70.リアスルの女王
ハツハさんの親御さんからの手紙には、場所と時間だけが書かれていた。今日の夜だからそれまで時間ができたというわけで――
「ふう、こんなところでしょうか」
「あらまぁ、ピカピカだわ。ありがとねぇ」
「いえ、お構いなく」
ハルから人助けすると大抵ミッションにあるということを聞いたので、散歩しつつ付近で困ってそうな人に声をかけていた。この屋根の瓦変えで16件目。メイドとしての技能や空を歩けるスキルで大活躍しているというわけである。
日も暮れてきたし、そろそろハツハさんをお迎えに行こう。すっかり忘れていたが、王女さんと太郎さんのメンタルフォローもやらないと。
お嬢様もまだスヤスヤされているので寄り道せず屋敷に戻った。
庭に王女さんと太郎さんが居たので話しかけ、ようと思ったが、何やら真剣な面持ちで太郎さんが話していたので隠れて聞き耳を立てる。
「姫さん。俺はこんなでもあんたを守る騎士みたいなもんだ。だから、あんたを放って勝手に死にはしない」
「太郎……」
「あのユキとかいうヤツが言ってた“何も救えない”だとか“何も守れない”だなんて気にすんな。俺はもう姫さんに救われてるし、いつだって姫さんに助けられてるよ」
「うぅ……太郎!!」
大粒の涙をこぼしながら、太郎さんに抱きつく王女さん。これはフォローする必要も、顔を出すタイミングも無さそうだ。
しかし、ユキさんの言っていたらしい言葉から考えるに、彼女は王女さんの心を折ろうとしたように思える。灰になるのにそんな条件はレオさんからも聞いていない。むしろ強ければ多少耐えられると聞いている。
ユキさんの狙いがただ王族を灰の怪物にするわけではないようにとれる。
……考えても現状どうしようもないので、頭を深呼吸でリフレッシュして、ハツハさんのもとへ向かう。
都に来てから、彼女は何もしないのも落ち着かないと屋敷で給仕を手伝っていたので、厨房に顔を出す。
「やはりここでしたかハツハさん」
「あ、ヒビキさん! ……とおやすみ中のリリィさま」
起こさないように気を遣うハツハさん。呼ぶ順番に関してはまだ子供だから大目に見てあげよう。
「貴方のお母さんを見つけました。今から会いに行きますよ」
「…………もう、ですか」
なんだか少し残念そうな顔でブツブツ言っているが、気にせず指定された場所まで向かうことに。
「えーと、では、マチさん。お世話になりましたっ!」
「はいよ。元気にやるんだよ」
数日間ここの調理を頑張って手伝っていたらしく、特にマチさんという主婦さんにはお世話になったらしい。道中、楽しげに料理について教えてもらったことを自慢していた。
なんだか新人メイドが研修先から帰ってきてその話を聞く先輩メイドみたいなシチュエーションだ。僕、すごいメイドしてる気がする。
「――指定された場所はここですね」
手描きの地図通りに歩いた先には、拾った木の板を不格好にツギハギしただけの家とも呼べない何かがあった。子供のつくる秘密基地とかの方がもっと上等な仕上がりになりそうなものである。
「いらしましたか」
「どうも。ハツハさんも連れてきていますよ」
「うむ!」
………………“うむ”?
ハツハさんから出たとは思えない言葉に思わず振り向くと、彼女は手で自身の顔を掴んでいた。
すると、横でさっとハツハさんに跪く、ハツハさんの母親。
「お変わりないようで――」
ハツハさんが顔――否、仮面をとると、少女だった容姿はすっかり大人の姿になった。
「アリア陛下」
艶のある銀髪をたなびかせ、瞳には力強い金色があしらわれている。どこかシエラさんに似ている。目元とか特にそっくりだ。
どうやらお面のアイテムで化けていたようだ。
「して、ハツハ。調査と我が娘の生体反応は?」
なるほど、配下の名前を借りていたというわけか。確かに僕がその名を出せばすぐに気付くのとになる。狙ってやったかは分からないが結果的にいい選択だ。
「は。まず、シエラ様はあの後リアスルの地を操作して難を逃れたものの、嵐に巻き込まれ漂流したようで、既に圏外にいってしまわれました」
「ん? シエラさんって言いました?」
「む。我が娘を知っておるのか?」
「タバコを吸って棺桶を乗り回してるシエラさんなら知ってますが……」
「煙草の魔道具なら我の物じゃな。それに口ぶりからして魔道具を得意としているなら、おそらく間違いなかろう」
やはりアルシエラさんことシエラさんの親御さんだったのか。しかも陛下って呼ばれているし、実質的にシエラさんは王女ということになるのだろう。彼女がこのイベントに参加出来なかったのもその辺が関係しているのかもしれない。
詳しい事情を聞いてみると、ハツハさん改めアリアさんの親バカが炸裂し、あいだあいだに余計な情報が混ざってくるので簡単に頭の中でまとめた。
リアスルという、この島の最西にして世界の果ての国家の女王がアリアさんで、シエラさんが王女。そして今いる疲れている感じの女性が騎士団長だったらしい。
このわんぱく女王が隣国へ散歩しに抜け出し、慌てて騎士団長も追いかけて留守にしている間に、灰の幹部が出現して国が侵略。親譲りの道具製作技術で島をまるごと改造していたシエラさんが、全国民の強制転移によって避難を行い、自身は島と灰ごと、嵐だらけの海域に転移して時間稼ぎをしたらしい。
「それと、実は灰の動向を探っている際にこんなのを見つけまして――」
そう言って騎士団長さんが取り出したのは、ふわふわと宙に浮かぶ淡い色の雲だった。
「んぅ? ふわふわですわー。シエラおばさんの記憶のかたまりですわ」
お嬢様が何かを感じ取ったようにお目覚めになられ、雲に手をかざされ――僕とお嬢様は幽霊のような身体で見知らぬ国の上空に浮かんでいた。
頭の中でナレーターの声が響く。
『むかしむかし、ある最果ての国で天才的な王女が誕生しました――』




