36.封印解除の謎
「うあー」
「あぅ?」
「ひゃっほーい」
「あゃ〜♪」
僕は今、お嬢様と謎の共鳴をしていた。
なぜそんなことをしているかって?
はは、朝からこの時間、夕方までのアルフレッドさんの指導でクタクタだからだよ。
絶賛精神的に疲れて訓練場で大の字になっている僕の頭をお嬢様がナデナデしてくれている。
お嬢様、ほんとお嬢様。
「お疲れ様でした」
「シルヴィさん……」
「しかし、それにしても習得は早かったですね」
「物覚えは良い方なので」
最初に一撃くらってやるとアルフレッドさんが言ったので遠慮なく【天破砕】をかましてやったら、「それに頼りきりなのは構わないが動きが単調になりすぎている」と徹底的に動きを改善されたのだ。
モンスターを倒したりはしていないのでレベルは上がっていないが、なんとかスキルの習得条件かなにかを満たしてとってやったのだ。
それにしても初見で【超強襲】に素の反射神経で見切ったり、こちらが【超強襲】を発動する前に詰めてきたりして、一撃でHPを半分持っていかれるのを何度も繰り返した。死ななかったのはシルヴィさんが【回復魔法】で延々と僕を立たせたからである。
「本当になんて強さなんですかねぇ」
「アルフレッド様はソヴァーレ様より強いですし、連合軍の主力が勢揃いしたのを、たったおひとりで退けたくらいですから当然でしょう。エンティルめによる封印術さえ無ければ、その威力をいかんなく発揮できたのですが」
「エンティル?」
「最近建国されたグランセル王国なる国の王です。封印術を得意としている純人族です。連合軍主力の六人衆の1人にも数えられていますね」
ああ、アメリアさんのご先祖さんか。
ということは、あの半分にする攻撃はただ威力に上限があっただけで、本来はもっと強かったのか。
天使化かつ封印状態で戦えてよかったー。そもそも天使化してその技量と戦闘の判断が鈍っていなかったらあの時太刀打ちできなかっただろう。
それにしても六人衆ね。
初耳な情報だし少し深堀りしてみようか。
「六人衆というのはどんな人達がいるので?」
「世情に疎いのですね。まあ教えるのは構いませんよ」
そして指を折って数えながら教えてくれた。
「先程言った王国所属の《勇者》エンティル、《聖王》ニーラ、共和国所属の《流浪の英雄》ウンセイ、亜人地帯の代表《蒼陀》ガイデス、《祖竜王》アレイヤ、純人族最大の国家の帝国のトップ《輝皇帝》シアラムです」
みんな凄そうな肩書きをしている。
「アルフレッド様はその場に居なかったアレイヤを除いて返り討ちにしたのです。その時にエンティルによって力が制限されてしまいましたが。しかし、今のアルフレッド様でもあんな連中一蹴できるでしょう」
ますますアルフレッドさんが凄さが深まってきた。一応この情報を並行してハルにメールで伝えているが、彼女からは“ティア表でよろしく”と返信があった。
……ティア表って何?
当然ハルに詳しく聞いてみると、説明が難しいのか、強さランキングでいいやと返ってきた。
いっそのことと思い、《四滅の主》やソヴァーレさん、なんならシルヴィさん含めた今の強さランキングを聞いてみた。
「そうですね、まずは群を抜いてアルフレッド様が1番でしょう。2番目はソヴァーレ様かと。3番目は強さ……むむ…………同率でアルシエラ様とアルリンデ様ですかね。どちらも持ち込みありという条件下ですが」
アルリンデという人は《四滅の主》のまだ僕の知らない最後の一人だろう。“アル”ってついていてその強さなら間違いない。そこも聞いてみると、《四滅の主-地滅》の人らしい。
普段はズボラで1番メイドのお世話になっていると少し愚痴っていた。
「5番目は《蒼陀》ガイデス、6番目に《祖竜王》アレイヤでしょう。その後に《勇者》が続きます。あとの六人衆は横並びですかね。私はおそらくその次にくるかと」
自信ありげなのはおそらくメイド長だから――つまり、あの戦闘メイドの統率をとれるような実力があるからなのだろう。ここで最初に遭遇したのが彼女で本当に良かった。安心感という面でも助かる。
しかし、気になることが一つだけあった。
「アルヴェネス……さんは入らないのですか?」
そう、先日戦った、お嬢様を狙ったあの不敬ゴミクズカス野郎のことだ。
「ああ、アルヴェネス様は事務仕事や魔法探究に集中しているので戦っているところを見たことがないので分からないのです」
「……」
あのジジイ、いつか全てを手に入れるために虎視眈々と気を窺って実力を隠していたのか。
まったく、昔から小狡いヤツだ。
今の話をハルに報告し、話している途中から眠ったお嬢様を起こさないように優しく揺らしていると、「シエラの部屋」、「立ち入り禁止」と看板が立てられた部屋に案内された。
「ここがアルシエラ様のお部屋です。用がある場合はノックして出てくださるのを待つしか無いのですが……応じてくれる確率はだいたい1割程度ですので頑張ってください」
「低っ」
今は彼女に名前を借りているのをバレるのはマズイため、この部屋はスルーしておく。
そして他にも色んな部屋に連れていかれ――最後に、宮殿の屋根に無理やり外付けされた感満載の一戸建てへ案内された。
僕は【天蹴】があるから普通に来れるが、シルヴィさんはジャンプしていた。パラメータが低いとここまで来るのも一苦労なのではなかろうか。
「ここはソヴァーレ様のお部屋です。当然許可なく立ち入るのは厳禁になっています」
シルヴィさんが紹介してくれると、中からにゅっと空色の髪の女性――ソヴァーレさん本人がこちらを覗いてきた。
「案内ご苦労さま。少しお話があるからシルヴィは仕事に戻ってちょうだい」
「かしこまりました。失礼いたします」
よろしいのですか、などといちいち確認せずに従うあたり、ソヴァーレさんに対する絶対的な信頼感を感じさせる対応だ。
僕も見習わないと。
「優しい迷子さん、お茶でもいかが?」
「……私はメイドですので、むしろお茶は私がお淹れします」
「そう。じゃあ私達で大切な話をするけど気にせずに横に立っていてくれるかしら」
「“達”?」
妙な言い回しが気になったが、中に案内される。そして、その意味がよく分かった。
既に椅子に座っていたその男の鮮烈な赤をひと目見て。
「《勇者》エンティルさん、ですか」
「不思議な気配のする子が迷い込んだ、なんて言うから警戒していたが――なるほど、そういう事か」
「そこにお茶のセットがあるから淹れてくれるかしら?」
平常時の僕だったらお嬢様以外にお茶なんて淹れるかと投げ出す可能性もあったが、相手はお嬢様の父君と母君。そしてお嬢様のことを察していそうな様子からしてこちらにとって大事なことを教えてくれそうなので抑える。
「――それで、本当にやるつもりなんだね?」
「ええ。私が封印されれば魔導玉の濃度は薄まるからモンスターも弱まって、あの王に吸い込まれる力も減るもの。それに封印中に蓄積したエネルギーで確実に倒せるはずよ」
流れ的にはソヴァーレさんから封印の話を持ち出したようだ。
知らない単語としては魔導玉と王とやらだ。
文脈から推察すると、魔導玉は彼女と関係する、モンスターの強さを変える物なのだろう。
「そうだとしても、外の王に、大天使に地底主……警戒するべき侵略者については人族側にも伝えた方が良いんじゃないかと思う。最近は世界を滅ぼす界滅の王なんて呼ばれ始めているんだ。君がそんないわれをされるなんておかしいよ!」
「もともとあの神から託された《救世主》なんて荷が重いもの。神不在の天界も地底主の居る反転世界も、外の大陸を滅ぼすことには変わりないのだし丁度いい肩書きね」
情報量が多い。
要するに上と下とお隣さんから狙われていて、それを知っているのはソヴァーレさんとこの人だけということか。
シルヴィさんから聞いた強さランキングにその侵略者の名前が出なかった辺り、少なくとも味方にも知られていないのだろう。《四滅の主》にかんしては不明だが。
「この戦いには誰も巻き込まない。もともと私と神がもたらした災いだもの」
神、か。天界に不在と言っていたり、少し前にシエラさんが本気か冗談か神は死んだとか言っていたり、神という存在が気になる。
――主に、お嬢様を差し置いて神を名乗るなんて不敬なのではないかと文句を言いたくなってきたからだ。
「……《四滅の主》なんて呼ばれているあの4人には伝えてあるんだよね」
「流石にあの子達の力無しで3箇所同時に相手取るのは厳しいから」
「そうか……封印解除の条件はどうしようか」
「フレッドは私が動き出す時まで休眠していると言っていたし、シエラちゃん辺りに任せるのはどうかしら?」
「なるほど、確かに君の親友の彼女なら安心して任せられる。王の弱体化を見極めるのも彼女ならうってつけだ。それでいこう」
封印解除の条件がシエラさんによるもの?
それはおかしい。なぜなら実際に僕が居た現在では最初の町から常にシオレさんと行動を共にしていて、僕達が先に進んでいたから、ここが死の森だとすると解除しに来るタイミングが無い。
仮に転移とかの装置があるとしても、あの満身創痍なソヴァーレさんの状態に説明がつかない。
アルフレッドさんを起こして天使化させた天使が封印が解除されたタイミングでソヴァーレさんを追い詰めたのだと思っていたが、違うのだろうか。
「――割り込んで申し訳ありません。エンティルさん、本当にその条件にするのですか?」
「まさかあなた――」
「……すまない。やはり人族にも君の奮闘を伝えるべきだ。この大陸の危機は人族と魔族が手を取り合って立ち向かわなきゃいけない。だから、一丸となった時に、人の手によって封印を解くようにしようと思っていたんだ」
「天使ではなく、ですか?」
「? これ以上隠し事はしていないよ。そもそもなぜ敵対している天使にそんな権利を渡さないといけないんだい?」
「自動で解除でもなく?」
「そこまで先の世情なんて読めないから当然ないね」
それもそうだが……むむむ。
では一体、どこの誰がソヴァーレさんの封印を解いて追い詰めたのか。
考えられる可能性としては、天使が人間を操るなり誑かすなりして解除したというのが有力か。
「――当然だが、天使と地底主とは1度交戦したこともあるからその息のかかった人間も弾くようにするつもりだ」
っとっと?
それなら本当にどうやって封印は解除されたのだろうか。
というかそもそも実際問題、ソヴァーレさんのことなんてほとんど知られていなかった。まだ間に何かあるのでないか――
「……あやぅ?」
色々と思考が混線していると、お嬢様がお目覚めになられた。
そしてすぐに目に入ったお2人をじっと見つめていらっしゃる。これはお話なんてしている場合ではない。もう二度と、こんな機会はないかもしれないのだから。
「あの、少しだけでいいので、おじょ……この子を抱っこしていただけませんか?」
「「――!」」
待っていましたと言わんばかりに目を輝かせたお2人。やはり薄々気付いていたか。まあ髪色やら瞳の特徴的な紋様で分かるか。
親子水入らずの時間を僕は遠巻きに見守る。
慎ましく、あくまでもメイドとして。
お嬢様も何となくご両親だと分かったのか幸せそうに喜んでいらっしゃる。
もう二度と、こんな光景は見られないかもしれない。僕はお嬢様のメイドなのであって、お嬢様の生みの親はどちらも居ないのだから。
しばらく、本来不可能な邂逅を過ごしたお嬢様は安心したように眠りについた。
「ありがとう。どうかこの子をよろしくお願いね」
「これでまたひと頑張りできそうだ。後の時代のことは任せたよ」
お嬢様を受け取ると同時に、景色が歪んだ。
そして色んな記録が目に映った。
エンティルさんの記録だからか、彼目線の光景だ。見事演じきってソヴァーレさんを封印する光景、苦しみながらも国のため献身する光景、そして人族の各国の諍いを諌め手を組んだ状態を維持する光景、ソヴァーレさんに関する真実を各国のトップに伝える光景――そして最後に、老いた末。
ソヴァーレさんが封印された地にて、人知れず|誰かに殺された光景。視点が地に伏しているせいで相手の姿は見えない。
「……」
元いた書斎に戻ってきた。
誰だ。お嬢様の父君を殺し、お嬢様の母君の真実をどうやってかは不明だが隠蔽し、封印を解除してボロボロになるまで追い詰めた――人族の輩は。
お嬢様のご両親の仇、そして何よりお嬢様も狙われる可能がある以上、可及的速やかに見つけ出して排除しないといけない。
現状出揃っている情報では答えにまでは行き着けない。鍵は人族側の六人衆にある。エンティルさんは彼らに真実を伝えた。それなのに隠蔽されている現実。
……国によっては知られていたが長い歴史の流れで消えていった可能性もあるため、色々と情報を集める必要がありそうだ。後手に回るわけにはいかない。
「必ずやお嬢様のためにも見つけ出し、このデッキブラシのシミにしてやりましょう」
僕はそう決意してこの書斎をあとに――
「ん? 君どうしてそこから……?」
「メイド?」
「あ」
そういえばここ、見張りをかいくぐって不法侵入したんだった。
「あ、えーと、王女様に言われまして! ここの清掃を! ではお仕事が山積みですので失礼いたします!」
『ミッション:“古の記録を体験せよ”をクリアしました』
『BSPを20獲得しました』
『SKPを30獲得しました』
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オリジナルクエスト
《正統派女装メイドが理想のお嬢様を育成するようです》
難易度:☆?
ミッション
0.古の記録を体験せよ―済―
1.死の森最深部へ行ってみよう
報酬
難易度に応じてミッションごとに配布
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