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10.逃亡2

 最初の扉を開けるとそこは広間だった。中央に数個の椅子が置いてある。横の壁一面に大きな掲示板のようなものがあって、紙が貼られていた。

 イデアは物珍しくて周囲を見回しながら進む。大きな広間の奥には複数のカウンターのようなものがあるのでそれが受付だろう。

「おい、お前。新入りか?」

 受付に向かおうとしたとき、イデアは自分より少し大きい男の子に声をかけられた。

「……何か用ですか?」

 なんだか嫌な感じがしたイデアは距離を取りながら返す。

「決めた。お前俺のグループに入れてやるよ。可愛いしな」

 軽薄な笑みで言う男にイデアは嫌悪感を覚えた。

「ソロでやるつもりなのでお断りします」

 そのまま振り返って立ち去ろうとしたイデアの腕を男の子が引っ張ろうとした。

「危ない!」

 誰かがそう叫んだ瞬間、イデアの後ろにあった壁に何かがぶつかる音がした。

 イデアは振り返ると茫然とする。イデアの位置より三メートルほど先の壁には先ほど話しかけてきた男の子がめり込んでいた。

 掲示板は割れ、貼ってあった紙が床に散乱している。男の子は気絶しているようだ。

 イデアは状況が分からなくて狼狽えた。

 

「あー間に合わなかったか」

 その声の主は先ほど危ないと叫んだ人だった。多分十五歳くらいで、軽装だが防具をつけて腰にも剣をはいている。真っ赤な髪が炎のようでちょっとかっこいいとイデアは思った。

「君さ、精霊の祝福持ちだろ。それもとんでもない強さの。こんなに精霊に囲まれてる子見たことねーし。今のは君に触ろうとしたやつに精霊が怒ってたみたいだから止めようとしたんだけど……間に合わなかったな」

 すっかり周囲の注目を集めていたイデアたちだったが、男の子は周りに聞こえるようにそう言った。

 精霊の祝福持ちは精霊が守ってくれるのだということを、イデアは物理的な脅威にはあったことが無いので忘れていた。今初めてその威力のほどを知ってその強さに戦慄しているほどだ。

「職員さん、すみません。こいつ祝福持ちに手を出そうとして弾かれたんで、後お願いします」

 様子を見に来た制服を着た女性に軽く言う男の子に、イデアは血の気が引いた。

「すみません、あの、掲示板弁償します。申し訳ありません」

 職員の女性は笑いながら言う。

「ああ、いいのいいの。祝福持ちに弾かれて損壊した場合は手を出した方が弁償することになっているのよ。この問題児に払わせるから、心配しないで」

 職員いわくこの気絶した男の子は実力はあるが女性に脅しまがいの無理な勧誘をしていて素行不良とされていたようだ。

 

「それより、何しにここに来たんだ?小遣い稼ぎに登録か?」

 赤髪の男の子がイデアに聞く。彼の周りには精霊が集まっている。さっきの口ぶりからしても恐らく精霊の祝福持ちなのだろう。

「あ、母が亡くなったので働き口を探しています。住み込みで働ける場所が見つかるまで、冒険者をしようかと思って」

 正直に言うと男の子は顔をしかめた。

「……泊り込みってことか?住んでた家には帰れないのか?」

 真剣な表情で言う男の子に、そんなに変なことを言っただろうかと首を傾げる。

「家には……伯父がいて嫌われているので……」

 そう言うと痛ましそうな顔をする。イデアの歳で家を追われるというのは、前世より治安のよくないこの世界でも珍しいのかもしれない。

「よししばらく俺が一緒に依頼を受けて、祝福持ちの冒険者の稼ぎ方を教えてやるよ」

 祝福持ちの冒険者の稼ぎ方とは何だろうと、イデアは不思議に思った。祝福は弱い魔物が近づいてこないのと、精霊が守ってくれるだけとしか聞いていない。

「俺はエヴェレット・マキア・ウォーレン。よろしくな」

 手を差し出されてイデアは戸惑った。挨拶を返そうとして考える。イデアは逃亡者だ。城で呼ばれていたマヤという名は使えない。姓のトツカも王族だと言っているようなものだ。

「イデア・リリーシュです」

 イデアがとっさに名乗った名は真名と母のミドルネームだった。我ながらいい名前を付けたと思う。真名であるイデアという名を城の者たちは知らないし、母のミドルネームは母に見守られているような気がして嬉しい。

 エヴェレットと握手をして、次の日朝早く依頼に行くから今日は冒険者用の宿舎に泊るように言われる。

 宿舎の手配はエヴェレットが高位の精霊の祝福持ちだと証明してくれたので、とても楽に済んだ。

 この世界では精霊は悪人には近づかないとされているため、祝福持ちはそれだけで優遇されるのだそうだ。

 

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