第81話 紘子はリンデン国首都に向けて出発する
これから、領主様は、早急に王国へ連絡を取ってくれるそうだ。ただ、宛先は、リンデンの王ではなく、王太子であるリンデン=エルヴィン殿下に連絡を取る様だ。理由を尋ねると「陛下は、決断が遅く、物事を先送りに癖がある」との事だった。王太子殿下は、次期国王であり、名君として素質が高く、物事にも柔軟であるとの事。王太子殿下に王を説得して頂く方が、良いだろうという考えだった。領主様は、国境に近い都市を治めているだけに、シュミール国の動きには敏感であり、内乱が収まり次第、リンデン国に攻めようとしているのは、明白なのだそうだ。それなら、新シュミール国を樹立し、リンデン国が後ろ盾につき、先手を打つ方が良いという考え方だ。それに、新シュミール国が建国され、その新国と旧国の戦いになれば、国内のシュミール人は、新国の説得次第では、リンデン国に矛先を向けないのでないかという考えもあるという。その、シュミール人達を説得する為の種まきに、紘子達は首都へ行く。自分も紘子について行きたかったが、洋介の魔法(透明化)は、同行者二人までという制限と、これからも隠密行動で進む為、断れた。「その代わり、自分が命にかけて守りますよ」と言ってくれたが「だめだ、全員生きて帰ってこい」と返した。洋介は苦笑いしながら「了解」とだけ言った。
そりゃそうだ、洋介も町を作る為の大事な仲間であり、日本という町を盛り上げてもらわないと。
紘子とぎゅっと抱き合うと「行ってきます」「行ってらっしゃい」とお互い声をかけ、別れた。これから、紘子は、説得という戦いに行く。がんばってくれ。
紘子達を見送ってから、自分は幸田さん宅へ戻り、修行の再開だ。今度の奴隷解放に参加できる様、力をつけないといけない。
紘子、俺も頑張る。
ローガー一行は、街の外れにある民家の前で停車していた。ここから、馬車を操作する御者が変わるとの事だが、ローガー達もしばらく気づいていないぐらいに、自然な流れで、すでに変わっていた。御者は「お待たせいたしました。」と一言告げ、馬車はまた、走り出す。
ここから、活動家軍の基地に向かうらしいのだが、レナは御者しか場所が分かっていない事に、不安が募っていた。
尾行防止の為か、色々と回り道をしており、もう、周りの景色を見ても、ここがどの辺りかも分かっていない。ローバー様を見ると、いつもと変わらず、何事もない様に本を読んでいた。
「ローバー様、ここってどの辺りだと思われますか?」
「レナ、・・・気持ちは分かるけど、落ち着きなさい。目的地には向かっていると思うよ。」
「すみません。」
「それにしても、追手は来ていない様だね。」
「はい。」
「まぁ、ヤンが上手くやってるんだろう。それにしても、今まで、こんなに遠くまで、旅なんてした事ないから、新鮮な気分だよ。」
ローバー様は、あの小さな屋敷でずっと暮らし、外にもほとんど出た事がなかった。お顔は、今まで見た事がないほどの晴れやかさだった。
これから先、どんな苦難が待っているか分からない。今は心休める時だと肩の力を抜いた。




