こっちが夢であって欲しかった!
「うっわ、久しぶりにこんな時間におきたからちょっと忘れてたけど昨日の配信逃したんだった。
最悪だ...。」
電車には何とか間に合って、息を整えながらまた息を乱さないといけないということに加えて、レストさんの配信を逃したのがとっても悔しくて気持ちが沈む。
「いやいや、アーカイブ終わってから見ればいいじゃん。
切り抜きも今日投稿すればいいし。
でもね...。」
電車だから叫べないが、本当だったらリアタイで見たかったわ!ボケ!ぐらい言ってしまいそうだ。
「ああ...なんて一日の始まりなんだ...。」
今日はこれ以上気持ちが落ちることはないだろう...そんな気がしていた。
「ギリギリセーフ!」
「もしかしてこれデジャヴって奴?
おはよ、みー。」
「よっちゃんおはよう!
今日は世界がクソだね!」
「え...急にどうしたの?
あっ、聞かなくても分かったかも知れない。
もしかして配信見忘れたの?」
「そのとーり!
昨日の夕方にキーボードは壊れるし何か凄い新事実を発見してしまったし、仮眠取ろうとしたらそのまま寝ちゃったり...本当に悲しいわ。」
「まあ、そういう日もあるよ。
で、今日の何時から定期テストの勉強する?」
「あっ、え、くぁwせdrftgyふじこlp!?!>!?!」
「急にどうした!?」
「あ、ごめん。
定期テストのこと忘れてた。
今日はちょっとアーカイブ見る時間取るからパスするわ〜。」
「いや止めといたほうがいいんじゃないの?
だって去年、希美赤点祭りで配信見てる途中でパソコンの電源コンセントごと抜かれたんでしょ?
もうそんな事件起きたら正気を保てないんじゃないの?」
そう言われた瞬間、あの過去がフラッシュバックした。
あれは高1の夏だった。
中間はそんなに範囲は広くなかったし、赤点もなかったという理由で期末テストでサボりにサボっていた私は、案の定赤点を取りまくり、補修を受けることとなった。
そこまでなら「やらかした!」で済む話なのだが、補修期間中にも関わらず、配信を見るために夜遅くまで起き、その後寝不足で学校に行く私を見て、遂に母親の堪忍袋の尾が切れた。
まず、手始めに配信を見て楽しんでいる私の部屋にズカズカと入り込んで、補修期間中のパソコンの使用禁止を言い渡した。
あまりのいきなりの出来事に私はぽかんとしてしまった。
それを見て余計に怒らせてしまい、電源をぶち切られる、ついでにスマホも没収される羽目になったのだ。
あのときは辛かった。
レストさんの配信を一週間ほど見れなくなったのは勿論のこと、スマホもついでに取られたので本当に暇だった。
それ以来よっちゃんに泣きついてテスト前に勉強会を開いてもらっている。
その勉強会が思ったより大分スパルタな気もするのだが...。
とにかく、そんなことが起きていたから断ることは出来なかった。
「うっ...それはそうかもしれない。
じゃあ、もうこのまま直行してアーカイブ見るまでの時間頑張って残すわ。」
「いや服の着替えぐらいは持って来といてね?
まあ決まりってことで。
でもくれぐれも気を取られて集中できないとかやめてね?
それされたらハリセンで叩く羽目になるから。」
「合点承知の助!
多分大丈夫だよ!」
「心配だな...。」
その後は、勉強を終わらせた後何をするか、話をして楽しんでいた。
あの昨日の電気屋のことなんて完全に忘れていた。
だが、忘れた頃にやってくる。
「あの...希美さん...おはようございます。」
一瞬だった。
だが、この一瞬で場が止まり、その後ざわざわしだした。
『えっ、あれって疾風くんじゃ...。』
『何であの子に挨拶してるの?』
『しかも挙動不審だし...カツアゲでもされたのかな?』
ヒソヒソ声が聞こえ、挨拶をされた相手が誰か分かった。
普通、陰キャというものは知っている人を見かけると一目散に知人に近寄り距離感を間違えるというものがある。
ただ、それだけなら問題なかった。
だが、それも、あくまで、相手が冴えない男だったら。
しかし、私に挨拶をしてきた男は一匹狼様と呼ばれるイケメン。
場が凍りついたまま、予鈴が鳴った。
「えっと、こんにちは、疾風、くん。」
まさか朝のときより不味い状況になるとは思わなかった。
私は心の中でバカヤロー!!!と叫んだ。