第32話 魔獣牛のステーキと幸田さんの愛の重さ
「そういえば、ゾーイさんや他の日本人の方は回復魔法効きませんでしたよね。どうやって言葉のインストールを?」
「代案として、ポーションを飲みながら、インストールしてもらいました。ただ、佐藤さんみたいに一時間後にはスッキリとはならず、次の日まで頭の中がぐちゃぐちゃでした。」
ゾーイさんは、その時の事を思い出したのか、何とも言えない表情をしている。嫌な事を聞いたな。申し訳ない。
「それで、佐藤さん、何処か見に行きたい所あります?」
今の自分は、教会に行く前とは違い、どういう道具があり、人々がどういう生活を送っているか分かる。それなら、実際に道具が見たいな。それと、魔獣牛ビルのステーキを食べてみたい。
「ビルのステーキを食べてみたいのと、家庭などで使われている道具も見たいです。」
「ですよね!私も知識で知った時、驚きました。ビルの肉、高そうな霜降り和牛みたいで。日本で初めて食べたすき焼きを思い出しました。美味しくて、口の中でとろけて、感動しました。」
「ビルの肉食べたいです。」
「それじゃ、お肉を食べてから、道具屋を覗いて行きましょう。それじゃ、乗って下さい。」
そうだった。「すみません」と言い、肩に手をのせると、ゾーイさんは笑顔で振り返り、出発する。幸田さん、この光景見たら、嫉妬するじゃないか。会いませんように。
ビル、最高の霜降り肉のステーキでした。しかも、昼からワインもだなんて・・・最高の贅沢です。
ゾーイさんもおいしそうに食べていた。ただ、この世界では、牛自体人気はなく、しかも霜降りより赤身が好まれるとの事。魔獣牛ビルは、全体的に赤身肉が少ない為、値段も安い。日本人として、これには納得いかない。料理の仕方でなんとかなるのじゃないかと思ったので、今度、考えてみよう。
食事後は、道具屋に移動する。
道具屋に到着する時、後ろからものすごいスピードで走ってくるキックボードが。乗っていたのは、幸田さんだった。おじさんが必死の形相でキックボードを漕いでいる、中々つらい光景だ。
幸田さんは、息が切れ、腰に手を当てながら、自分の肩を掴む。
「さ・・佐藤さん・・ワイフに・・手を出すな!」
多分、二人でキックボードに乗っている所を見たんだな。どうしようかと思っていると、ゾーイさんは幸田さんを引っ張り、二人で話し合っていた。ちらちら聞こえる幸田さんの言葉、中々に重そうな愛だなと思っていると、二人はキスをしていた。どうやら、解決したようだ。
二人は手を繋ぎ、こちらに歩いてくる。
「佐藤さん、すまん。完全な早とちりで。それに移動手段の配慮も足りなかった。申し訳ない。この町は、動物のフンが問題になり、街中を馬車が通るのは、禁止になっていてね、まぁ厳密には上級貴族以外は禁止なんだけど。それでキックボードが流行ったんだけど、それを作ったのが、勝則さんの息子さんの勝喜君でね。彼ねぇすごいんだよ。色々な製品を世に送りだして、リンデンの発明王なんて呼ばれていてね。勝喜君とは、一緒になって研究したもんだよ。」
また、幸田さんの癖が始まった様だ。いつもの事なのか、慣れた様子でゾーイさんは幸田さんの頬をつねる。
「話しが進みませんよ。」
幸田さんは、ゾーイさんを見ながら「ハイ」とだけ答え、おしゃべりをやめる。上下関係が分かるシーンだなと思う。幸田さんは、改めて話す。
「ごめんね。それでね、自分の方は報告が終わったから、ゾーイには家に行って準備をしてもらおうかと。なので、道具屋からは自分が説明するよ。」
幸田さんは、ゾーイさんの方を振り返り「頼むね」と言い、ゾーイさんは家の方に向かっていった。
どうでも言い事だけど、帰りはおじさん二人でキックボードに乗るのかぁ、何か嫌だな。




