72.都脱出戦・裏
「ヒビキ! こっちですわ!」
《ぎゃー! 拙者、なんかとんでもない相手を切る武器ですぞ! なんで建物とか縄とか樽を相手にせねばならんのですか!? やってること野盗ではござらんか!?》
「「うるさいです」わ」
《ぴえん》
やいのやいのしながらも、仕事をこなしていく。途中、灰の化け物となった元人間と思われるそれらとも遭遇したものの、目視できる距離になった瞬間にお嬢様が片っ端からぶった斬られているのであまりその姿かたちは分かっていない。あまり興味も無いからいいけど。
「……! お嬢様、何か来ます」
「【斬】ですわ」
お嬢様の放った斬撃が一直線に灰色の髪の巨体へ飛び――
「なっ!?」
「……硬いですわね」
《かすり傷しかついてないですぞ! 単純に威力が足りない感じがするでござるよ!》
ゆっくりと、巨体が歩み寄る。
硬い相手は僕の十八番だ。星の脈動さえ使えれば一振りで確実だったのだが、今日は既にユキさんに使ってしまった。こちらの星の脈動もあるし本格的な決着は明日にしたいが、この盤面をどう乗り切るか。
スピードはなさそうに見えるが、妙に嫌な予感がする。
「オレはグロウ、ヒヤリカ族の戦士だ」
野太い声で自己紹介をするグロウさん。
戦士というだけあって、なのか律儀にこちらの自己紹介を待っている様子だ。
「私はヒビキ、そしてこちらがリリィお嬢様であらせられます」
「ふんす」
《拙者もお忘れなくー、あ、そんな空気じゃなさそうですなぁ……》
「いざ、参る! 【灰日照り】【真夏日】」
瞬間、周囲に円形の膜が張られた。
お嬢様が軽く剣で斬っても傷一つつかない。
逃げ道を塞がれたようだが、向こうの図体からして機動力は――
「ひとつ」
「――ぁ」
瞬く間に僕の目の前に出現、そのまま頭を大きな手で掴んで砕いてきた。一撃でHPがゼロになってしまった。
『HPが0になりました』
『【純白】により“完全麻痺”を弾きました』
『【純白】により“沈黙”を弾きました』
「ふた――」
「ふっ! お嬢さん、回復を」
僕の影からぺんぎんさんが飛び出てグロウさんの顔面に蹴りを入れた。
「【回】! ヒビキ!」
「っ、ありがとうございます。大丈夫です。それより……」
「うぐっ」
ぺんぎんさんの蹴りは一瞬だけ怯ませたものの、すぐに足首を掴まれ、地面に叩きつけられて一撃KOされてしまった。
《おそらく空間を操ってますぞ! しかもパッシブ!》
【超強襲】の自由自在版といったところだ。あの頑丈で強烈な攻撃がどこからでも来る、目で追うどうのの話ではない。
「【侮蔑の眼差し】! お嬢様!」
「【絶対斬】ですわ!」
5秒間の“沈黙”を付与し、転移を一時的に封じてお嬢様に結界の破壊をしていただいた。
5秒ではあの戦士は倒せないと判断してのこと。
お嬢様を抱え猛ダッシュ。
「【風】」
お嬢様のスキルでさらに加速して突き放し――
「遅かったな。オレから逃れることは不可能だ」
「……っ。お嬢様、ここは私が残り、明日まで繋げますので――」
「その必要ないない、ほれ、まともな出番だぞー」
「よっしゃきた! 【真剣勝負】!」
絶体絶命のピンチに現れたのは、枕を抱えたシオレさんと、光るカードを向けるシアースさんだった。
「最低朝まで時間稼ぎがノルマ、おまけに片腕くらいはもってってよー」
「へっ、倒したっていいんだろ?」
シアースさんのオリジナル装備のスキル 【真剣勝負】は、特殊なカードゲームのフィールドに相手を強制的に巻き込んでタイマンをするというものだ。
正直ステータスを一度見ただけではよく分からないくらいには複雑だったが、いずれにせよここは引き受けてくれるらしい。
「こっちも火事場泥棒、じゃなかった。廃品回収は済んだから避難所に行くよー。もう、君が最後だから」
「分かりました」
「ふぁわ……動いて疲れましたわ」
「はい。たくさん働いていただいてしまいました。ゆっくりおやすみになされてくださいませ」
「おやすみですわ……」
お嬢様が就寝され、騒がしい剣も同時にお嬢様の何かしらのスキルに収納された。
「じゃー帰りながら戦況を共有するねー」
「お願いします」
シオレさんはその枕のオリジナル装備スキルで【魂分裂】というのを使い、幽体離脱させた不可視の魂と肉体を同時操作できるのだ。それで素材の回収をしつつ全体の戦況を俯瞰していたらしい。
こちらが裏でコソコソしていた隙に、表で起きた話を聞く――。




