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正統派女装メイドが“Original Trajectory Online”で理想のお嬢様を育成するようです!  作者: 御神酒
『萎れた麗しき音色の雅楽』

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47.友だちいないでしょ

 


「古き魔よ。貴様らの打ち捨てられていた戦艦は有効活用させてもらったぞ」



 枢機卿がしてやったりと高笑いしている。見た目50代だけどその歳で笑い過ぎたら腰と顎に悪そうだけど大丈夫だろうか。


「シエラさんのお知り合いなんです?」

「いや知らん」


 それを聞いた枢機卿は一度顔をしかめてから気を取り直したのか鼻で笑って言い放つ。

 ――純白の翼を八つ出しながら。



「その小さな頭では忘れてしまうのも仕方あるまい。我こそは、熾天使ドイルクス! 神なき世界の最高位天使である!」



「だそうですけど」

「あー、そんなのも居たような? 三下の顔と名前なんていちいち覚えてないからな」

「うぅー!」


 お嬢様も覚えなくていいと仰ってる。

 そんなことを話していると、ふと視界の片隅に寝坊していたリナさんが空飛ぶ大地を指さして何かしらのジェスチャーをしていた。昨日寝る前にあらかじめ王国でも聖王国の勢力でもない乗り物が来たら忍び込むように言っておいたからだろう。軽く頷いて視線をレーネさんに移す。


 僕とリナさんのやり取りを見ていない、眉をひくつかせたレーネさんが少し怒気を孕んだ声色で枢機卿を詰める。


「目的を言いなさいドイルクス卿」


 結婚式の邪魔をされるのは考慮していただろうから、あの顔はここ周辺がボロボロになったことによる修繕費を考えている顔だろう。

 僕も高校生の時、ハルと一緒にうちの敷地内の倉庫で花火して全焼させたことがあるから分かる。親もあんな顔してた。特に芸術品とかがあると結構な損失になるからね(他人事)。



「陛下には感謝しかありませんとも。ええ、国を愛する気持ちが欠片もなく、実にいい駒でした。ああ、鈴は無駄ですよ。洗脳の武器への対策も用意してありますとも……」


「駒に話してやる義理は無いと。それさえ分かれば結構よ【八岐束縛(スィジル)】」



 レーネさんの手から八つの巨大な蛇が広がり、枢機卿に巻きついて七匹だけ噛みついた。

 洗脳はオリジナル装備のスキル、今のがオリジナルスキルなのだろう。


「これでスキル、装備、四肢、MPを封じたわ。あと一つ噛めば筋力を封じる。それによって導き出されるのは死だけ。さあ、話しなさい」


 なかなか理不尽なスキルだ。

 まあ、なんとも――


「束縛の強さがスキルにも……」

「な・に・か?」


 思っても言わないでおいたことをハルが口走っている。おそらく初対面なのによくそんなこと言えたね。


「いえ何も!」


 恐ろしい笑顔を向けられて敬礼で返すハルは置いておいて。


「フハハハハハハハハハ!! この程度想定済みですよ陛下、いや、この国は滅びるのだからただの高慢な女か」

「高慢女の称号はそこの竜女(アバズレ)に譲るけれど今更何かできるとでも?」



「一つ。破壊兵器、天空破兵ロットミストウェイよ!」



 地響きと共に地面から巨大なロボットがせり上ってきた。昨日お嬢様と顔の部分に芸術を施したアレだ。


「…………なぜ動かぬのだ! しかも妙な落書きまで!」


「素晴らしい芸術ですね。一体どんな巨匠が……?」

「あぃゆう!」


「貴様か!!」


「やはり溢れ出す気品でバレてしまいましたか。でも心配なさらず。お嬢様のデビュー作ですのでお代は不要ですよ」

「いあー」


「どこまでも舐め腐りおって――!」


 別にそんなつもりはないんだけどね。腹抱えて笑っているオリーさん、カナタさん、雅さん、ゼルスさん。そして他は大抵呆れたといった目を向けてくる。


「まあいい! 二つ目の策だ! 雅よ!」

「あーはいはい、人使いが荒いんだから。よいしょ! まったくー、君友だちいないでしょ……」


 そう言って雅さんは枢機卿の元に槍を投げた。

 槍は誰に振るわれるまでもなく、枢機卿を拘束していた蛇を切り裂き、主人の自由を取り戻す。


「さあ三つ目だ。雅よ船の操縦は任せたぞ」


 そう言って空飛ぶ大地を操作していたであろうリモコンを雅さんに投げた。そして懐から巨大な水晶玉を取り出した。


「とくと見よ、我こそは最後の天使――!!」



 ……はい?

 最後?

 ちょっと、待っ――


 僕の心の声も無視して、枢機卿は水晶玉を掲げたまま、胸を剣で貫かれてしまった。


「な、かはっ……」

「はい、じゃあこれで天使絶滅ってことで」


「みや……びぃ!」

「なかなかリモコンも宝玉も出してくれないから茶番が長くなっちゃったじゃないか。それに君は過去一騙しやすかったよ。まあ、理由は明白だよね」


 剣を胸から勢いよく引き抜きながら、彼女は満身創痍の枢機卿を目下すように嗤った。


「――君、友だちいないでしょ」



「【残光(ステレイ)】!」

「この距離じゃあ当たらないよ」


 最期に放った光の弾は不自然に雅さんを避けてあらぬ方向へ飛んでいってしまった。

 隠密みたいなのがオリジナルスキルだろうし、今のが彼女のオリジナル装備の効果だろう。


 ――聞くべきことが聞けずじまいのまま最後の天使は呆気なく死亡してしまった。


「……」

「あやゆ……」


「ボーッとしてるとこ失礼。【黄金檻】【転移門】」


 茶番だろうとタカをくくって失敗した。ヤツが最後の天使なら、お嬢様の母君の封印に関して知ってることもあっただろうに。

 そんな考えを巡らせてる隙に上空の大地から檻と門が落ちてきた。


 どうやら捕まったようだ。


「それじゃあ皆々様、君たちの愛しのメイド君はボクが頂こう」




 それだけ言って雅さんは僕とお嬢様の入った檻ごと門に入れた。正確には門が動いて気付いたら上空にいた状況になる。景色が変わる直前、焦りを見せる皆と、シエラさんからの胡散臭いものでも見るような視線が届いた。大方僕がここまで見越していると思ったのだろう。流石にそこまで賢者ではない。


「さーてと。新郎君、気分はどうだい?」

「最悪ですね。あの天使に聞きたいことを聞いておけばと後悔しています」

「あい」



「ボクって優秀だからさー」



 機械の操作の片手間をやめ、雅さんはこちらに振り向いた。


「――これまでの彼の行動、全て聞き出しておいたよ」


 ほう。聞きたければ言うことを聞けという脅しだろうか。僕が何かする分には構わないが――


「彼の話をまとめる中で一つ、空白の期間があった。プレイヤーが来て少し、正確には二日目から三日目だね」

「素直に教えていただけるとは」

「ゆー?」


 お嬢様も不審がっている。

 二日目は確か現実でメイド喫茶に行って、夜通し館の掃除をしていたあの時か。三日目は……。



「借りを作るのが嫌いだからさ。君、ボクが何やるか読んでた上で傍観してたでしょ? 邪魔されたら結構大変だったからそのお礼ってことだよ」


「まあひとまず、枢機卿にとっての空白の日が事実だとして、それが何か?」

「おかしいだろう? ボクとしても既に協力関係……まあ騙してたわけだけど。とにかく協力関係にあって、君のことを探りに行ってる間のことを聞いたらその日の行動だけ()()()()()()んだ」


「出立日はいつです?」


「初日、聖盾のあのアホっ子が君のもとへいったタイミングで探ろうと思ってね。それで君に見つかって即刻帰ったよ」

「…………帰った時間帯に枢機卿はいました?」


「いや、夜だったけどその日は出かけてて四日目で会って、気付いたら寝室だったって聞いたね。っと、まあボクの知ってることはそれくらいだよ。有効活用してくれ」

「どうも」

「あぅ〜」


「船も昔天使が住んでたらしい天界についたし、行ってくるとしよう。檻の中に調理器具を置いていくから、真なる嫁の帰りを味噌汁でも作って待ってるといい」


 雅さんの言葉に応えることはなく、味噌を頂けたので三人分の味噌汁を作る。

 と同時に考えを整理しよう。


 枢機卿の記憶が無くなってる日が二日目と三日目のまるまる、そしてお嬢様の母君と満身創痍で遭遇したのが三日目。大いに関与できる。

 なんなら主犯を疑いたくなるが、それも違うはず。雅さんのオリジナルスキルはおそらく味方、仲間だと思わせて自然と馴染ませる能力。つまり彼女に枢機卿が嘘をつく可能性は極めて低い。


「主犯が記憶を消した……やはり人族の誰か、でしょう」

「うー」


「どの道あの天使からは大した情報は聞けなかったようですね。よし、味噌汁できました。リナさん」


「もうあの人行ったー?」

「あい!」

「行きましたし、行ってないのにそんな大声出したらバレますよ」


 潜伏してくれていたリナさんに檻を剣で叩ききってもらい、この空飛ぶ大地にある唯一の建物、巨大なお城へ歩いていく。


「あやーう!」

「やはりそうですか。私もお嬢様に相応しいと思ってました」

「なになに、何の話?」


「この船をお嬢様のものにしてやろうという話です」

「へーそんなことできるんだ?」


 いや知らないけどね。

 お嬢様のためならなんだってしてやろうと思ってるだけである。

 しばらく歩いてお城へ侵入、とにかく高くて豪華な玉座の間へ行くと、そこにはさっき雅さんが操作してた水晶玉と瓜二つな物と謎の機械があった。


「これで操れるのでしょうか?」

「あの人が持ってたやつがこれの小型版……というか、魔道具とかにもたまにある端末? とかいうやつなんじゃない?」

「あい!!」


 どうしたものかとツンツン触っていると、お嬢様が急におんぶの紐から抜け出して、どういう仕組みかは分からないが宙に浮いた。


「まゆーう!」


 お嬢様が元気に手をかざすと――



 何も起きなかった。

 首を傾げるお嬢様。

 しかし、流石お嬢様。そんなことではめげません。おもむろに玉を両手で抱え――


「はむっ!!」


「お嬢様!!? ぺって! しないと危ないですよ!」


 まさかの丸呑みである。

 言うことは聞いてくれずそのまま飲み込むと、お嬢様は光に包まれる。



「――うんうん、ゼンショーアク(全掌握)カンリョー(完了)ですわ」




 お嬢様が!!!

 小学生くらいに!!!

 なった!!!!!

 少し舌足らずで最高に至高!!!!!


「――――――――!!!!!」

「うわ、どういう感情?」


「この世の全ての情緒を味わいました。まさに全知全能、いえ、お嬢様の究極な全知全能には及びませんがね」

「ふーん」


「ヒビキ! いきますわよ!」

「はい、どこへでも!!」



「セカイのはてまでイッテ〜」

「きゅ――」

「待って待って! そこの主従!! ()てるけど地上であの騎士の人、ヒビキに化けてて――」



「お嬢様が行けと仰ったのですから停止も後退もありません! 地上がどうなろうと知ったことですか!」

「ヒビキにバけてるですって! ゆるせませんわ!」


「全くかと! 許せませんよねぇ!!」



「はぁ……これなら話せなかった時の方がマシだった…………」



 何を黄昏ているのやら。

 何はともあれお嬢様が見過ごせないと仰ったのだから、雅さんには制裁を与えないと。


「ヒビキ!」

「お嬢様!」



トツゲキ(突撃)ですわぁ!」

「突撃でございますね!」


「……どうにでもなれーぃ!」



 城を乗せた巨大な大地ごと、目的地まで急旋回して一気に降下していく。




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