40.騎士の過去?
「――私、実は魔人族なんです」
魔人族。確か最初に対面した格上の《赤》さんもアメリアさんいわく高位の魔人族だったっけ。
魔族は昨日の記録の中で、ソヴァーレさん側の人族側と対立している陣営なのは理解できたが、その間に人という文字が入っているということは――
「魔族と人族の子孫、というわけですか」
「魔族に関しても知ってたんだ……」
「敬語忘れていますよ」
「あ、すみません!」
「……慣れないのなら使わなくても構いませんよ。歳も近そうですし」
「そっか、確かに魔人族の中だと若い方だしいいよね……じ、じゃあえーっと、よろしく?」
色々と抜けている人だ。
初対面で少ししか関係構築していない相手に下手したら攻撃されかねない情報を与えるわ、ここにいる自分の役職を忘れるわ、悪い意味で目が離せない人である。お風呂だから目は離すんだけれども。
「よろしくお願いいたします」
「うん! あ、それでそれで、私は数少ない魔人族の中でも比較的温厚な村に住んでたんだよ」
でも、と彼女は少し声のトーンを落として続ける。
「私と他の友達で木の実を採りに行っている間に――村が襲撃されて無くなってたの」
「そもそもなのですが、魔人族はどの辺に暮らしていたので?」
「亜人連合の地帯で、魔族に近いからって理由で死の森付近だけど何かあった?」
亜人連合か。
確か昔は《蒼陀》ガイデスとやらが牛耳っていたと聞いたが、今はどうなのだろう。亜人というだけあって今も生きているかもしれない。
「犯人が気になりまして」
「それならもう突き止めたから大丈夫。心配してくれてありがとう」
「誰なんですか?」
「《蒼陀》ガイデス、亜人連合の代表だよ。その手の人が襲ったみたいなんだ。それで友達は散り散りで疎開しちゃってさ」
「リナさんはどうして王国へ?」
「私って結構負けず嫌いみたいだから、強くなって復讐しようと思って。王国の騎士団は人手不足だからって噂で聞いて身を置いてたんだ」
リナさんも形式的には疎開した形になるのだろうが、言い方からして友人は諦めているが彼女は復讐する気満々なのだろう。
……復讐なんてしたところで失った村の人々が戻ってくる訳でもない、と正論を言うのは簡単だがそれはあまりにも無責任で無慈悲だ。それに復讐することで気持ちが晴れることもある。
復讐しようが僕的にはものすごくどうでもいいのだが、《蒼陀》ガイデスさんはかつての六人衆の一角で封印解除の秘密やソヴァーレさんのことを明かしていない理由も気になるため、是非ともご一緒したいところだ。
勝手に情報を抱えたまま死なれては困る。
「では、そのうち一緒に行きますか? 私もその人に用事があるので」
「ほんとに!? 初めての仲間だ!」
「……ちなみにいくらでも誤魔化せたのに、どうして私にそのことを話したか聞いても?」
「ん? だってお腹を割って話そうって言ってたし嘘なんてつけないから?」
「まあ腹芸は苦手そうですね」
「ひどっ! というかお腹の話ばっかりだね」
「ふむ……まあいいでしょう。よろしくお願いします。リナさん」
「え、あ、うん。よろしく?」
信用できるか探りを入れてみた結果としては、彼女はそもそもこちらを害するメリットも精神的余裕も無い。王国内のアメリアさんに向けられた間者ではなさそうなのは確かだ。
あんな強引な形で次期国王の座を勝ち取ったからこちらの情報を抜くためのスパイかなにかを疑っていたが、リナさんは大丈夫そうだ。シオレさんについて行ったフィリップさんはどうだろうか。
彼のことも聞いてみたが、どうやらリナさんも初対面らしく「分からないけど怪しそうな人だよね」と小学生でもできる感想を述べていた。
それからのぼせるといけないからそろそろ出ようと、先にお湯から出たタイミングでバシャッとリナさんが僕の方に寄ってきた。
「何かある!」
出入口の方に向いていた僕の背中を守るように警戒するリナさん。
その目線の先は、小さい岩――ではなくその上に現れた鍵の先っぽであった。
それはゆっくりと周り、何も無い空間が扉のように歪んで中から人が出てきた。
漆のような髪をどこかのホラー映画の幽霊のように伸ばし、赤く恐ろしい瞳をした女性が、骨を抱えて。
「カナタさんを人質にしても彼女はプレイヤー、貴方では危害は加えられないはずです」
怪しい人物の上にプレイヤーの証である名前があったのでそう投げかける。名前は“幽霊子”さんね、一応覚えておこう。
「たはは……ごめんごめん、捕まっちゃった」
「今お助けいたします!」
「私も!」
腰に巻いていたタオルをお嬢様の抱っこ紐のように結んで臨戦態勢に入る。ゲームの使用上なのかここで着替えられないのでこれしか方法は無い。
「違う違う。普通にイタヅラし過ぎて逮捕されちゃっただけだからマジバトルはやめといて? てかこれ、あれだ、カナタのために争わないで〜ってやつ!」
「……何したんですか」
「大したことじゃないんだけどぉ、ガン無視されるから馬車の前にわって出たり、泣いてる子供にこの顔でいないいないばあしたり、何かペコペコしてる綺麗なところに行って読み聞かせしてるおじいちゃんに“みんないつかこうなるよぉ”って言ってたりしたら捕まっちゃった」
要するに通行の妨げ、不審者も真っ青なやり方で児童に声かけ、説教中に割り込む――100カナタさんが悪いなこれ。
「しばらく牢屋で大人しく反省してください」
「全然擁護できそうになかった……」
「あれ? カナタ今見捨てられてる? やだぁ! 前科一犯は……王国でやってるから違うかな? ま、いっか。骨フェチにして牢屋ソムリエになりつつあるカナタがこの国の牢屋を見定め――」
「ご迷惑おかけして申し訳ございません。連れて行って大丈夫ですよ」
「え? できれば引き取って欲しいのですが……」
「本人も乗り気ですししばらく反省させてやってください」
「は、はあ。それでいいのなら構いませんが……」
何だか“幽霊子”さんから同類の匂いがする。
まとも枠なのはもちろんのこと――
「お嬢様にどう報告しよう……」
「じゃあまたぁ!」
そう言って鍵を使ってどこかへ消えていってしまった。最後の言葉からして、彼女も誰かに仕えている者だ。もしかしたらメイドさんだったりするかもしれない。
「ふう、いきなりこんな所で戦うのかと思った」
「そうですね……あ、タオル」
「えっ、っっ!? …………み、みみ、見た?」
「いえ、来訪者にはそういう部分に謎の光が重なって見えないのでご安心を」
「そっか、よかったよか――」
リナさんはほっとしつつも何故かこちらを見て固まった。妙に視線が下にいっているように見える。
「――早くタオル巻いて! こっちからは見えてるから!」
「あ、そういえばお嬢様の抱っこ紐にしちゃっていましたね。これは失礼」
僕としたことが、突然の襲撃だと警戒していてすっかり忘れていた。
「すっごい冷静……叫んでいい?」
「混浴なんですし気にした方の負けですよ」
それだけ言って、お嬢様が湯冷めすると良くないので立ち去った。
どうやら明日はリナさんと2人行動になりそうだ。割と強かなカナタさんは牢屋の中でも平気だろうし、自由奔放な従姉のことは放っておくのが吉だし、シオレさん達のことも心配要らないくらい頼もしい。こちらはこちらで頑張るとしよう。
それからお嬢様とのんびり部屋で過ごして一日を終えた。




