3.死して尚、獏は笑う。
「なあチャコ、あれ、見えるか?」
50m先に女性らしきシルエットが見える。
腕を組んで、まっすぐこちらを見つめている。
第一村人発見、というか、街に向かう道中で人と遭遇すると思っていなかったため、多少警戒した。
なんだってこんな辺鄙な場所に女性一人でいるんだ。
こちらを油断させて金品を奪う野盗のやり口かもしれない、用心するに越したことは――。
「ああーーーーーー!!!!!!ちょっとーーーーーーーーー!!!!!!あのーーーーーーーー!!!!!!お兄さんーーーーーー!?あ、いやお姉さんだったらごめんなさい!!!社会情勢的に男女の区別を先入観で決めるのってあんまりよくないよねーーーー!!!!ごめーーーん!!!!!あのさーーー!!!!!!」
――うるっさ!!!!
何あれめっちゃうるさい。
人間って声帯こんな開くのってくらい通る大きな声。
爆笑獏の死に際くらいの声の大きさだ。
音量調節できないのは野生の証。
ここは何事もなかったかのように通り過ぎるのが吉ではあるが……。
近づいていくにつれ、女性の全貌が分かった。
斜陽を反射し光の粒を振りまく綺麗な栗色の髪。
定規で引いたような大きな並行二重に薄く艶やかな唇。
出だしの奇人具合にしては随分顔が良かった。
俺はそんな奇人麗人を横目に歩を進める。
「ええまって!?そのトカゲかわいい!?君歳いくつ!?どこ住み!?てかギルドカード持ってる!?ちょっと!よく見たらトカゲじゃないね!?!?!?ドラゴン!?ドラゴンだよね!?私初めて見た!何食べたらこんな大きくなるの!?!?やっぱり牛や豚より魔力持った生物のほうがいいの!?てか君もよく見たらめっちゃ若いじゃん。待って!何歳か当てる!んーーーー、18歳!どう!?あたり!?!?学校卒業してすぐ冒険者になった口でしょう。お姉さん分かるんだ~~こっちの方角ってことはぺブルに行くんでしょ?この森ぬけるとき気をつけてね、結構魔物いるから!魔物といえばだけどさあ」
「情報量が滝!!!!!!!」
奇人麗人はやけに喋った。
なんなんだこの人。
【だいなのせいぶつじてん】
爆笑獏:
深化により声帯が発達し、一際大きく鳴く獏の一種。
鳴き声は人間の高笑いによく似ている。
捕食者への抵抗手段として得た力であり、その声の大きさは140dbを超えるため、何の備えもない冒険者であれば聴覚に異常をきたす。