レオVSユキ
「ふっ!」
「はぁ!」
木刀をぶつけ合う僕とユキ。
懐かしい記憶だ。お互いまだ10歳にもなっていないというのに、村で僕らより強い人はいないほどになっていた。
だからほとんど毎日一緒に競い合って訓練していた。
「途中まではいいけど、やっぱりレオは決めきれない性分だよね。また勝っちゃった」
「あはは……それはユキが強いからだよ」
「まぁね。でも、技で負けてて心も弱いから、このままじゃ一生私に勝てないよ?」
「それでも僕はいいかも。こうやって二人で強くなっていきたいな」
「…………そっ」
それから僕はトオル様にお願いされ、神刀を抜いたと偽ることになった。政治利用されているのは気付いていたが、それでも、偽物だとしてと英雄になれたのだ。
意気揚々と村に帰ると、そこは灰の山しかなかった。いや、違う。
――みんなには嘘をついてしまった。
ユキが生きていたのは知っていた。
なぜなら、化け物に成り果てた村の皆を殲滅したのは他でもない彼女であり、僕が帰ったあの日、涙を流しながら灰の力を受け入れた場面を見たからだ。
僕はあの時、見て見ぬふりをした。
ユキに勝てるか分からなかったとか、そういう話ではない。僕は怖かったんだ。彼女に剣を向けることが。世界を守るために、大切な人を傷付けることが。
■◆■◆■
走馬灯というやつだろうか。
あるいはただの感傷か。
「来た来た。遅いよ、レオ」
「ごめん。ちょっと昔を思い出しててさ」
僕は他の戦場で激しい攻防が繰り広げられている音を聴きながら、心の波が凪いでいることを確かめる。
「私に一度も勝てなかったことを思い出して、嫌になってた?」
「まさか。単に楽しかった頃に戻りたいと思ってただけだよ」
「……時間は戻らない。あの頃のままじゃあ、いられない」
「そうだね。僕も、ユキも」
「そ。だから、ちゃんと殺し合いをしよう。あの頃のレオに無かった殺気、それと私を殺さなければいけない理由、今はあるでしょ?」
「――ユキ、僕は愉快か仲間のおかげで気付いたんだ」
「月の子たちのこと?」
「うん。彼らは戦ってる。どんなものにせよ、それぞれの目的があって、その根幹に理由があるんだ」
「戦う理由を見つけたってこと?」
「それは違う。もともとそれはあって、僕はそれに見て見ぬふりをしていたんだ」
そう、僕がごっこ遊びをはじめたときから、それは変わっていない。言葉にはしないが、きっとそれはユキだって同じはずだ。
「――僕は英雄になりたい。そのために、世界を救う」
「じゃあはやく私を殺さないとだ」
「それも違う」
「……まさかここにきて怖気付いたの? 私を見過ごせば多くの人間が悲しむ結末が待ってるんだよ? 私は強さを求めてここにいる! 灰の力を受け入れて、人であることを捨てて! 私は! 私は……!」
人であることを捨てたと言う彼女は、それなら何故泣いているのだろうか。今も、あの時も。
そんなこと、聞くまでもないことだ。
「僕が救う世界には君もいるんだ。全部救ってハッピーエンド、英雄になるんなら、目的もこれくらいじゃないとね」
「…………っ! レオの馬鹿! 臆病者!! 【灰吹雪】! 【豪雪】!」
僕の決意が気に食わなかったようで、ユキは僕の身体を遅くするスキルを発動し――刀で僕の胸を貫いた。
「……は? な、なんで、なんで防がない! あれくらい、今のレオなら――!」
「言ったよね。僕は君も救うって」
そう言って、僕はユキをそのまま抱きしめた。
彼女を灰から救う方法――きっとできるはずだ。でも、灰が向こうで吹き荒れている。彼らの戦いが佳境を迎えているのだろう。
まだだ。まだ、今じゃない。
「ごめん、ユキ。ちょっとだけ待ってて欲しいんだ。ケリをつけて、ちゃんと救いに来るからさ」
「…………ぁ」
「ごめん、ありがとう」
何か言いたげに変わらず泣いている彼女を強めに抱きしめてから、僕は灰の王との決着の場に足を踏み入れる。
■◆■◆■
――理由か。
そんなの単純だったはずなのに。
いつから私は、拗れてしまったんだろう?
「あの村で、幸せになりたかった……レオと一緒に、モンスターを間引いて村を守って、二人で……そっか」
レオが世界を救う英雄になりたいって、モンスターを討伐するために稽古を受けていたのを見て、置いていかれたくなくて武器の扱いを教えてもらったんだっけ。
それで、彼が都に招集されて、本当に英雄になっちゃうんだって知って焦ったんだ。
その時、たまたま灰が降って、声が聞こえて力を受け入れた。
私は彼に、英雄になってほしくなかった。
一人だけ、自分を犠牲に幸せを築くなんて許せなかったんだ。
だから化け物になった村のみんなを殺して、それからも壊れたように人を殺して、罪悪感から逃れるように、力を求めて世界を追い詰める同朋を作った。
「……英雄はみんなを助ける。でも、きっと彼は自分が助かる帰り道を残していない。なら、私が――」
レオとの約束を破り、私は頬を伝う灰が溶け込んだ雫を着物の袖で拭い、彼の進んだ道を辿ったのだった。




