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綴界ノ書 -Unrewrite -  作者: 明日、猫。
〜プロローグ〜
3/6

3話 枕と本と麺

投稿頻度を上げるために文字数を2000文字くらいにします。

暖色の明かりに瞼の奥が刺激され、柔らかい布に包まれる感触で目が覚めた。


「起きた!大丈夫? どこか痛むところはない?」


「おっ、目覚ましたな。あんまり無理すんなよ? 左手、結構血出てたからな。意識はもうはっきりしてるか?」


見知らぬ部屋。そばには天城さんと、見覚えのない少年が立っていた。

左手にはしっかりと包帯が巻かれていて、かすかにツンとした薬品の匂いが鼻をくすぐった。


「だ、大丈夫。えっと……君は?」


「落ち着けって。俺は篠森 緋月(しのもり ひづき)。よろしくな。お前のことは見たことあるぜ? 隣のクラスだからな。で、ここは俺んち。基本俺しかいないから、気楽にしていけ」


「……うん。達華(たちばな) しおり、です。よろしく。で、あのあと何があったのかっていうか……」


「ちょっと待って、私も言わせて天城 久遠(あまぎ くおん)だよ。しおりくん、どこまで覚えてる?」


「えっと……天城さんが下りてきて、また狼が現れて……。背中を何かにドンって押されて、そのまま……」


「しおりくん、もう1匹隠れてた狼にやられちゃって……。私、すぐ駆け寄ったんだけど全然反応がなくて……。手に握ってた豆を投げても何も起きなくて……」


「で、俺の登場ってわけ。変な頭痛がしてさ、なんかイヤな感じがする方を見たら、空に向かって草が伸びてた。行ってみたら、まさにお前らがヤバい状況でさ。とりあえず連れて帰って治療してたってわけ。うちの親は医者なんだ。だから小さい頃からそれなりに手当の仕方は仕込まれててな」


身振り手振りを交えながら、緋月は状況を語っていく。


「それで……しおり、本題に入ろうか」


緋月はカバンから一冊の本を取り出した。


「これ、お前も持ってるよな? この本について、どこまで知ってる?」


「……やっぱり緋月くんも持ってるんだ。僕は数日前に拾って……。特殊な“豆”が出る以外は、全然わかってなくて……」


「豆、ね。なるほど。じゃあ、それが俺の見た“空に伸びる草”ってわけか。ちなみに、俺の本はそれとはちょっと違う」


そう言って緋月はページを開き、手のひらをそっと添える。ぐっと力を込めると、彼のスリッパが赤く染まっていく。


「“赤い靴”に変わるんだ。これを履いてる間は、身体能力が全体的に強化される。まぁ、今はスリッパだからさすがに厳しいけどな。その豆で他にできることはないのか?」


「うーん……まだ正直、よく分かってなくて」


しおりは枕元の本を手に取り、自然に膨らんでいるページを開いた。中には小さな豆が4粒、挟まれている。


「この豆を1粒、地面に投げると……太い茎のようなものが空に向かって伸びるんだ」


緋月に豆を見せながら、慎重に説明を続ける。


「でも、さっき狼を倒したときは、ちょっと違う生え方してたよね?」


天城さんが首をかしげながら口を挟む。


「……あれは、たぶんだけど、2粒同時に投げたからだと思う。だから反応が変わったのかもしれない.

緋月くんはどうやってその本手に入れたの?」


「数日前に通学路の途中で偶然……教会横の公園のベンチの上に置かれててな。普段人のいない公園だから興味が沸いてベンチで読んでたら頭痛がしてそっからはお察しの通りって感じだ」


「お互い、出どころはバラバラか。共通点は拾った日付くらいか」


「ま、このまま悩んでてもしょうがない。腹減ったろ?下に来いよ。とびっきりのご馳走を用意してやるよ」


「やったぁ!お腹空いてたんだよね。しおりくん体は動きそう?」


「うん、体はもう大丈夫。行こう」


腰を掛けていたベットから立ち上がり2人と一緒に下に降りリビングへ向かった。


※  ※  ※


「はい、お待たせ。こちら、俺おすすめのカップラーメンでございます。右から塩、味噌、醤油! 好きなのを取ってくれ!」


「じゃあ私は醤油をもらうね。いただきまーす!」


「僕は塩で」


しおりは手前に塩ラーメンを引き寄せる。湯気の向こうで、天城さんが嬉しそうに笑っていた。


「ちなみにしおり、明日は学校休みだろ? 予定とかあるか?」


「特には……」


「なら決まりだ。明日、人目のつかない山で能力の確認をしよう。またあの狼が来るかもしれないし、お前の“豆”の正体ももう少し探りたい」


「山に? どうして?」


「お前の能力って目立つだろ? 市街地でやったら目立ちすぎる。しかも、あの豆……天城が言ってただろ? 他の人が投げても発芽しなかったって。つまり、その本はもうお前にしか使えない可能性が高い」


「……うん。分かった。行こう」


「よーし、それじゃあ私、お弁当作ってくるね! 明日はピクニックも兼ねて、でしょ?」


「マジかよ! 楽しみになってきた!」


緋月としおりは、顔を見合わせて笑い合う。


「そろそろ、3分たったんじゃない?」


天城さんが箸を手にしながら微笑む。湯気の向こうに、少しだけ日常の匂いが戻ってきた。


親からの心配の連絡に気づくのは――もう少しあとだった。

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