最終話
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エピソード「最終話」の断片・プロット
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戦闘は終結。
半ば廃墟と化した都市。被害の少ない建物に、生き残った人々が寄り添うように集まっている。道路の脇に並べられた遺体や、無事だった年末年始の祝祭用の備えが、悲劇を安っぽく彩る。
街は、静まり返っている。どこかからぽつりぽつりと鎮魂の歌や祈りの言葉が風に乗っては溶けていく。それ以外は雪の降り積もる音と足音だけ。
生き残った人員は状況確認に追われていた。
ブレンダンはパルサティラの遺体を発見する。奇跡的に綺麗なままだった。手帳に名前と発見場所を記し、回収用のタグをつける。身につけていたマフラーを外し、パルサティラの遺体にかける。そして、その場を後にした。
ゲルトルードはケモノと相打ちしていた。
ケモノの頭部は厚い銃身を抉り込まれ、潰されていた。その銃口を捻じ込む体勢のまま、ゲルトルードもまたケモノの腕と触手でその身を穿たれている。
フランツィシュカは壁の上に立ち、被害を受けた街を眺めていた。
その場に剣とペンダントを残し、壁の向こうへと姿を消す。
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ウルリカとリルは、消息不明。
壁外、白い花の咲く場所に二人の神器が落ちていたことから、死亡したと考えられた。
そのまま数日が経過する。
聖堂では聖下が祈りを捧げ続けている。
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生き残った「聖女」たち。
ティナは「学校」の屋上にいる。野外用の小型ストーブで暖をとっている。傍らにライフルを置きながら。
仮設のベッドに寝かせられているイリス。傍らにいるペトラ。
イリスはすでに下半身の感覚がなくなっており、遠くないうちに全身が麻痺すると診断された。
「ちゃんとボクを殺してくれるまで、生きていてくれよ」
「ああ、お互いにな」
ロズメリーは生還こそしたが、自分の名前を完全に忘れていた。
「ねえ、次の出撃はいつ?」
無邪気に次の作戦の予定を尋ねている。
アデーレは、まだ瓦礫の撤去も始まっていない「学校」構内の一角で煙草を燻らせていた。
「はぁ、結局はわたしひとりぽっちか……どうするかなぁ」
空っぽの左袖を見る。
◆◆◆
冬の海岸、コテージのテラス。
ウルリカとリルは、雪がちらつく中、海を眺めていた。
お互いに、これは夢か何かだとわかっていた。目の前にいる彼女は幻なのだと。
その証拠にウルリカは五体満足で、髪色も赤い。リルも右目の傷はなく、義眼ではない。
「想像していた海はもっとキラキラしていたのだけれど……、まあ、そうですよね、冬ですもんね」
「こういうときくらい、気の利いたことをしてくれてもいいと思うんだけどな」
「はは、こういうのって意外と思いどおりにならないものだから」
「ねえ、はじめて会ったときのことを覚えていますか?」
「はじめて?」
「ええ。……あのときもあなたは、不機嫌で、みんな嫌いだ~って空気を纏っていて。でも、賑やかな街の中で、誰も本当のわたしのことなんか気付きもしないのに、あなただけはつまらなそうな顔をしながら、わたしのことを見てくれた」
「いつの話を」
「さあね」
「……でも、あなたと会えてよかった。こうして一緒にいられて、よかった」
「……冷えるから中に入ろう」
「ええ」




