3.エマ・アナク <エマ視点>
私、エマ・アナクは、クランベル家に仕える十二歳の侍女。
身分は平民、家はとてつもなく貧しい。
二年前の十歳の時に、家族が生きていくためのお金が必要で、クランベル家の屋敷で働くことになった。
侍女として働いていると言えば聞こえはいいけど、実際は身売り。
それも驚くほど安い金額で。(同じ侍女として働く先輩たちの話だと相場の半分もないんだとか)
悪い噂ばかりが耳に入るクランベル家。
身分など関係なく、若い女というだけで働くことが出来る。
理由は一つ、夜な夜な領主であるロイド・クランベル様の慰み者としての副業があるから。
ううん、もしかしたらそっちが本業なのかも
私もいずれ、先輩方の様にそうなるのだろう。
ベッドの上で白い豚に跨りながら、ギシギ〇アン〇ンする日が来るのだろう。
凄く嫌だ。凄く憂鬱。
お金の為、涙を堪えながら耐える先輩たち。
世の中ってどうしてこんなに不公平なんだろう。
ロイド様の従者や領民に対しての扱いは酷い。
人を人として見ていない。
家畜か何かと勘違いをしているかのよう。
両親や色んな人たちからクランベル家は代々そうだったと聞いている。
重税を領民に課して、自分たちは贅沢な日々を送る。
それを、私はこのまま近くで見続けていくんだわ。
そう——私は思っていた。
思っていたのだけど、何か、おかしい。
何かって、それはクランベル家の長男であられるルーク様の様子がおかしい。
目線がロイド様と同じじゃない。
むしろ、私たちメイドと同じなんじゃないかと思う時だってある。
ロイド様から一度も言われた事のない、感謝の言葉を言われたりする。
『美味しいご飯をいつもありがとう』
みな、耳を疑ったみたい。
あの『ホワイトピッグ』から何故? と。
この前なんか、沢山の洗濯物を干しに外へ持っていこうとしたら、既に外に置いてあってルーク様が干している最中だった。
『大変そうだから僕も手伝うよ』と、お声を掛けてくださった。
本当に思う。
なぜ、あのブタからこのような方が御生まれになったのだろうと。