疾風くんの意外な語り。
その後も疾風くんの語りは続き、私はすっかり宇宙猫になってしまっていた。
「で...あっ、やばいすみませんすみません長々と喋り過ぎちゃいました!
自分に興味があるやつになってしまうとつい早口に...。」
「いや〜、別にいいよ。私はそんなに気にしないし。
で、疾風くんの一番のおすすめはどれなの?」
そう聞いてみたのだが、流石に失礼だと感じたのか、先ほどとは打って変わって、言葉を慎重に選びながら話しているようだった。
「えっと、これ...ですかね。
一応、これ、僕も使ってるん、ですけど、レストって言う配信者の方も、使ってるみたい、ですね。」
レストさんが使っているという話を聞いた瞬間、思わず食いついてしまった。
「えっ、レストさんも使ってるの!?じゃあこれ買うわ!ありがとう疾風くん!」
なにそれ初耳なんですけど!?!?!?
やばいやばいおそろとか嬉しすぎて吐きそうなんですけど!
「あっ....。えっと...。」
私の勢いに押されたのか、また疾風くんはキョドった顔になっていた。
おっと、興奮しすぎたようだ。
もう一度心を落ち着かせてお礼を言う。
「ありがとう、疾風くん。
あなたのおかげで推しへの新しい共通点を作れたよ。
本当に感謝しているよ!」
そう言うと、褒め慣れていないのか、少し照れた顔で、
「いえ...こちらこそ力になれて嬉しいです。」
「うぐっ...」
「どうしたんですか!?」
ダメダメダメダメ!
こんな笑顔を見せられたら心が痛むよ!
いくら意識をしていない相手とはいえ相手はイケメン。
流石に少しダメージが来てしまった。
「いや...気にしないで。
じゃあ会計済ませるから。
それじゃ。」
「いきなりなんじゃ...いや何でも無いです。
さようなら。」
なんか最後に言おうとしていた気がするが関係ない。
足早に会計を済ませて帰る。
何だったのだろうか。
いくら何でもイケメン耐性がないからってこれはさ...。
ということは恋...ってこと!?
いや流石に現金過ぎるか。
もしかして自分にもイケメン願望が...まあ誰にでもあるといえばある。
まずツッコみたいところは何個かあるので自転車に乗りながら発散させる。
「それにしてもまさか疾風くんが陰キャだったとは...。
でも、たしかにそれだと今までの行動に納得がいくもんね。
意思疎通が取りにくいし、いつも寝てるか狙われている女子に話しかけているイメージしか無いし。
いやでも、それだとしてもやっぱりおかしいでしょ!
普通そういうイケメンは私達のテリトリーには上から入ってくるもんでしょ!
なんでオタクサイドからすーっと侵入してんのよ!?」
なんかもう半分八つ当たりだ。
でもこういうイケメンが出てくる恋愛漫画は大体全然オタク文化には詳しくないけど、「へぇ〜、これいいじゃん。」みたいなこと言いながら口説いていくもんだと思っていた。
「確かに恋愛漫画と現実は違うけどさ、まさかもうこれ一周回って恋愛漫画で書けるんじゃねえのって思えてきたし!」
そこまで言って、ふとこのキーボードを買った理由を思い出した。
「でも疾風くんってレストさんのこと知ってるんだ。
オタク友達としてみるならアリなのかも...いやあんなイケメンいたら周りの友達全員もれなく失神するわ。」
やっぱり駄目だと思い、当初の通り、関わらないという方向で行くことにした。
面倒臭い事に巻き込まれるのはごめんである。
「もし、仮に実はめちゃくちゃ話が面白いとかなら別なんだけどな〜。
これでデバフがかかってる限り私の好みに一生入ることはない!って何言ってんだ私。」
だが、そんな思いも一瞬。
家に帰ってくると、先ほど恋愛小説の主人公ならどんなシナリオで行くのだろうという脳みそから一転、今すぐゲームをしないといけないという使命感とワクワクですぐに忘れてしまった。




