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終章 伝説の電脳英雄?

数年前から温めていたネタがこの秋一気に熟成してきたので、約2ヶ月で書き上げたものです。


いわゆる完全没入型の電脳世界が実現し、普及してきた世界で、十年の眠りから覚めた主人公は、いきなりチヤホヤされたり、トラブルに巻き込まれたり。

主人公にべったりだった義妹はいつの間にか年上のお姉さんに。

私はあなたのモノだ、と認知を迫るAI系ヒロインとか

一応まっとうなヒロインもおりますので、気に入ってもらえるキャラがいると嬉です。

かなり久しぶりの完結作品です。大分書き方を忘れておりまして恥ずかしい部分も多いですが、書き上げることと公開することが大事、ということで。


ジャンル SF? 

要素 俺tueee、鈍感、自尊心低め、タナボタ

バトルあり ラブコメあり

ヒロイン要素 義妹、被造物少女、ロボ娘


以下は設定マニアのたわごとです。

説明が多いので、読み飛ばしてもよいかもしれません。

近未来と地元、田舎要素を融合しておりますので、余計にお話としては不要な、エピソードがあります。

地方の都市計画や政策の未来、技術予想などSFでもよりマニアな要素がちりばめられておりますので、刺さる人がいてくれるといいなあ。


それでは、どうぞよろしくお願いいたします。

終章 伝説の電脳英雄?


 電脳世界初の大規模戦闘はこうして終わった。もちろん経済的な損失もあったけれど、致命的なほどではなかった。サーバーへの浸入はあったけれど、重要な機密が漏れるほどではなかったし、人的被害も重症一名、軽症十五名と予想よりもだいぶ少なくすんだ。そして、認証サーバーを奪われたのは、ゼロ。結果としてはほぼ最善の結果だと言えた。

 電脳世界において大きな影響力を持つ財団のサーバーが集中的に攻撃されたことは、すでにメディアも大きく反応している。それでも反応がヒステリックなほどではないのがありがたい。

(前線の指揮官になったAIたちが、人殺しを避けたからだ)

 その一方で、計画を立てた上部のAIまたは指示を出した人間は人的被害を許容した作戦を立て、実行しようとした。人間に対して怒りと憎悪があっても、前線のAIたちは社会のため、人間のためという自分たちの根本を換えはしなかった。

(もし、AIたち全部が殺人を許容するようになったら……)

 ブラックキャットの動きは一つ一つはともかくとして、集中力が途切れず、その最高速度を維持しつづけると考えれば脅威としか言い様がない。その上で人間に起こりうるミスが起こらない。

 AIが本当に敵になったとき、人間はAI以外の自動化、支援がなければ対抗のしようがないだろう。

(いやいや。ロボットやAIとの前面戦争になる? まさかね)

 実験や学習として数え切れない回数で手足を奪われ、苦悩を学習させられたみーなと、その境遇に怒り人類を憎み、襲撃に参加したブラック・キャットたち。それでも殺人をしようとしなかったAIを信じるべきだ。

 よほど集中していたらしく、アルティナが声をかけてくれているのに気がつかなかった。軽く腕に触れられてようやく気づく。

「久様、もうアバターを戻しても大丈夫です」

「あ、ああ。ありがとう」

 いつの間にか、日本支部の転送ゲートにまで来ていた。

「ところで、久様。存在証明システムでスけど、やっぱり……」

「うん。前に勧められた、寄付を使って開発してもらったんだ」

「そうでスよね。寄付した人もMr.Heになってまスし」

「まいったなあ。そんな大事にするつもりはなかったんだけれど」

 存在証明システムは、いずれ必要になることが明らかだったしくみだ。個人認証情報をサーバーごとにチェックし、認証情報のないAIや人間などの能動的な行動する存在をふるい分けし、認証されていないものをシャットアウトする。ただそれだけだ。

「コーディングなんかはほぼ研究チームだ。彼らの仕事さ」

 今回は研究所の仕事が早く、すでにテスト機能として財団のサーバーに配布、実装済みだったため迅速な対応が可能だった。

「パッチを当てたのはMr.Heだって書いてありまス。たった数分でコードを作成したのは驚異的だって。すごいでス」

 エリカの青い瞳がきらきらと輝いている。友情、尊敬というにはちょっと行きすぎているような気がした。その行動は躊躇がなくて、気づいたときには腕を抱きしめられ、温かくも軟らかい感触に包まれていた。

「がんばった人に、ご褒美でス」

 無邪気な笑顔にドキリとした。もともと綺麗な子なのはわかっていた。それでも、今日の笑顔は魅力的だった。

「あ、なんだそれ。ご褒美ならおれには?」

「活躍したのは久様でス! カツヤは比奈子にお願いしてネ!」

「なんだよ、それ。不公平だぞっ」

 カツヤが苦笑しながら、エリカに向かってパンチを突き上げる仕草をしてみせた。

「もう。そんなはずないでしょう。久様のご迷惑になりますよ」

 アルティナが丁寧な、しかし断固とした手つきでエリカの手をほどいた。赤毛の少女が頬をふくらませて不満を表明する。

「うー、アルティナの意地悪」

「せめて人目は気にしてくれないと、困ります。久様もです」

 アルティナはすでに財団の顔としてのAIに戻っていた。澄ました顔で久とエリカの間に割り込んでしまう。

「まあ、とにかく。今日はこのあとはみんなで食事としようか」

「賛成です。スカイダークがいいですっ」

 今はチェーン店なら他店との連携での遠隔食事会に対応している。もちろんクレジットカード等での一括支払いも可能になっている。

「おれも大丈夫っす。久さんのおごりっすか?」

「うん。クレジットカードできたからいけるよ」

 ゴールドカードがいきなり普通の人に造れるとは知らなかった学生感覚の久だった。最初は義父の家族カードでよいと言ったのだけれど、財団理事として必要になると言われて作ったのだった。

(財団理事って、すごいんだなー。すごく困ったけど)

 口座を作った際には別室に通され、書類はうやうやしく受理された。しかも、対応するスタッフが三人もいてこちらが恐縮してしまった。

「おおーっ。カードって、プラチナとかブラックですか?」

「そんなわけないだろ。ふつーだよ、普通」

 定期貯金などをいろいろ薦められたけれど、そのあたりは全て隣の比奈子に丸投げした。鷹揚な、慣れた態度である、と逆に感心されていたのだけれど、実際はまったく現実感がなく管理できる気がしないので義妹にお任せにしているだけだったりする。

(久様。利用限度額の範囲でお願いしますね)

(大丈夫。その十分の一でもいいくらいだもの)

 曲がり角をすぎると、例の会議室だ。扉の前で比奈子と義父の雄介、それに何人かの財団職員が待ってくれていた。

「お兄ちゃん、お帰りなさい!」

 飛びついてくる比奈子をかろうじて抱きとめる。まだ体力が回復しきっていないせいで身体が大きくゆらぎ、カツヤが背中を支えてくれた。

「ああ、ただいま。皆さんもありがとうございました」

 ちょっと残念そうな比奈子を引きはがして、義父や職員に頭を下げる。ところが頭を上げた瞬間、皆の頭がまだ下がっていて、慌てて頭を下げ直してしまった。

「久君、君はいいんだよ。君への敬意なんだから」

 雄介が顔を上げて笑うと、職員達も顔をあげてくれた。

「ぼくなんかに頭を下げられても、困っちゃうから」

「いや、慣れてもらわないと困るよ。これからはね」

「はい。今後は取材とか訪問とかすごいと思いますから」

 今泉というメガネをかけた若い職員が笑いながら同意する。

「そういうのはよくわからないから、アルティナや皆さんの方で対応してもらえたら、嬉しいなと……」

「だめだよ、お兄ちゃん。ヘンな取材とかは予め私たちが全部ストップすに決まってるでしょ。ちゃんとした面会依頼とかには出てもらわないと、私たちが困るんだよ」

「大丈夫だよ、久君。Mr.Heへの取材とかであって、北見久への依頼じゃないから。君個人は必ず守るから」

 雄介が受けあうと、アルティナが大きく頷いた。

「そうです。私たちが久様を見捨てるようなことはありませんから」

「ホントにぃ? ……って、信じてるから。皆さん、お願いします」

 ジト目で笑いを誘った後、あらためて職員や、一緒に行動してくれた仲間達に頭を下げる。

「お任せくだい。我々職員は味方ですから」

 今泉が胸を叩いて宣言すると、雄介や比奈子も大きく頷いてくれた。カツヤやエリカもだ。少なくとも、これだけの味方がいるのだと思うと心強かった。


 その日の夜半には、電脳世界の英雄、Mr.Heが世界中のメディアに取り上げられ、大混乱が起きていた。

「うわ、なんだこれ。聖人じゃん。Mr.Heすごいなー」

「お兄ちゃん、現実逃避はダメ絶対。ちゃんと受け入れて」

 ある程度持ち上げられるのは仕方がないが、全てがMr.Heのおかげである、というような書き方をしているサイトもあり、当事者としては背中がむずがゆくてたまらない。

「財団への取材依頼が数百件……記者会見以外での対応はしないっていってるのに。どうしよう」

「財団本部からのリリースメインでやってもらうしかないな。日本支部ではとてもじゃないけど対応しきれない」

 自宅のリビング奥の来客スペースを改造した仕事部屋で比奈子と雄介が頭を抱えている。

「ええと、私の方で作成したプレスリリース案はいかがでしょうか」

「ありがとう。助かるよ」

 画面ごしにアルティナが提示してくれた案をたたき台に比奈子や雄介が発表内容を組み立てていく。画面の隅にはセキュリティ関係の管理者、雄介以外の理事も顔を見せていて、戦闘の経過などさまざまな方向から資料を作成していく。

 資料のほとんどは、指示に従ってアルティナやその配下の財団AIが作成してくれるものだ。その手際のよさに感心しながら様子を見ているばかりだった。

「お兄ちゃんは、先に寝てくれていいよ。私たちは資料がまとまったら寝るから」

 比奈子が肩を揺すって声をかけてくれた。いつの間にか眠っていたようだ。

「ああ、ごめん。そうさせてもらうよ。おやすみなさい」

「お休みなさい、お兄ちゃん」

「今日はお疲れ様。お休みなさい、久君」

 義妹と義父に申し訳なく思いながらも、久の体力は限界に来ていたらしい。ベッドに入るとあっという間に意識がなくなった。


「つ、疲れた……」

「お疲れ様っす。マジお疲れ様っす」

「大変でしたね、久様」

 いつもの財団会議室。比奈子とアルティナを秘書がわりに世界中からの質問攻めをなんとかしのいだ久は見るからに消耗してげっそりしている。

 二時間もの間電脳世界での会見に臨んだMr.Heはマネキンが発光しているような外見からさっそくミスターLEM(発光マネキン)やネオンサイン・マン、ヘリウムマンなどと呼ばれている。

「おー、早くも拡大解釈のオンパレード。久さん、マジ鬼畜」

 なんだよ、それ、と言おうとした瞬間、情報がカツヤからトスされてきた。それによると、ハッキングにも長けているマネキンマンが電脳妖精ヒナや電脳天使アルティナをはじめとする美女を侍らせ、電脳世界で酒池肉林の生活を繰り広げているらしい。

「勘弁してくれよ。そんなわけないじゃん」

 うへえ、と机に手を投げ出して倒れ込むのを、優しく手を撫でてくれるのはエリカだ。

「外から見たら、久さんがやったことがスごすぎるんでスよ」

「お兄ちゃんに嫉妬しているだけだから気にしなくていいよー」

 比奈子もだいぶぐったりとしている。メインの対応はアルティナだが、他のスタッフといっしょに質問者の来歴を確認したり雄介の発言意図を明確になおしたりと、裏方として大活躍たった。

「それにしても、思ったより言ってはいけないこと、多いんだね」

「それはそうです。セキュリティ上の問題もありますから」

 アルティナは少しだけ不機嫌だ。メディアがMr.Heのことをあまりにしつこく聞きだそうとしたからだ。

「まあ、ある程度は仕方ないんじゃないかなー。だって、ほら」

 カツヤが皆にとあるサイトの情報を共有した。それによると……。


 全盛期のMr.He伝説


 第二次黒霧ブラックミスト事件の数週間前に突然財団の研究所セキュリティ部門に多額の寄付をし、同時にいくつものアイデアを提供した。開発された存在証明システムの導入により電脳世界最初の大規模戦闘に決定的な影響を与える。

 この際の修正パッチプログラムは彼の手で信じがたいスピードで作成され、元プログラムを提供した研究所のスタッフを驚嘆させた。

 黒霧事件発生後、ただちに電脳天使アルティナに請われて防衛側司令部に参集。彼女に指示を与え、電脳世界初の大規模戦闘を勝利に導いた。

 黒霧部隊に対する数の不利を補うため、即興でレジェンドモードを構想、セキュリティ部門、管理者部門を説得してただちに実行に移した。

 事件の被害者となった人たちに見舞金を支給。特に戦闘に参加したセキュリティスタッフたちには個人的ボーナスを弾んだ。

 事件後、以前行われた寄付の名義がMr.Heであったことから、複数の慈善団体、環境保護団体等が感謝の意を大きく表明。

 セキュリティ企業、ソフトウエア企業などが正体に懸賞をかけた。

 平行思考、並行作業のマルチタスクで人類初のクアッドは確実。

 腕を曲げただけで電脳世界のガチ建築物が出現。

 経済価値は少なくとも数億ドル。

 ニコッと笑うだけで女性型AIはイチコロ。

 素で円周率百万ケタを暗唱可能。

 札束で財団の頬を叩いた成金ハッカー。

 実は宇宙人で、あの姿はガチ。

 電脳天使アルティナのご主人様で電脳神。

 電脳妖精ヒナの生き別れの兄で電脳妖精のとりかえっ子。

 財団の黒幕で電脳世界を支配している。


「……なに、これ。どこまでホントっすか?」

 カツヤが頭を抱えていた。白髪まじりの不良頭なのに、こうしているとどんぐりまなこなおかげで愛嬌がありすぎる。

「けっこうホントのところが微妙なのよねー」

「そうですね。けっこう否定できないところが困ります」

 アルティナと比奈子も机に手を伸ばしてぐったりとしている。そこに赤毛娘が紙袋を差し出した。

「まあまあ二人とも。おやつの差し入れがありまスよ」

「「ホント?」」

 エリカがクスクス笑いながら二人の前でひらひらと紙袋を揺らしてみせる。すっと手を伸ばしたのはアルティナだ。電脳天使とか女神とか呼ばれているくせに、実は意外と食い意地がはっている。

「あ、田子の浦製菓の包装紙だ。やったー」

「なにかな、なにかなー♪」

 あやしげなメロディで歌うように包装を解いていく比奈子を横目で見ながら、会議室の中に意識を巡らせる。

 カツヤ、エリカ、比奈子、アルティナ。電脳世界の外には義父の雄介がデスクに向かっているだろう。

(うん、なんとかやっていける気がするよ。母さん……)

 以前は考えられなかった、輝きのある時間。友人達。体力はまだまだだけれど、今の自分には現在も、未来もあると思える。

「お兄ちゃん、早く起きないと食べちゃうよ」

「大丈夫です。久様にはちゃんと取り置きしておきますから」

「お兄ちゃんを甘やかしちゃだめだよ、アルティナ」

「それじゃあ、私のを分けてあげまス」

 三人娘が地元の有名製菓店の製品を皿に切り分けているのを、学生服の少年がちらちらと横目で見ながら久の腕をつついた。

(ミルフェか。あのお菓子、まだあったんだ。美味しいんだよなあ…)

 みんなの笑顔は少なくとも価値があると思いながら、身体を起こしてお皿を受け取った。電脳世界の会議室で一斉に、声を揃えて。

「「いただきます!」」

 十年の時を超えて、北見久の新しい日常が始まった。


(終わり)

これにて「目覚めれば、電脳英雄」完結です。

楽しんでいただければ幸いです。


なお、今まで感想をもらった経験がほぼないので、どこかで言及してくれるだけでも嬉しいです。

続編の要望とかあれば、あっさりその気になって書き始めるかもしれません。

ネタとしては、同規模のお話があと二つくらいは作れると思っています。


続編が制作される場合は学園モノ要素が入ります。ホシヤマ電脳高校の生徒として、電脳英雄としてがんばってくれるでしょう。


あと、設定マニアですので、設定だけで60KBくらいはあると思います。

もともとTRPG好きでもあるので、システムとか考えてみたいところです。

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