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正統派女装メイドが“Original Trajectory Online”で理想のお嬢様を育成するようです!  作者: 御神酒
『萎れた麗しき音色の雅楽』

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愛を知らぬ哀れな者にその重み(物理)を

 


 ボク、香西(かざい)知奈(ちな)は昔からひと数倍欲深かった。大抵のものは裕福な家庭のお陰で手に入った。

 一点物だってそう。やりようはいくらでもあった。大人の世界には良い(悪い)見本が腐るほどあった。欲しければ金を出す、ダメなら奪う。

 奪われたのものが嘆き、悲しむ度にその感情は奪ったものの付加価値としてボクの中で加算されていた。

 次第に、流行だとか、自身の本当に必要な物より、他人が大切にしている物の方が魅力的に映るようになっていた。

 物でなくともいい。権利だったり立場、人間関係、とにかくその人にとっての大切でかけがえのないものを手に入れることが生きがいになった。


「さてと。【夜景片(ディミルーフ)】」


 今回は大物だった。多くの立場のある人物が欲してやまないあの少年を奪ったのだから。

 だからこそ、トドメにおちょくってより深い絶望と悔しがる姿で少年を彩るのだ。

 自身のオリジナル装備のスキルで彼をコピーして変身した。




 そしてゆっくり、当然オリジナルスキルである【信頼間(テルキィ)】で仲間だと本能に信じ込ませながら彼女らに接近した。


「皆さんすみません……お嬢様が! あの雅という人に攫われて、私だけ放り出されました……」


「雅があの子供を? 一体何が目的で……?」


 レーネも考えることがたくさんありこちらに警戒する様子は無い。()()()の無事を確認し安堵すらしていた。


「リリたそのファンってことかなー?」

「まああの子可愛いものね……」


 骸骨のプレイヤーもグランセル王国の現国王もパス。最大の関門の阿婆擦れ(オリー)は何も言わずジッと空を眺めている。修道服の少女もタバコを片手に、そして聖剣使いの彼も同じく。

 シオレは眠そうにしながらもレーネと突入の作戦をしだしている。


 誰もボクを疑っていない。

 準備が整ったようで、シオレがいつか使えるようにと作ってあったという飛行船のもとに集合した。



「行きましょう! お嬢様を取り返しに!」

「そうね、目的だけは聞き出さないとだもの」

「妹分を連れ去った恨み、晴らさせて――」


「ねえヒビキ、お腹でもいたい?」


 二人の国家君主の号令で出立しようとしていたところに、ふと聖盾使いの……名前は興味なくて覚えていない、普通の少女が尋ねてくる。

 彼ならこう答えるであろう返答を自然に返しておく。


「ええ、お嬢様と引き離されたのでどうも調子が良くありません」

「そっか。やっぱり――」



「ニセモノだ!!」



 瞬間、聖盾がボクの胴払った。


「ッ……!」



 この世界初めてのマトモなダメージだ。

 オリジナルスキルで欠片でも仲間意識があるなら攻撃が当たらないという効果もあるのだから、必然的にこの普通と評していた少女は、最初からボクを警戒していたということだろう。

 ダメージを食らって変身が解けた。

 ……失敗してしまったが、水晶端末は手元にある。これさえあればいつでもあの船に転移できる。


「どうして分かった聞いても?」


「まず、最初に変だと思ったのは、ヒビキなら引き剥がされた時点で助けなんて求めず一人で死にものぐるいで突っ込む。リリィちゃん関係なら間違いなく! あと、さっきの質問もヒビキなら、調子が良くない程度で済むもんか! 臓物という臓物が引きちぎれそうとか言うに決まってる!」





 えぇ……。

 これはそれを理解してる少女に引けばいいのか、そう言わしめるあの少年に引けばいいのか。



「…………君、名前なんだっけ」

「ハル、ヒビキの大親友だよ! 今からあなたを倒してヒビキ達を取り戻す、騎士のね!」



 合わせてこちらに接近してくるハル。

 腰からサーベルを抜くも、向こうの物量に押され気味。他の四方家も参戦しようと武器をとったのが見えた。

 おちょくりは失敗か。しかしここでやられるのは面白くないので水晶のスキル、【転移門】を起動し――



「は?」



 水晶が機能を失っている。

 焦りを覚えながらも戦況を見ると、何故かハル以外の全員が修道服の少女に連れられどこかへ移動していた。

 何を企んでいるかは読めないが、広範囲の遠距離攻撃だろうか。それならボクに狙いを定めた時点でスキルが適用され、少しでも仲間意識があれば攻撃は当たらない。

 最初から仲間意識を持たなかったハル以外にそれはできないはず。


 しかしなぜだろう。

 どうも的はずれな考えをしているような気がした。



「なるほどね、まったく。好き放題して……」



 そう笑いながら盾を全て纏うハル。

 余程重いのか地面が凹んでいる。狙いは分からないが逃げるのが得策だろう。

 背を向けないように警戒しながらできるだけ距離をとり――いや、街中に入り群衆に紛れるべきか。



「意味ないよ。あのお嬢様第一主義なバカメイドが他の人のことを気にするわけないもん。まあそもそも背を向けて逃げなかった時点で手遅れかな」


 空が暗くなった。

 否、頭上から大地が降ってきたのだ。

 ――数瞬後、ボクは圧倒的質量によって痛みすら感じず押し潰されたのだった。





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