序章
数年前から温めていたネタがこの秋一気に熟成してきたので、約2ヶ月で書き上げたものです。
いわゆる完全没入型の電脳世界が実現し、普及してきた世界で、十年の眠りから覚めた主人公は、いきなりチヤホヤされたり、トラブルに巻き込まれたり。
主人公にべったりだった義妹はいつの間にか年上のお姉さんに。
私はあなたのモノだ、と認知を迫るAI系ヒロインとか
一応まっとうなヒロインもおりますので、気に入ってもらえるキャラがいると嬉です。
かなり久しぶりの完結作品です。大分書き方を忘れておりまして恥ずかしい部分も多いですが、書き上げることと公開することが大事、ということで。
ジャンル SF?
要素 俺tueee、鈍感、自尊心低め、タナボタ
バトルあり ラブコメあり
ヒロイン要素 義妹、被造物少女、ロボ娘
以下は設定マニアのたわごとです。
説明が多いので、読み飛ばしてもよいかもしれません。
近未来と地元、田舎要素を融合しておりますので、余計にお話としては不要な、エピソードがあります。
地方の都市計画や政策の未来、技術予想などSFでもよりマニアな要素がちりばめられておりますので、刺さる人がいてくれるといいなあ。
それでは、どうぞよろしくお願いいたします。
.序章
夢を見ていた、はずだった。長い夢だ。
「……ちゃん」
母親に抱きしめられた。その手が、声が震えていた。泣いていたのだと知ったのは、かなりの時間が過ぎてからだった。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん……っ」
母親が再婚して、父親ができたことは喜ばしかった。義父は優しく、少年はわりと早くにうちとけたと思う。
義父には娘がいたけれど、かなり年下だったこともあり懐いてくれた。お兄ちゃん、お兄ちゃんと慕ってくれたのが嬉しく、甘い兄だった気がする。
「お兄ちゃん、起きているんでしょ? ねえ……」
「う……んん」
いつから覚醒していたのはよくわからない。声がしていて、視界が明るくなって。なにかふわっとした感触に包まれていて。
温かかったのに、ちょっと冷たい感触があって。はっきりした視界に入ってきたのは……。
(え、誰?)
栗色の髪。もうちょっと濃い、鳶色の瞳が濡れていて。色白の頬を伝って、しずくが、ぽつり。眼鏡のレンズに、滴が当たってさらに頬に落ちる。
(泣いて、いる?)
思わず、目をしばたかせると、ぎゅっと抱え込まれるような感覚がした。悪い感じはしないけれど、戸惑いが大きかった。
「目があいたっ。お兄ちゃん、わかる? あたしっ。あたしだよっ」
(……って、誰?)
ようやく意識がはっきりしてきた。どうやら、女性に抱きしめられているようだ。間近に若い女性の顔があって。やわらかく、温かな体温を感じる。
(どこかで、見たような気もする)
目線が合うと、いっぱいにたまった涙がぽろぽろとこぼれてきて、頬や首筋にあたった。
「あたしのこと、見てくれてる。わかるんだね、お兄ちゃんっ」
頷いた。なんだか、身体がすごく重くて、動かしづらい。感極まったらしい女性にぎゅっ、と身体を押しつけられると、優しい、心地よい香りが鼻をくすぐった。
(誰かわからないけど……綺麗だな……)
活動的で朗らかな母親に比べると、大人しそうな印象の優しい顔立ち。美人というには少し個性が強かった母に比べると、整った顔立ちで、誰かに似ているのは間違いない。
「お兄ちゃん、声、出る?」
答えようとしたら、うまく声が出なかった。
「あ……」
ひゅうひゅうと、かすれたような弱々しい声とも呻きともとれる声が出たけれど、うまく言葉にならなかった。
(こんな人……知らない。妹はもっと……小さくて……)
「声、出てるよ。お兄ちゃん。ちゃんと、声、出てるからっ」
もう一度頷いた。誰だかわからないけれど、心配してくれているのは間違いない。そんな女性の腕を軽く叩く、白衣の袖の手。
女性の顔が下がり、今度は男性の顔が現れる。
「自分が誰だかわかるかい?」
女性を制した男性が微笑んでみせる。ようやく女性の顔以外が目に入ってきて。白い天井と、周囲に集まった人の顔がわかる。
(病院? ぼくは……寝ていた? 病気……だったのか?)
「声が出せるかな? 自分の名前を言ってみてほしい」
喉が、舌がこわばってしまったみたいで、うまく動かせない。ツバを飲み込み、慎重に口の筋肉を動かす。
「き、た、み……ひさし」
一音一音、噛みしめるようにして、ようやく聞こえるくらいの声になったけれど、実際に耳に聞こえたのは「ひたみひしゃし」。小さな、言葉を覚え立ての子供みたいで、思わず笑ってしまった。
その瞬間、病室に笑い声が響き、明るい空気が周囲を覆った。 脇に見えていた女性がわっと泣き出し、ハンカチで顔を覆っていた。
「意識レベル、急速に上昇。問題ありません」
「バイタルも問題なし」
背後で医療スタッフらしい声が聞こえる。目の前の男性が満面の笑顔を浮かべた。
「大丈夫。ゆっくり回復していこう。休んでいていいんだよ」
「ああ。時間はたっぷりある。無理はせずにな」
そう言ってくれたのは、初老の男性。その顔には見覚えがあった。ちょっと気弱そうな、理知的な学者っぽい顔は義父のもの。ほかの人たちは今ひとつ思い出せないけれど、皆の顔が喜びに満ちているのを見て、こちらも嬉しくなった。
(そうだ……ぼくは、北見久だ。入院して、治療中……)
それにしてもなぜこんなに身体が重いのだろう。そして、なんだか気持が悪い。顔をしかめたのに気がついたスタッフが手を動かすと、ベッドが動いた。身体を起こした状態からほぼ水平になって。
「これで楽になったかな」
頷くと、先ほどの女性が涙いっぱいの顔でため息をついたのがわかる。かなりの心配性なのかもしれない。
「まだ眠いよね。眠りたいだけ眠っていいから」
声を出すのもおっくうだったけれど、なんとか頷いてみせる。濁って渦をまいているような意識の中で、いくつかの言葉が浮かんでくる。(ああ、人工……冬眠、か。それじゃあ……さっきのひとは本当に……)
北見久が眠りから覚めたことは、ごくごく小さなニュースだった。すでに低体温法による延命は世界では千数百例もあり、治療法が確立されて治療後目覚めたのもすでに千番以降と医学的に大きな衝撃はない。
それでも、やはり一部の人には喜ばしいニュースとして、その情報は伝えられていく。
そして、世界は少しだけ、ほんの少しだけだけれど変わっていて。
導入です。うん。よくあるよくある。
基本的には書き終えているお話ですので、予約投稿でいきます。
できれば最後までおつきあいください。