第52話 オーガの里が燃える
オーガの里の家屋に火がつく。それでも奴隷達は、残っている家屋に油を撒き、火をつけていく。奴隷をいくら殺しても、勢いは止まらない。ムサの怒りは、頂点に達していた。
もう、里の7割ほどが燃え始め、里を捨てる選択し以外、無くなっていた。
「父上!」
ディーが、ムサに駆け寄ってくる。
「ディー、里はもう駄目だ!オーガを率いて逃げろ!」
「父上は?」
ムサはディーの頭に手をのせ、撫でる。
「達者でな。」
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ムサは吼えると、シュミール軍へ単騎で向かっていく。
シュミール軍の指揮官を殺せば、この侵攻は止まるかも知れない。もうそれに懸けるしかない程の負け戦になっていた。ムサがシュミール軍に向かっていくと、ムサの後ろには、続々とオーガが集まる。その中には、父も混ざっていた。
「戻ってくれ!ディーを支えてくれ、頼む!」
「無理だ!怒りが止まらん。」
しょうがない、このまま突撃する。
「突撃!」
「「「うぉおおおおおおおおおおおお」」」
オーガの決死隊は、無傷のシュミール軍に向かっていく。
暇そうにしていたガイウスが顔をあげた。ようやく、つまらない戦争が面白くなりそうだ。森からオーガの気迫が伝わってくる。ガイウスは、にやりと笑いながら、剣を抜いた。
ベルケルがカイルに話しかける。
「カイル様、ようやく出てきそうですな。」
「ああ・・・」
カイルは正直、戦争をしている気が全くなかった。これが、戦争か?満足気に燃えているオーガの森を見ているベルケルに恐怖を覚える。
森から、次々とオーガが飛び出してきた。前線の重歩兵が盾を前に出し、衝撃に耐えようと踏ん張っていた。オーガがその盾に向かって前蹴りを放つと、兵士が吹っ飛んでいく。
シュミール軍の前線は大混乱に陥った。
オーガの攻撃はすさまじく、兵士達は鎧を着ていたが、関係なく潰されていた。兵士が、オーガの足に剣を突き刺すが、関係ないとばかりに手に持っていた巨大な棒に殴られ、吹っ飛んだ。オーガ達の怒りは頂点に達しており、簡単には止まらなかった。
ムサの手には、木の棒ではなく、刃のついた巨大な剣を持っており、一振りすると、何人もの兵士の身体が真っ二つに切り裂かれる。ムサの周りは、血吹雪が舞っていた。そこにガイウスが突っ込んでいく。向かってきたガイウスへ、ムサが剣を切り降ろす。ガイウスは、その剣を躱すが、騎乗動物クーの首が切断された。首を切り落とされ倒れそうなクーの背中を蹴り、ムサに飛びかかる。宙を舞っているガイウスが剣を薙ぎ払うと、その剣からは、波動が出て、ムサの顔を真っ二つに切り裂くかと思ったが、なんとか避けた。ただ、避けきれず、右耳が縦に切れた。ムサは右耳が切れても、気にする様子はなく、空いている腕で、宙に居たガイウスを殴り飛ばした。
くぅぅぅぅぅたまんねー。
左手で防御した際、骨は粉砕したが、なんとか致命傷にはならなかった。
ガイウスは叫ぶ。
「俺とコイツの一騎討ちだ!お前ら、手ぇ出すな!」
ムサもニヤっとして
「オーガの誇りを懸ける。オーガ達よ、手出し無用だ!」
二人の一騎討ちが始まった。
ベルケルは、戦っているガイウスを見ながら、側近マーカスに指示をした。
マーカスは指示を受け、部下と共に戦場の中へ紛れていった。