30.準備
昨日はゆっくり休めたので、今日も朝から励むとしよう。二日ぶりのログインだ。
『Fine-VR♪』
『Original Trajectory Online!』
修正があったとかのお知らせが表示された。
僕に関係がありそうなのは、【純白】が「弾く」とアナウンスされるようになったのと、リリィ様呼びを含めたアナウンスの変更ができるようになったらしい。あとは契約者の表示がステータスに載るようになったようだ。
とりあえずアナウンスの変更だけしてっと。
あと、全員から誕生日おめでとうというメッセージが届いていた。ハルから聞いたのだろう。ハルからは郵便で謎のキャラクターとサインが届いていたので、飾っている。あれはハルのアイコン? のキャラクターらしいがよく分からない。
――さて、今日の準備に入ろうか。
ステータスを確認し、今日は万が一のこともあるので改めてBSPを均等に振り分ける。90ずつ振り分け、余った30はそのままにしておく。
あとはやはり1131もあるSKPの使い道だ。試しに取得可能なスキルの一覧を見てみる。
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取得可能スキル一覧
必要SKP /スキル名/分類(P、A)
└効果
・
・
・
100/【拷問】/A
└様々な拷問を行う
120/【毒無効】/P
└“毒”、“猛毒”を無効化する
150/【確固たる自我】/P
└状態異常に対する抵抗確率を上げる
200/【共感覚体験】/A
└自身のPスキルを一つ選択し、1分間パーティメンバーに付与する
200/【聖掃】/P
└掃除の行為に“毒”、“猛毒”や“呪い”の除去効果が乗る
250/【観察眼】/A
└隠密系統の影響を受けにくくなる
500/【超強襲】/A
└視線を向けた任意の場所に転移した後、1~3秒後任意のタイミングで元の位置に転移する
・
・
・
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こちらの行動等が反映されているのは分かるが、もしかして【超強襲】なんてものが出たのは《黒》さんの転移を使って戦ったからだろうか。
正直ハルのカバーだけでは、こないだの騎士のような相手には圧倒される。少しでも手札は多くしておきたいところだ。それに何より、これは掃除の時とかで人が入れないような狭い隙間に無理やり体をねじ込めるかもしれない。
お嬢様が万に一つでも毒物を食べても大丈夫なように【共感覚体験】と、よりピカピカに掃除できそうだから【聖掃】を、それからお使いもこなせそうな【超強襲】を取得する。
これでステータスはっと。
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プレイヤーネーム:ヒビキ(R)
種族:奉仕族《滅》
種族レベル:35/300
ジョブ:純メイド(2次)
ジョブレベル:11/50
└全パラメータ(BSP,SKP除く)10%上昇
満腹度:100/100
主従契約:リリィ様
〈パラメータ〉
・[]内は1LVごとまたは1BSPごと(BSP,SKP 除く)の上昇値
・《》内は基礎値+進化ごとのレベル上昇分+ボーナスステータスポイント分+スキル補正値+職業補正値+装備補正値の計算式
HP:18468/(7908→)18468[+50]《{(100+990+1750+5100+500)×1.1-50}×2》
MP:16665/(6765→)16665[+50]《(30+495+1750+4800+500)×1.1×2》
筋力:(2241→)4221[+10]《(10+99+350+960+500)×1.1×2》
知力:(2241→)4221[+10]《(10+99+350+960+500)×1.1×2》
防御力:(2241→)4221[+10]《(10+99+350+960+500)×1.1×2》
精神力:(2241→)4221[+10]《(10+99+350+960+500)×1.1×2》
器用:(2241→)4221[+10]《(10+99+350+960+500)×1.1×2》
敏捷:(2241→)4221[+10]《(10+99+350+960+500)×1.1×2》
幸運:(2241→)4221[+10]《(10+99+350+960+500)×1.1×2》
BSP:(840→)30[+20]
SKP:(1131→)231[+(10×2)]
〈スキル〉
オリジナル:純白
通常:所作9 ・全能力上昇5・裁縫2・聖掃1
通常:修繕3・調理6・侮蔑の眼差し2・共感覚体験1・超強襲1
魔法:生活魔法4
ジョブ:清掃11
〈装備〉
頭{天破のホワイトブリム}
耐久値:100/100
・HP-50
胴{天破のエプロンドレス}
耐久値:100/100
・BSP,SKP除く全パラメータ2倍
足{天破のストラップシューズ}
耐久値:100/100
・【天蹴】
└常時空中を自由に歩ける。
武器{天破のデッキブラシ}
耐久値:100/100
・【天破砕】
└武器の耐久値を10%消費して、攻撃対象の最大HP10%を削る。
CT:0秒
└セット効果:獲得SKP2倍
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オリジナルスキル
【純白】
効果:常に自身と、あらかじめ指定した者以外からのデバフ、状態異常を受け付けない。
デメリット:常に自身と、あらかじめ指定した者以外からのバフを受け付けない。指定者は変更不可。
通常スキル(P)
【所作】レベル:9 習熟度11/45
立ち振る舞いに補正がかかる。
【全能力上昇】レベル:5 習熟度:8/80
BSP,SKPを除く全パラメータ+500
【裁縫】レベル:2 習熟度6/10
裁縫関連の行動に補正がかかる。
【聖掃】レベル:1 習熟度0/10
掃除の行為に“毒”、“猛毒”や“呪い”、その他悪影響のある付着物の除去効果が乗る。
通常スキル(A)
【修繕】レベル:3 習熟度425/1000
素材を消費して装備やアイテムの耐久値の回復や破損状態を直す。素材は物による。
CT:1秒
【調理】レベル:6 習熟度23/30
補正のかかった作業を行える。
・切る
・焼く
・蒸す
・炒める
更にMP5を消費して保有しているレシピを完全自動で制作できる。
(レシピ)
・{無表情メイド特製♡愛情皆無な野菜炒め}
・{無表情メイド特製♡実家風肉じゃが}
・{無表情メイド特製♡片手間コンソメスープ}
・{無表情メイド特製♡片手間たまごスープ}
【侮蔑の眼差し】レベル:2 習熟度:18/20
視認した対象に5秒間“沈黙”を付与する。
CT:5分
【共感覚体験】レベル:1 習熟度0/10
自身のPスキルを一つ選択し、1分間パーティメンバーに付与する。
CT:10分
【超強襲】レベル:1 習熟度0/10
視線を向けた任意の場所に転移した後、1~3秒後任意のタイミングで元の位置に転移する。
CT:30秒
魔法スキル
【生活魔法】レベル:4 習熟度25/30
・〖種火〗
種火を生み出す。
消費MP:1
・〖放水〗
水を放つ。
消費MP:3
・〖そよ風〗
そよ風を吹かす。
消費MP:4
・〖盛り土〗
土を地面に盛る。
消費MP:5
ジョブスキル(P)
【清掃】レベル:11 習熟度48/55
清掃の行動に補正がかかる。
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パラメータは1BSPに対する上がり幅が大きいから一気に上がった。あとは30秒のクールタイムのある【超強襲】を鍛えておこう。幸い他のスキルよりひとりかつその場で上げやすいし。
散歩しながら【超強襲】連打しよう。
周りから見たら一瞬姿が消えるように見えるかもしれないが、まだ早朝だし寝ぼけていると誤魔化せる時間だ。
ハルとの喧嘩のショックでこの宿までの記憶も薄いし、しっかり観光しに行く。
まだどこのお店もやっていないなー。
現実だと家から近くの村のおじいさんらがガチゴルフをしておばあさんらに怒られているのも見えたのに、これが民族性の違いというやつなのだろうか。
「やほー♪」
「びっ……はあはぁ、シオレさんでしたか。相変わらず心臓に悪いですね。おはようございます」
「ごめんごめん。ついねー。おはよ」
「こんな早朝からどうしたんですか?」
「どうしたもこうしたも、そこで座ってシエラちゃんを待ってたらキミが見えて声をかけただけだよー」
待つ、ということはさっきこの王都に到着したのだろうか。
「何を考えてるか何となくわかるよー。シエラちゃんは道端で突き刺さってた大鎌を見て“弔っておく。先に行ってろ”ってあの竜の件と同じ感じで置いてくように言っててさ。知り合いなのかな?」
「……」
大鎌ってたぶん僕が放置してきたアルフレッドさんの武器だよね?
「あ、やっと来た」
「シエラさん……おはようございます」
相変わらずムスッとした顔の修道服に身を包んだ少女が歩いてきた。朝からタバコまで咥えてらっしゃる。
「――貴様だな? アルフレッドを仕留めたのは」
「……っ!?」
『【純白】により“萎縮”を弾きました』
『【純白】により“麻痺”を弾きました』
『【純白】により“全能力半減”デバフを弾きました』
『【純白】により“即死”を弾きました』
シエラさんの目が煌めくと同時に一気にデバフと状態異常が飛んできたがその全てを弾いた。好戦的が過ぎる。
誤解を解くためにも応戦しないと先に死ぬ。
デッキブラシを構えた。
「はいはーい、やめやめ。シエラちゃんも八つ当たりしない!」
「戦友の仇を見逃せと?」
「事情が先でしょ」
「……話せ」
話を聞いてくれる姿勢になったようだ。
天使のことも含め、彼が正気ではなかったこと、彼の望みであったことから、彼の最期までを隠すことなく伝えた。
「天使、か――神が死んだとはいえまだあのバカ共は……」
「あの日朝からそんなハードなことしてたんだねー」
うん、今はシオレさんに構っている暇は無い。
「シエラさん、いえ、アルシエラさん。貴方様は《四滅の主》とかいう立場なのですね?」
「……ああ、今更隠すことでもない。我こそ、《四滅の主-天滅》のアルシエラだ」
やはり戦友発言から察したが当たりだったか。
それなら彼女には聞きたいことがある。
「アルシエラさん、シアントス辺境伯についてはご存知ですか?」
「シエラで構わん。それとこの国のことは興味も無いから知らん」
「ソヴァーレさんに叛意のあった人物に心当たりは?」
「特にないな。気になる言い方だ。少し待て。【広域精査】」
『【純白】により【広域精査】を弾きました』
どこからが大きな十字架を取り出して地面に立てた。彼女は目をつぶったまま何かを探しているらしい。
「――そうきたか。貴様はその辺境伯とやらがどうこう言っていたが、その懸念は確からしい。あの王城に《四滅の主-人滅》のアルヴェネスの気配を感じた。わざわざこんな事しなかったらから気付かなかったな」
「またあんな理不尽さと正面衝突しなければいけないのですか……」
「シエラちゃんシエラちゃん。戦友を苦しみから解放してくれたお返しに手を貸そーよ」
「……例え叛意があろうと、直接我々同士で戦うことはできないようになっている。ソヴァーレとの契約でな」
だが、とシエラさんはポケットから小さな瓶に入った液体を取り出した。
金色で飲もうとは思えない見た目だ。
「これを半分飲めば多少は戦えるはずだ。全部飲むと体が耐えきれず死ぬから――」
「あ、いえ。私そういう外的要因による内部的な強化はスキルのデメリット効果で使えません」
ムッスーとシエラさんはこちらを睨む。
でも弾かれるものは仕方ないではなかろうか。
「私かお嬢様の影響なら受け付けるのですがね」
「お嬢様? ……おい待て、その赤子は!」
「はい。ソヴァーレさんの死に際に託された、彼女の実子でございます」
「あいつの子供……確かに似ている。それにこの赤いアホ毛はあのいけすかない剣士の……」
いけすかない剣士とはおそらくこの国の初代国王なのだろう。この愛おしいぴょこんとはねた毛は遺伝だったのか。
「――それならこの指輪を持っていけ。いつか成長したときに役立つだろう。{救世の指輪}――こいつの母親が封印される前にくれた大切な指輪だ」
「かしこまりました。有難く頂戴いたします」
これで貸し借りなしだとシエラさんは立ち去った。シオレさんもまたねーとそれに追従する。
「……ふぁわぁ……まーまー?」
「指輪欲しいのですね。かしこまりました。指にはめるには大きいですし――このはねた毛を留めておきましょうか」
「あい!」
はねた毛の根元までやると、キュッと大きさが変わった。これなら指にもはまったかもしれないが、宝石もついてて手元にあると食べてしまうかもしれないからね。
それにこれはこれで妙な気品を感じる。
「何を身に纏っても似合うなんて、流石お嬢様でございますね!」
「うーぁ!」