアゲハの前に正座すると、話を聞く態勢を整える。精霊王が絡んでくるなら間違いなく大切な話だ。

『私はあなたを導くもの。愛し子は世界の均衡が崩れた時、聖域内から動けない精霊王の力を細部まで届けるための使徒。今あなたの体は精霊王とつながっている。均衡が崩れた場所に赴き、その力で世界を正すことが使命』

 話を聞いたイデアは困惑する。そんなのどうすればいいのかわからないし、イデアは今自分の生活で精一杯だ。

「そんなの無理だよ。私今日初めてお城を出たんだよ。別の人にお願いして」

 アゲハは小さな前足をイデアの太ももにおいて首を傾げる。

『大丈夫。あなたは今そこにいるだけで精霊たちに力を与える存在。まずはこの場所の均衡を時間をかけて正すことが精霊王の求めていること。しばらくは普通に暮らせばいいの』

 そんなことでいいのだろうか。イデアは顔をしかめる。

『深く考えず私を連れていって。イデア。あなたのサポートをするわ』

 アゲハはイデアをじっと見つめる。その姿はやはり可愛い。

 精霊王の命令を無視するのもあまりいいことではないだろう。イデアはよくわからないが承諾することにした。

「じゃあ私がなにかしなきゃいけないときは教えてね。精霊王様のお願いだし、一緒に暮らそう」

『ありがとう、イデア』

 イデアはアゲハを抱き寄せるとふわふわの毛を堪能した。アゲハは抱かれることが嫌ではないようで、顔をすり寄せてくる。

 

『大事なことを忘れていたわ。私の言葉はイデアにしか聞えていない。だから外では気を付けて』

「わかった……ごはんとかどうしたらいい?」

 イデアはあまり犬の飼い方には詳しくない。そもそも精霊王の使いは普通の犬と同じ扱いでいいのかと困惑していた。

『……食べることもできるけど、食べなくても問題ないわ。排泄もしない。私は精霊に近いものだから』

「そっか、なんか話してたらお腹すいちゃった。一緒に外に食べに行く?」

 アゲハの耳がぴんと立ってしっぽがぶんぶん振られる。アゲハは口調は固いが感情がわかりやすい。

『生まれたばかりだから、街を見るのは初めてだわ』

「私も今日初めて街を見たよ。おんなじだね!」

 イデアはアゲハを抱いたままベッドから降りた。時刻はまだ夕方だ。

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