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四章 3 未確認動物との遭遇

数年前から温めていたネタがこの秋一気に熟成してきたので、約2ヶ月で書き上げたものです。


いわゆる完全没入型の電脳世界が実現し、普及してきた世界で、十年の眠りから覚めた主人公は、いきなりチヤホヤされたり、トラブルに巻き込まれたり。

主人公にべったりだった義妹はいつの間にか年上のお姉さんに。

私はあなたのモノだ、と認知を迫るAI系ヒロインとか

一応まっとうなヒロインもおりますので、気に入ってもらえるキャラがいると嬉です。

かなり久しぶりの完結作品です。大分書き方を忘れておりまして恥ずかしい部分も多いですが、書き上げることと公開することが大事、ということで。


ジャンル SF? 

要素 俺tueee、鈍感、自尊心低め、タナボタ

バトルあり ラブコメあり

ヒロイン要素 義妹、被造物少女、ロボ娘


以下は設定マニアのたわごとです。

説明が多いので、読み飛ばしてもよいかもしれません。

近未来と地元、田舎要素を融合しておりますので、余計にお話としては不要な、エピソードがあります。

地方の都市計画や政策の未来、技術予想などSFでもよりマニアな要素がちりばめられておりますので、刺さる人がいてくれるといいなあ。


それでは、どうぞよろしくお願いいたします。

四章 3 未確認動物との遭遇


 「フンフン──♪」

 赤毛の少女が鼻歌を歌いながら、リズミカルな歩き方で進んでいくのは見ていても気持がいい。

それにしても、後ろから見ているとスラリと背が伸びて、日本人なら中学生の年齢だということが信じられない。男子高校生的感覚から言うと胸にしろお尻にしろ、しっかりと成長していて。

(そうじゃなくて。彼女がしっかりとしていることだろう)

 見た目が可愛いだけではなくて、飛び級で高校卒業できるだけの知力、そしてIT企業の社長令嬢。二物も三物も与えられた少女は、周囲に影を感じさせない、天真爛漫な、デキる女の子だ。

 エリカはリーダーとしての教育も受けているのだろう。しっかりとした視線と口調で言うことに説得力があるし、こうしてメンバーに気を遣うこともできる。

(まだ十五歳か。ぼくは自分のことしか考えてなかったなあ。)

 人種の違いもあるだろうけれど、その表情がなければもう成人にも見えてしまう。日本人は童顔だからそう思うのかもしれないけど。

「ここが最初のポイントです。マップにある生物の写真を撮って、転送しまくってください」

「「「了解」」」

 四人はさっそくアプリを使って写真をとりまくる。何の変哲もない公園の一角。もう少し進めば遊歩道もある区画だった。

「ミツバチいた。写真撮れて……小さすぎっ」

 草花はじっくり観察できるが空を飛んだりジャンプする昆虫は素早く狙いをつけて撮影する必要がある。なかなかに難しい。

「バッタ発見。種類は……ショウリョウバッタかな」

「アザミ、オオバコ、タンポポ」

「ススキ……ハギ? ヤブカラシ」

 今までに観察された実績のあるものはその写真があらかじめ掲載されているため、それを探せばいいし、とりあえず写真を撮ればAIがかなりの程度分類してくれる。

「ミミズのフン」

「トビが飛んでるけど……このポイントじゃないなあ」

「備考欄に入れておきまス」

 数分間で調査項目はだいたい埋まったが、ボーナスを得られそうなものは見つけられなかった。

「えーと、だいたい見つけられました。送信して次にいきまス」

「「「了解!」」」

 事務局側での審査の間、待っていてもよいが実際に待っているチームはあまりない。しっかりと撮影していれば十分な結果が得られるはずなので、どんどん先に行くチームがほとんどだ。。

「我々はポイントを西に向かって順番に調査していきまス」

 エリカがマップを確認しながら皆に声をかける。

「うん、あまり凝ったことをしてもしょうがないよ」

 マップ埋めのシステムであり、最初の調査ポイント以外自由に選択できるため、複数のチームが同時に同じポイントを調査しようとすることもあるし、お互いに牽制しあって島のように未調査のポイントが残ってしまうこともある。

「時間が無駄にならないように、順番にやるのがいいよね」

 最初にポイントの全景。そして、指定されている動植物を探し、撮影する。チョウや野鳥などは常にいるとは限らないので、撮影できるとは限らない。だからポイントの調査項目に入っているからといって、全部埋めなくてはならない、というわけではない。

 その見切りをどうするか、は戦略の一つだ。

 先に大きく進んで他のチームの進行方向のマップを埋めてしまう、なんてことも可能だし、今回はボーナスが得られやすい遊歩道など自然がより豊かなポイントを先に目指しているチームもいる。

「お、綺麗なヘビ発見っす。写真ゲット」

「いや、日本で綺麗なヘビは毒ヘビが多いから」

「ヤマカガシ……普通に毒ヘビですね。被害は少ないらしいでス」

「うわ、すごいバックしてる。ヘビってバックできるんだな」

 普段はあまり見ることのないさまざまな生物に少年少女のテンションが上がる。みーなの表情も最初のころの遠慮がちなものから、夢中になって写真を撮っている感じだ。

 二度目の休憩をとろうとしたとき、エリカの端末が警告音をハッした。通常とは違う音色に全員がビクリと肩を震わせた。

「あ、事務局からメッセージが入ってきました……っ!」

 電子音とともに振動が通知を知らせてくる。ストラップに手首を通したまま画面を確認したエリカの声が緊張がこもる。

「な、なんでスか、これっ……みんなも確認して下さいっ」

 エリカから即座に転送された画面には野生動物の注意情報。F市からの情報と、今回の調査会の参加者からの情報と二種類あるようだ。

『野犬と思われる動物の目撃情報』

 中型犬、または大型犬らしき動物が調査会場周辺で目撃されている、というものだ。チーム全体の雰囲気が張りつめたものになる。今のところ被害情報はないものの、一定以上の大きさの野生動物は危険なので気をつけてほしい、というような注意喚起だ。

(草食動物でも、蹴られると死ぬらしいし、確か体重で数倍の人間と互角っていったっけ……)

 だとすれば、ヤバい。日本の本州でのクマの事故はツキノワグマだが、死亡例だってあるのだ。イノシシでも事故はしばしばある。野犬だって、群れに襲われれば死亡事故だってあり得る。

「近くの他のチームに連絡をとってみようか」

 久がエリカに声をかけた直後、カツヤが皆の前で手を振り、口を閉じろというジェスチャーをした。

「野犬って……これのことっすかね。青黒いのがいるっす」

 低い声で、手持ちの端末の画面を見せる。そこには端正な、そして精悍な印象の生き物がゆったりと歩いている様子が表示されている。

「これ、自分の義眼からのクロップ画像っす」

 田中カツヤは改造人間である。その義眼は人間の視覚を補うだけの超高解像度であるだけでなく、多焦点機構を備えている。つまり、ズーム機構だ。シームレスではなく、近距離、中距離、遠距離の切り替え式だが、望遠側としては肉眼の数倍の能力を持つ。

 クロップというのは切り抜きだ。視界の一部を切り出して拡大したということだろう。カツヤの義眼は電脳技術の応用のため、いろいろ応用がきくようだ。

「画像がかなり荒いけど、遠いから?」

「そうっす。見えっかなあ、アレっす」

 田中少年の指さす方向。山肌を灌木や草が覆っている中、ごま粒のような褐色の影が動いている。

「ちょ、待っ……人がいまスッ!」

「他のチームの参加者じゃない? 教えないとっ」

 動物の移動方向には、カラフルに彩られた三つの人影。どうやらまさに調査中らしい。

「あれは……滝川チームです。私からメッセージを入れますっ」

 みーなの声も固い。動きが止まっているのは問題のチームに連絡をとっているのだろう。

「事務局がマップに野犬の情報を反映しましたっ」

 エリカが手元の端末の表示を更新した。マップのそこかしこに今までなかった赤枠と黄色の枠が表示された。

「黄色が10分以上前、赤が5分以内の表示でス」

 立った今の報告が反映されたらしく、マップには滝川チームのアイコンと赤いビックリマーク、四つ足動物のマークが表示された。

「けっこう広い範囲で目撃されているんだね」

 一匹なのか、それとも数匹の動物がいるのかは、今のところ確認できない。同時刻の目撃情報がないけれど、比較的時刻が接近していることから一匹が移動しているのではないか、と思った。

「滝川チームから返事がありました。事務局から指示があるそうです」

 みーなの報告にエリカやカツヤがホッとした表情になる。

「我々はどうしようか。滝川チームと合流を提案したいけど」

「あ、滝川チームは動物を刺激しないように、ゆっくりと歩いての帰還を指示されました。警察も動いてくれるみたいです」

 走り出すと、動物が興奮して襲いかかってくるかもしれない。なるべく刺激しないように、ゆっくりと後退するように、という指示だ。

 さらに全員の端末に事務局からのメッセージが届いた。

「自然調査会は早期終了。全員ただちに本部に集合……返事がない場合は本部から音声での連絡……それから、チームリーダーは責任を持ってチーム全員と一緒に帰還すること、か」

 全員がうなずき、メッセージの最後にあった承諾のボタンを押す。エリカが緊張した面持ちでメンバーを見つめた。

「調査会の得点は、現時点で固定らしいでス。それから……我々も帰還しながら滝川チームと合流しまス」

 マップを見る限り、調査は七割程度は終わっているようだ。マップが埋まりきらないのは少々悔しいが、参加者の危険を考えれば中止が妥当だろう。

 エリカが少しだけ残念そうな表情だったけれど、妥当な判断だと思う。青い瞳が緊張と恐怖に少しだけ揺れているけれど、唇はしっかりと閉じられている。責任感の強さが窺えた。

「問題の動物はUA1と呼ぶことになりました。イヌ科の動物であると想定されていまス。危険がありえますので、注意をお願いしまス」

「「「了解!」」」」

 全員一致だ。人数が多いほうが安心だろうし、危険が想定される動物を前に、あえてゆっくり歩かなければならない滝川チームは体力、気力の消耗が激しいだろう。

「我々の方が帰還ルートに近いでス。先回りをして滝川チームを待って、そこで合流しましょう」

 これも異論はない。お互いの位置関係を見ても滝川チームの前方に回り込めるはずだ。

「あ、滝川チームが画像の共有を始めたみたいだ」

「そうっすね。うわ、野犬にしても大きくないか、これ」

 視界にネットの情報を反映できる久とカツヤが先に気づいた。もしかしたらみーなも気がついているかもしれない。エリカが端末を見た瞬間、足が止まってしまい、後ろを歩いていた久とぶつかりそうになってしまった。

「Oh,Jesus! 」

「あ、あぶないっ。エリカちゃん、何かわかったの!?」

 エリカが唇を噛みしめながら、端末をリュックサックの肩紐のカラビナに固定した。

「急ぎましょう。あれ、犬じゃなくて、ウルフ。オオカミでス」

「マジ? オオカミって絶滅したんじゃない?」

「ウルフドッグってやつかもしれないっす。先祖返りとか」

 試しに画像で検索をかけると、オオカミであるとAIが答えてくる。

「まずいな。みんなは先に行って。ぼく、まだ走れないから」

 はっとエリカとカツヤが顔を見合わせた。

「久様っ。そんなことできません! 」

「そうっす。なるべく急いで、全員でいくっす!」

「はい。一人で残るのは危険ですっ」

 久としては皆には早く脱出してほしかったのだが、これはみんなの方が正しい。わかった、と答えた久はカツヤを見つめた。

「そうだね。ありがとう。カツヤ、リュックを頼める?」

「そうっすね。少しでも軽いほうがいいっすから」

 ブツッ、と嫌な音がした。手首で接続していた電脳接続アダプタのケーブルが抜けたようだ。視界に警告の表示が出るが、ネットへの接続自体は切断されなかった。

(あ、電池残量表示が出た……しばらくバッテリー駆動できるか)

 今リュックサックを開け、手首のアダプタを外し、ケーブルをたたんで収納する、などというのは時間の無駄だろう。ケーブルはくるくると巻いて左手に握る。

「それじゃあ、急ぎまス。久さん、きつかったら教えて下さい」

「うん。ヤバいようだったら、声をかけるよ」

「大丈夫。最悪、自分がおぶって行くっす」

 カツヤががっちりした肩を示して頷いて見せる。体力には自信があるらしい。

「それはありがたいけど、最悪の時にしたいなあ」

 女の子の前で一人だけおんぶで運ばれるのはあまりに情けない。男の尊厳がピンチすぎる。

「走ったりしないで、少し早歩きで行きましょう」

 みーなやエリカの心配そうな表情が心に痛い。まだまだ大丈夫だと思う一方、その大丈夫に根拠がないこともわかっている。みんなの足を引っ張らないよう、できる範囲で頑張るしかない。

「はい。出発しまス。周囲に気をつけて、慎重にお願いしまス」

 草原は秋の実りの時期らしく、草の実が目立つ。背の高いイネ科の草が多く、獣が伏せていれば見えないだろうと思うと緊張が強まる。

 はあ、はあ、はあ──。

 気づくとかなり呼吸が荒くなっている。まだ退院してから一ヶ月も立っていない。かなり歩けるようになっているつもりだったけれど、まだまだ甘かったようだ。

(情けない、な。もっと鍛えないと。少なくとも……)

 みんなと一緒に行動できるくらいにはなりたい。そう思った。リュックサックをカツヤに持ってもらい、大きなハンデをもらっているのに、一人だけボロボロだ。。


 エリカの端末の着信音が鳴った。早歩きを崩さないまま手に取った赤毛少女の目が見開かれた。

「エリカでスっ。今度は何がありましたか、ヒナコさんっ」

 その間も足は止まらない。今は急ぐべきだ、というのが全員の意見だった。

「えっ……そんなっ。わかりましたっ。はいっ……」

 振り向いたエリカが足を止めずに、叫ぶように言葉をつな蹴る。

「滝川チームがUA1を見失いましたっ。我々のチームの方向に向かって走って行ったそうでスっ」

「マジ? エリカ、エマージェンシーコールを持ってっ」

 カツヤの表情が鋭くなった。浮き足立ちそうな雰囲気を引き締める低く、強い意志を感じさせる声だ。

「わ、わかったっ」

「ここは視界が悪いっ。もう少し先の広場まで走るっす」

 その言葉のとおり進行方向には開けた場所がある。

「久さん、大丈夫っすかっ」

「少しぐらいなら大丈夫っ。急ごうっ」

 あとはもう無我夢中だった。体力がない、というのがこんなにつらく、切ないとは。悔しい。みんなだけなら、ずっと早く走れるだろうに。

 はあっ、はあっ、はあっ──。

 視界の隅のネット接続画面には、マップに滝川チームとエリカチームの表示と、二つのチームを繋ぐようにしてUA1を示す赤い矢印が表示されていた。

「久さん、がんばってっ」

「う、うんっ。なんとか、あそこまでっ──」

 長年の入院で衰えていた心臓が、血管が、筋肉が限界まで駆動している気がした。心臓の音がはっきりわかる。

「急いでっ。多分、来てるっ。すぐそこまでっ」

「カツヤ、なんでわかるのっ!?」

 ススキやほかのイネ科植物の背が高いエリアを抜け、かろうじて立木が目印になっている広場に

「さっき、遠くの草むらが不自然な動きだったからっ」

「と、とにかく木の下で固まりまスっ」

「はい。久様、つかまってっ」

 みーなが久の手を引いてくれた。力が抜けてしまいそうな足腰を叱咤してなんとか木の根元に駆け込み、倒れ込むようにして幹にもたれかかる。

「ま、間に合った……?」

「はい。UA1よりは先についたっす。エリカ、あれ、貸してくれる?」

「う、うん。私はヒナコに連絡入れるっ」

 エマージェンシーコールを受け取ったカツヤがボタンを2回押すと警告音とともにモードが切り替わり、三つあるアイコンが発光する。

「方針はフラッシュ発光での目つぶしと、忌避剤のスプレーでいくっす」

「はあっ、はあっ──うん、頼むよ」

 エリカとカツヤが周囲に目を配る中、久は視界の中のネット接続画面に集中する。UA1という仮称の横には不確定のためか、オオカミを示すwollfや犬、そして見慣れぬ文字列が点滅している。

「私は動画撮影してまス。カツヤ、ナイフは使えまスか?」

「それはエリカが使って。一応、オレも持ってるから」

 有名な多目的ナイフのエンブレムがカツヤの手に収まった。いつの間にか学生服を脱いで、左手に巻き付けていた。左手にはエマージェンシーコールを、右手にはナイフを構えてい。

「ごめん、ぼくは役に立つもの持ってない」

「私もです。すいません……」

 念のための食料、ブランケットと懐中電灯くらいしか持ってきていない。ポケットナイフ程度でも持ってきているカツヤとエリカはさすがだった。

「あ、カツヤ……わかってる?」

 共有されているカツヤの視界の中で、丈の高い草が不自然に揺れるのが見えた。義眼に仕込まれたAIがそれを検知し、マーキングしてくれていた。

「うっす。正面から来るみたいっす」

 ごくり。生唾を飲み込みながらも取り出した懐中電灯を構える。かなり明るいものだから、動物をひるませることくらいはできるかもしれない。

(来るな、来るな……来るな、来るな、来るな)

握ったばかりのハンディライトが汗で濡れている。恐怖。自分がバニックをおこしかけているのだと自覚すると、少しだけ楽になった。まだ呼吸も苦しいけれど、カツヤもエリカもいる。二人ともしっかり対応しようとしているのに、一応年上の久がダメなのはいけない、と自分を奮い立たせる。

「……来たっす。なに、これ。でけえ……」

「オオカミ、でス……」

 カツヤが青黒い、と表現したのもわかる、灰色の毛皮は光の反射の加減で青くも見える。そして、その大きさは想像以上。

 大型犬ほどではないと思う。それでも、繋がれていない野生動物はすごく大きく見えて。ピンと立った耳、シャープな造形の顔は緊張感に満ち、油断なくこちらを窺っている。

(大きい。それに、何か、おかしい? なんだろう)

 風に草が揺れて触れあう音に足音はかき消されて。イヌ科といいつつも、明らかに飼い犬とは顔つき、身体つきともに違う、精悍な体躯。 長い口吻、鋭い眼光は知性すらあるのではないかと思うほどに光る。動きはしなやかで、ゆったりとすら見えるけれど、実際にはかなり早い。みるみるうちにその姿が近寄ってきて、足を止めた。

 かすかなうなり声。

 こちらを窺う様子は多対一でもまったく恐れる様子がない。灰褐色の毛皮は色艶もよく、美しいとすら思えるが、それ以上に背筋が寒くなるような威容だった。

「怒ってる?」

「はい。警戒と……多分、怒りだと思いまス」

 その目は、犬や猫が怒っているときとは違う。まるで別の生き物のような強い意志を感じさせた。

「もうちょっと近づいてきたら、忌避剤いくっす」

「う、うん」

 エリカは小形のナイフをいつでも抜けるようにしながら端末を構えている。

(来るな……来ないでくれ、来るな、来るなっ、来るなっ!)

 まるで呪文のように頭の中でつぶやく。こんなところで死ぬのも、ケガをするのもごめんだ。せっかくできた友人達がケガをするところも見たくない。

 脳裏に浮かぶカツヤの視界はほぼ自分のものと一致していて。マップは赤く表示され、エリカチームとUA1のアイコンが点滅している。事務局のサイトでは動物の目撃と警察への通報が報告されていて。

(何か、何か方法はないか。これをなんとかする……)

 自然観察ガイド、北米でのオオカミとのふれあい体験。久の中でいくつもの画面が浮かび、消えていく。

 ハッ、ハッ、ハッ──。

 うなり声だけでなく、呼吸音すら聞こえる。姿勢を低くしたUA1は明らかに力を貯めていて──そして、跳んだ。力感に満ちた密度の高い肉体が躍動し、一直線にこちらに跳び込んでくる。

「なむさんっ!」

 カツヤの古風な叫びとともにエマージェンシーコールが激しく発光し、同時に小さな破裂音が響き、白煙が噴出した。

「グルルルッ──!」

 獣が着地した瞬間、ぶわっと風圧と全員の肌を打ち、獣臭があたりに満ちた。大地を蹴る音とともにほとんど横跳びのようにしなやかな身体がうねり、距離をとったかと思うとそのまま、消えた──。


『もしもしっ、もしもしっ。大丈夫なのっ!?』

 数秒もあっただろうか。エリカの端末から比奈子の声が聞こえてくるまで誰も動けなかった。

「は、はいっ。大丈夫ですっ。みんな無事ですっ」

『はああああっ──。よかった。UA1はどうなったの?』

「姿は見えません。茂みの中に戻っていったみたいです」

『本当に? よかった──。みんな無事ね。はああああ──っ』

 比奈子の声からも緊張が抜け、大きなため息が伝わってくる。久も身体の緊張が抜けるきを感じながらカツヤに声をかける。

「お疲れ、カツヤ。カツヤがいてくれてよかったよ」

 その声に振り向いたカツヤは鼻の頭までが汗で濡れていた。よほど緊張していたのだろう。左手に巻き付けて防具代わりにしていた学生服をほどき、大袈裟なポーズで膝に手をついた。

「はあーっ。久さんがいてくれてよかったすっす」

「はい。さすが久様です」

 カツヤとみーながホッとた顔で持ち上げてくる。こちらが体力不足で落ち込まないように気を使ってくれているみたいだ。

「ぼくは何もしてないよ。むしろ足手まといだった」

 カツヤの目が大きく見開かれるとどんぐりまなこな感じで可愛くなる。学生服の少年はぱちぱちと瞬きをしてから、クスクスと笑った。

「ま、久さんがそう思ってるなら、それでいいっすよ」

「はい、久様がそうおっしゃるなら」

 みーなと二人でにこにこと笑っている。一方でエリカは事務局との連絡が一段落したらしく、大きくため息をつきながらしゃがみこんでいる。

「まあ、とにかく、なるべく早く会場まで戻ろう。すぐに滝川チームも来るはずだし、それまで休憩でいいんじゃないかな」

 まだ息があがっているのは久だけだ。少しでも休みたいけれど、またUA1がやってきた場合、もうエマージェンシーコールは使えない。できる限り早く撤収するべきだった。

「くすくすっ。すぐにそんな言葉が出てくるなんて、さすが久様ですっ」

 今度はエリカまで一緒になって笑う。

「ええっ? エリカちゃんまで。そんなに持ち上げられても、困っちゃうよ」

 久の脳裏にはまだマップが表示されていて、滝川チームがすぐ近くにまで来ていることがわかる。

(あ、バッテリー表示がヤバそう。)

 カツヤからリュックを受け取って、ケーブルを接続し直す。リュックの中にあるのはタブレットと合体した補助電脳ユニットだ。電源がつながると、表示が正常に戻る。

「あれ? この辺でも電脳接続が可能っぽい?」

 脳裏に電脳接続のアイコンが表示されていることに気がついた。

「あー、可能かもしれないっす」

「できますよ。できなかったら、私来れませんし」

「あっ、そうか。みーなちゃんとロボットの接続がそれかあ」

 遠隔体験型のロボットは、現地でのロボットの情報を電脳接続の技術を利用して本人に体験させるシステムだ。

「私も今日はすごい体験ができちゃいました」

 みーなが目を閉じて、お腹の前で手を重ねた。上品なしぐさで、ちょっと童顔なことろもあって七五三の女の子を思い出した。

「そうだね。まさかこんなことになるとは思わなかった」

「うー。最後まで調査会したかったけど、しかたがないでスね」

「まあ、話のタネにはなったじゃん。死ぬかと思ったっす」

「「「それは本当!」」」

 四人は滝川チームの三人が合流するまで、今日の調査会のあれこれを思い出しながらの会話を楽しんだ。


自然観察会等はもっといろいろあってよいと思います。

個人的には3DSの任天堂の立体図鑑がとても好きで、甥っ子にプレゼントしたのを後悔しております。

また入手して、持ち歩いて使ってみたいです。

・・・・・・内容関係ないじゃん!

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