第88話 今後の治療方法
信じられない。こんな事があるなんて。
「レナ、見てくれたか。」
「はぁい・・・ローガー様ぁ・・・すみません・・・私・・・嬉しくて。」
レナの涙はしばらく止まらなかった。
アリーサの魔力が止めると、足の感覚は無くなった。
「ひとまず、確認は成功です。ローガー様の神経に魔力を流し、強制的に足へ伝わる様にしました。」
「それで、魔力を止めたら、足を動かせなくなったという事か。」
「はい。それで、ローガー様の魔力を、神経に流す方法で提案があります。」
その提案とは、魔力を発生する臓器と背骨の位置に、二ヵ所、背中に魔法陣を彫り、自身の魔力を流せる様にするというものだった。アリーサの治療は、日本人の医療知識と彼女の魔法を組み合わせたというものであり、見た事も聞いた事もない方法だった。こんな魔法の使い方があるとは・・・。
その魔法陣を彫った後、自分の足で立つ為に、足を補助する機器を作るとの事。アリーサに全てを任せた。こんな事が起こるなんて・・・未だに信じられない気持ちだ。
治療は、後日、開始するとの事で、折角来てくれたのだからと、アリーサと話しをした。アリーサの治療技術は、活動家軍に所属している日本人にも施されており、施された者は、魔法が使える様になった。その者達は、現在、各地の施設に、奴隷として潜伏しており、奴隷解放の際、扇動する役になる。会議でその話しを聞いていたが、その時は、日本人が魔法を使えるという事が信じられなかった。が、今はその技術を目の当たりにして、疑いは無くなった。世界中、探してもこんな治癒魔法を使えるものはいないだろう。
「本当にあなたに会えて良かった。ありがとうございます。」
自分は頭を下げた。レナも、自分を見て、一緒に頭を下げた。
「いえ、ローガー様は、上に立つお方。部下に頭は下げないで下さい。」
「それは、分かっているが、どうしても、あなたに感謝を伝えたくて・・・な。」
アリーサは気恥ずかしそうだった。
ラナールは、リンデン国首都ロマの庶民が生活する区域に来ていた。
カマル当主の認知されていない三男、ヘルムートへ話しを持ちかける為だ。何かあった場合を考えて、庶民の服装に着替え、目立たない恰好をし、護衛を一人エルヴィン様にお借りし、夫役になってもらった。見た所、腕のいい密偵という感じで、護衛には問題なさそうだ。一応、洋介やとわは、目立たない様、姿を隠して、ついて来ている。これから、調べのついている家へ行くが、ヘルムートが仕事で留守な事は知っている。そして、カマル家で使用人をしていた母親が、家に居る事も知っていた。本人に話す前に、母親から、情報を引き出し、交渉を有利に進めたいという狙いだった。
ついた場所は、街中にある、なんの変哲もない家。護衛は、周囲を見渡すが、見張りなどがいる気配はないとの事だった。
ドアをノックすると、母親らしき、人物が出てきた。
「はい、どなたでしょうか?」
「初めまして。私、ヘルムートと一緒に、酒場で働いているフリッツと申します。こっちは、妻のマリーです。」
ヘルムートは酒場で働いており、フリッツという同僚が居る事は調査済みだ。
「はあ、フリッツさんのお名前は、本人から聞いた事がありますが、何か?」
「ヘルムートからお母様の相談を受けたんですが、妻は治癒魔法が使える事を話したら、ぜひ、母の事を見て欲しいと言われまして・・・」
「あー、そうだったんですか?何か、息子がすみません。ですけど、今、息子は居ませんが・・・」
「いや、それは分かっているのですが、妻が今日ぐらいしか、休みが取れなくて。」
「ごめんなさい、私が今日なら行けるって言ったばっかりに。」
「そうですか・・・まあ、外で話すのも、何ですし、どうぞ、お入り下さい。」
「ありがとうございます。」
護衛と共に、ヘルムート宅へ入る事が出来た。