代理人
『私になってくれる人募集します。
条件は
①女であること
②十五~十六歳であること
(見た目がそれより上もしくは下に見える場合はお断りさせていただく場合があります。)
③やる気がないこと』
そこまで書いて、動かしていたマーカーをとめた。
はて、やる気のない人間が、応募するだろうか。
首をかしげる。修正ペンを取り出して、『③やる気がないこと』を塗りつぶし、『③基本的にはないけど、そこそこやる気のある人』に書き直す。うん、なかなか良い感じ。なかなか面白い文句だ。うまい出来に、思わず口元に笑みが浮かぶ。
しかし、
あ。報酬考えてなかった。
そこで四項目目を考える。
『④報酬は、』
画用紙をぐしゃぐしゃにまるめる。
あほらしい。なにが「私になってくれる人」だ。私になったって、何の徳もないじゃないか。なぜなら、「私」とは、私自身が代理人を探したくなるほどの人間なのだから。
私は「私」がいやになった。だから代理人を探す。
しかし、自身いやになるような人間に「就職」してくれる人はいるのだろうか。いや、いないだろう。
仕方がないので、もう代理人を探すことをやめることにした。「私」なんて誰もしたくないだろうさ。けど私は最初から「私」だったのだから、最後までやり通すべきなのだろう。誰もやりたくないことを私が引き受けてやろうじゃないか。
こん こん
ほかに誰もいない教室のドアが軽くノックされた。
ドアを見つめる。がらり、と開く。
現れたのは、髪の長い、美しい少女。
「すいません、あの、募集の広告見たんですけど…。」
少女は緊張しながらも柔らかい笑みを浮かべ、私に問う。
けど、
おかしくない?私はまだこの広告はどこにも貼っていない。というか、こんなバカげたもの、誰にも見せてなどいない。
無言で少女を見つめる。
確かに、募集には当てはまりそうな外見をしている。
再度少女は私に問う。
「あのう…募集していますよね…?」
私は首を横に振った。
「すいません、残念ながら、現在募集しておりません。もう決まっちゃったんですよ。」
私は、できる限りの残念そうな声と顔で少女に謝る。
とたんに、少女の柔らかい笑みに、黒いものが混じった。にたり、と笑う。
「残念ですね、いまさらやる気だしちゃったんですか。けど、もうだめです。わたしが「私」になりますから。代わりにあなたに「わたし」をして良い権利をあげますよ。交換です。いいでしょ?」
…いいわけない。
「だめなんですか?けど、もう私は「私」なんです。あなたはもう「私」ではないのですよ。」
急に、目の前に、私がいたことに気付いた。
いや、私はずっと目の前にいたのだろうか。
頭が混乱する。
「なんですか、その顔は。せっかくのきれいな顔が勿体ないでしょう。
ところで、
あなただれですか?」
首をかしげた。
少女の一言で、混乱がとけた。頭の中がクリアになる。
そうだった。わたしはわたしだった。
わたしは、ずっと学校を徘徊していた。ずっと昔に死んだから。そして今日、たまたま学校に残って何か作業している彼女にあった。そして。
そう、そして何も起こらなかった。
わたしはわたしだ。
これからも変わらず、この学校を徘徊し続ける。
考えながら書いた小説なので分かりにくいです;
一応「私」と「わたし」で書き分けています。
最終的に募集広告を書いていた「私」は、ずっと昔に死んで学校を徘徊し続けていた「わたし」の幽霊に立場を乗っ取られてしまいます。
けれど「わたし」になった「私」はそのことすらわからず、これから学校を徘徊し続けるのです。
わかりにくい!;