第56話 フォージ=ナインズ
フォージ家当主ナインズは、書斎に座り、考えていた。息子のカイル、ガイウスがオーガと戦う事になった。周囲には、さぞ立派な戦果を挙げている息子に見えるが、本性はガイウスと同じ様なクソガキだ。まぁ、ガイウスよりはマシだが。なので、幼い頃から優秀で目をかけていたナードを副官に置いていた。ナードは、カイルを上手くコントロールしていたが、死んでしまったのは残念だ。恐らく、そこが原因で暴走し、オーガと戦争になったのだろう。
自分が愛用している剣を見る。悪くはないが、当主が持つフォージ家の家宝である「当主の剣」に比べると、どうしても見劣りしてしまう。
戦う事が困難になり、カイルに授与したが・・・当主の自覚を持つのは、しばらくかかりそうであり、まだ自分が当主に居なければ、上手くはいかないと思われる。今回、二人をコントロールさせる為、自分の副官であるベルケルを派遣したが、カイルとガイウスには、劇薬となりかねない。どうなる事か。
義足になった右足をさする。もう少し、マシな義足はない物か。棒が出ているだけの義足に不満があり、義足と生身の足の間に痛みがある。雨が降ると、痛みはより一層強くなる気がする。ラースとの戦いを思い出していた。
昔、首都ココで奴隷解放が行われた。奴隷解放の裏で、エルフの族長ラースは、少数を率いて王宮に忍び込んでいた。何をしに来たかは分からないが、王宮で見つけ、戦闘になった。「英知の魔法使い」と言われている相手、戦いは熾烈を極めた。相手は全身火だるまとなり、息絶えたと思うが、引き換えが自分の右足と魔力枯渇症だった。
そんな事を思い出していると、部下が報告に来た。何でも、奴隷達が魔獣の討伐に行ったが、巨大なイノシシの魔獣が出て、死者が出たとの事。普通はそんな些細な事で報告には来ないのだが、ここソローで何か嫌な事が起こりそうな予感があり、逐一、部下に報告させている。
魔獣に殺された。その事は特に引っかかる感じはなかったが、その後の報告には引っかかった。
死んだ日本人の死体を早めに燃やしたいと、他の兵士から提案があったらしい。何故かを聞くと、その日本人の死体に毒を持った虫が群がっていたので、気味が悪く、早めに処分したいとの事。
報告を聞いて考える。
兵士がそういう対応しそうだとは思うが、何か・・・
「処分をするのは止めろ。検分する。」
「はっ」
兵士が出ていくのを止める。
「聞き忘れていたが、その奴隷の名前は分かるか?」
「はいっ、確か・・・かき・・柿沼心だったかと。」
柿沼心・・・か。