第86話 王太子殿下とラナールの密談
リンデン国の首都ロマ。王宮では、王太子殿下リンデン=エルヴィンとラナールが密談をしていた。
エルヴィン様はお話し通り、決断は早く、判断も的確だった。ただ、非情な決断も迷いなく下す人物だと聞いた。油断出来ない交渉相手だ。
「それでラナール殿、首尾の方は?」
「はい、カマル派ですが、調査した所、シュミール国と繋がっている可能性が出てきました。」
「そうか。まあ、噂通りだな。証拠は?」
「見つける事は困難でしょう。シュミール国の密偵を通じて、カマル派の人間に渡っていた事までは分かっているのですが。」
「密偵の拷問は?」
「はい、リンデン国の拷問官へお願いしました。それで分かった事ですが、色々な人間を経由している様で、辿る事は困難と言わざる得ません。」
「カマル派は、今や国王派より力を持っている。これを機に潰したいのだが。」
リンデン国を建国した魔導士リンデンは、自分の後継者として、エルフではなく、将来的に種族の中心となるであろう、シュミール人を後継者に選んだ。それが、ロマとカマルだった。ロマ、カマルともに、才覚があり、誰からも尊敬される人物だったが、ロマは多種族共存という魔導士リンデンの意思を引き継いだが、カマルは母国のシュミール人至上主義の考え方に染まっていた。
それを魔導士リンデンは、分かっていたのだろう。ロマに、リンデンの名前を授けた。そのロマの子孫が現在の国王であり、カマルの子孫は、最大派閥であるカマル派を率いる貴族だった。
エルヴィン様は、物騒な事を考えていると思われた。
「よし、カマルを暗殺するか。そうすれば、カマル派は自然につぶれるだろう。」
やはり、そういう考え方になるか。カマルは、国王の座を狙っており、国家転覆も図っていると噂される。それなら、処分する方がいいという判断なんだろう。
「暗殺は可能ですか?」
「公の場では難しいな。また、カマルの屋敷は、警護が厳重だと聞いている。まぁ、外出時なら、可能だろう。ただ、準備が必要の為、何処に行くか、事前に分かる必要がある。そこまで揃えば、確実だと・・・思う。」
「そうですか。」
「もし、暗殺が成功したらだが、後を継ぐ者次第では、あまり、カマル派を切り取れないかもな。」
「なるほど、後釜に座る者も、暗殺が必要になりそうですか。中々、過酷な道のりですね。」
エルヴィン様は、ふーと息を吐き、天井を見ていた。
「ラナール殿なら、どうする?」
お茶を一口飲み、エルヴィン様に提案した。
「カマル当主の三男について、聞いた事はありますか?」
「いや、あそこは跡継ぎとその下は、実際に会った事はあるが・・・三番目が居るのか。」
「はい、屋敷の使用人に産ませた子供が居まして、市井に降りている者がおります。」
「初めて聞いた話しだな。」
エルヴィン様が、こちらを見ながら、考えている様子だった。
「その者は、シュミール人至上主義だと思うか?」
「恐らくになりますが、街で育っている為、他種族との関わり合いは深いと思います。国王派に近い考え方を持っているかも知れません。」
「使えるな。」
「はい、私もそう思います。」
「説得は難しいと思うか?」
「それは、実際に会って話しをしてみないと何とも・・・ただ、近所でも切れ者と評判があり、中々、頭がきれる人物の様で、説得次第と言った所でしょうか。」
「カマル派の目があるので、呼び出す事は難しいな。」
「はい、そこでエルヴィン様にご提案ですが・・・」
エルヴィン様は私の言いたい事を察してくれた様だ。
「ラナール殿、すまんが、内密にその者と会い、説得してくれんか。」
「かしこまりました。」
「こちらは、その者が当主につける様、準備をしておこう。」
エルヴィン様は、含みのある顔をしていた。