5話 雨と日常とオムライス
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日曜日、朝。
雨が窓に弾ける音で目が覚めた。
カーテンをめくると、空模様は曇天。
横なぐりの雨が、景色を斜めに流していく。
スマホを手に取ると、昨日三人で作ったグループラインにメッセージが届いていた。
『今日は雨だし山はやめようぜ!暇だし俺んち来れる奴は来て!』
『了解。起きたばっかだし、ちょっとしたら行く』
『私も行ける!緋月君の家のキッチン借りてもいい?』
『了解!待ってるぜ』
スマホを置き、お風呂に入り着替え、傘を手に家を出る。
ビニール傘を打ち鳴らす雨音をイヤフォンでかき消しながら、
濡れたアスファルトを踏みしめ、数十分かけて緋月くんの家へ向かった。
チャイムを鳴らすと、勢いよくドアが開く。
「待ってたぜ!入れよ!」
「お邪魔します」
「案外早かったな。天城ももう着いてるぜ」
案内されて上がった二階。
ドアを開けると、天城さんが机の前に座りすでにくつろいでいた。
「よーし、それじゃあ……何するか!室内じゃしおりの本、試せないしな」
緋月が笑う。
その隣で、天城さんが小さくつぶやいた。
「今日は……本のことは忘れて、普通に遊ばない?」
「うん、いいと思う。いっぱいゲームもあるみたいだし」
目線の端に映ったゲーム機を指差す。
「おう!いいぜ」
TV前に並んだゲーム機たち。
乱雑に置かれたコントローラーを手に取ると、パッと明るいカラフルな画面が広がった。
「じゃあ、マリカしようぜ!負けたやつジュース取ってくるってことで!」
緋月がニヤリと笑いながら提案する。
「ふふ、負けたら罰ゲームってやつだね!」
天城さんも笑いながらコントローラーを構えた。
「負けないよ」
僕も意気込んでコントローラーを握る。
ゲームが始まると、最初こそ互角だったが、次第に緋月の本領が発揮され、僕はあっという間に最下位に転落していた。
「よっし!しおり、冷蔵庫から俺のぶんも頼むなー!」
「……くっ、しょうがないな……」
しぶしぶ立ち上がりながらも、
笑い合えるこの時間がすごく温かいようなものに感じた。
耳を澄ますと、雨音も、少しだけ柔らかくなっていた。
※ ※ ※
「あ!もうこんな時間!緋月くん、キッチン借りてもいい?」
「あぁ大丈夫だぜ、今日は何作るんだ?」
「オムライスだよ、材料は買ってきたんだ」
「僕たちも手伝うよ、待ってるだけじゃ悪いし」
「ありがとう、助かる!」
部屋を出て階段を降り、キッチンに向かう。
「よーしじゃあ何からすればいい?」
「しおりくんは卵割ってかき混ぜておいて、緋月くんは洗い物お願いしてもいい?」
「了解!」
「よーし、じゃあ私はチキンライスから作るぞー!材料は切ってあるやつ買ってきたんだ」
手際よく準備を進めながら、緋月くんがふと外を見た。
「ところでさ、明日って部活見学の日だろ?」
「うん、どこか見学したい部活ある?」
僕が問いかけると、フライパンを振っていた天城さんが顔を上げた。
「私、家庭科部、見てみたいな!」
「お、意外と王道?」
「料理、もっと上手くなりたいんだー!」
「天城さん、手に持ってるそれ砂糖だけど大丈夫?」
「あっ……!塩と間違えてた!」
「明日は絶対見学しに行こうか」
緋月くんも苦笑しながら頷いた。
※ ※ ※
「出来たー!召し上がれ!」
お皿にこんもりと乗ったオムライスは、
きれいな黄色に包まれて、見るからに美味しそうだった。
「おいしそうだね、いただきます」
昨日の"事件"を思い出しつつ、少しだけ警戒しながら口に運ぶ。
……。
「美味しいよ!天城さん!」
「よかったー!小さいころからオムライスは得意だったんだよね!」
とろりとした卵、ほどよい甘みのケチャップライス。
それは紛れもない「オムライス」だった。
食卓に流れる穏やかな空気に、心まで温まる気がした。
窓の向こうでは、雨雲の切れ間から、ほんの少しだけ陽が顔を覗かせていた。
あの静かな雨の向こうで、
本当の"物語"が、もう始まろうとしていたことを。