世界を色づけた音色
人生に色がつく瞬間は、永遠だ。
よろしくお願いいたします。
大好きだって言ったら、君がちょっとは、幸せになるだろうか?
「猪田、なんか変なこと声に出てるよ」
「うわっ、何だよ、お前、盗み聞きだぞ」
泉田が屋上に登ってくる。
「ここが勉強にもってこいなんだって。ここは猪田に後から貸してやっただけだぞ」
「泉田さあ」
「人生ってなんなのかな?結局生きることには意味があるって、思い込みのこと?泉田は人生の目標があって、幸せ?」
「目標があるから幸せっていうのもあるけどさ、猪田はもっと素朴なことから考えてみなよ」
「だって実際に、楽しいことは身近にあるじゃない。みんな笑わせてって、笑顔にしてって言ってるよ。それにちょっと答えてみるだけで、人生はきっと輝く」
「輝くって、何よ?」
「理屈を超えて、どうしてもいいなって思えるってこと」
「自分だけがいいなと思うだけでもいいのかな?」
「本当に自分だけがわかる幸せで、満点の満足が得られるかっていうところは、興味深いところだけどね。自分だけじゃなくて、きっとみんなもいいなって思えることも、人生にあるでしょ?共感し合える幸せが、やっぱり強固な幸せと言えるじゃないかな」
「そんなこと、そうそうあるもんかねえ」
「あるよ。きっとちょうど忘れてるだけ」
「絶対に、ほぼ確実にいいと言えるものも、この世には実は結構あるよね。お母さんに笑顔で朝食を出してもらったときとか。例えばちょっと酔っ払った、優しいお父さんを待っていて、扉が空いたときとか」
「子どもの病気が治ったときとかな」
「そう。私は、そんな幸せをみんなにあげたいんだよ、だから邪魔しないで」
泉田は新薬の研究者になりたい。
みんな死ぬほど頑張ってきたから、死にたくないんだっつーの!!
横糸がヤンキーに死ねと絡まれてる女性を助ける。
君が好きだって心底思うと、鳴り始める素敵な音とか色づき始める情景とかに目を奪われそうだから、君のことをしっかり見なくちゃって思うの。
私は今、心の研究中。体だけじゃなくて、世界の人の心も治してあげないとね。
人生を人生らしく認識するには、色が必要。その色をあまり見つけられない人もいる。それって、死んでもいいかもってことかもしれない。でも少なくとも、それは「自分が本当に欲しいもの」はこっそりと持っていて、求め続けてるといつか「自分が本当に欲しいもの」が過去や今に、色を塗ってくれるときが来る。
本当に本当に今まで全てを賭けて愛してる存在。そんな君がいる世界で笑う。それ以上のことはこの世にきっとないからさ。
心から欲しいものは、欲しいって言ったらいいんだよ。
音が、必要?人を好きだと思うときに。
うーん、必要っていうか、鳴ってるのよ、今まで聞いた、聞いて感動した音かもしれない。とにかくきれいな音が鳴ってるの。
泉田は、そうなんだね。じゃあさ、俺が演奏で泉田を感動させられたりしたら、その音楽に、俺がなれるかもしれないってこと?
それは、こう、無意識が決めることだけど、そうなることもあるかもねえ。
泉田、ちなみに今は、音はなってないの?
え、今は、なってないなってない、考え事も、してないもん。
もしも泉田がいなくなったら、きっと心が正常に動かなくなって、、、とても不安だ。泉田がいると心が軽くなって、どこへでも行けるんじゃないかって、とても楽しみなんだ。
そんな気持ちを、好きだと伝えても、バチは当たらないはずだ。
ふ〜ん。
イルミネーションの下を歩く泉田と横糸。
泉田がそれを心から言ってるんだったら、今すぐ泉田を抱きしめていい?
抱きしめられて自然と顔が上を向く。その時見えたこのイルミネーションのことを、私は生涯忘れないでしょう。
2人が交際を始めたことは、公然の事実となった。
コンクールに来てくれない?最高の演奏にするよ。
こんなに、知ってるやつの演奏って、胸に響くものなのかねえ。。。
いやきっと、それだけじゃない。私が、私たちが今幸せなのは、猪田が、幸せにしたがってるからだ。みんなを幸せにしたがってる。
目を瞑る。
私は、今後の人生で、この音のことを何度だって思い出すだろう。
幸せを願う音。人生にはとても良く合ってる。
コンクールを泉田に聞かせて、俺は何がしたいんだろうと一瞬考える。少しでも意地汚く心に残ってやろうという、恋が実らなかった男の、ちょっとした復讐心だろうか?
復讐心ではない。ただ、俺の音が、泉田に聞かせるのに十分に美しいんじゃないかって、そう思ったんだ。
その音は泉田の心に一生残り、泉田を幸せにし続けるかもしれない。
ただ、そんな未来がいいと思ったんだ。
俺は一生、泉田の人生を祝福し続けたい。
そのためには、こんな方法もあるんじゃないかと思ったんだ。
俺は一心不乱に演奏する。美しいものをこの世に増やすように。これが、好きな人といるときに鳴るに足る、素晴らしい祝福の音楽であるように。
俺は、君の恋人じゃなくて、君が好きな人といるときに鳴る、音の一部になれたらいい。
終盤、弾きながら手応えを感じ、やり遂げた、と思う。
そう思っていると次第に時間がゆっくりと流れ、音に、景色に、色がつく。この演奏したことは、それを泉田に聞いてもらえたことは、俺の生涯の誇りと、きっとなる。
俺の場合、人生に色を付けたのは、それは例えばこんな音色だった。
いいことあったの?
なんで?
なんか、いつもより、つまらなくなさそうっていうか。。。
そうかもな。俺はな、人生の色を見つけたんだ。
え?なにそれ、恋ってこと!?
それは少し違う。でも、いいものだ。泉田には教えてやらんよ。
音、ありがとう。
え?
演奏、ありがとうって思って。
。。。それでじゅーぶん。
じゃあ、私行くね。
おー、気を付けて帰れよ。
うん。
。。。やれやれ。俺の「本当に欲しいもの」はこんなにも可愛らしかったんだねえ。
また、次の欲しいものが、いつか見つかればいい。
俺には、その時までのあたたかさは、もうじゅーぶん。
男の子はきっと、満足したでしょう。
これから書いて参りますので、どうぞよろしくお願いいたします。




