第17話 生存者と血まみれの女の子
四人が急いで奥の部屋に駆け寄ると、 左腕、腹部が血まみれで、上腕部にきつくタオルが巻かれていた作業着姿の女性が荒い呼吸をして横たわっていた。その横に頭を割られている男性が横たわっており、生きてはいないだろう。遺体近くに鉈とハンマーが落ちている。一目見て、なんとなく事情を察した。
横たわっている女性の顔を見ると香織ちゃんだった。
彼女も鈴木建築の社員であり、名前は香織ちゃん。健一君とお付き合いしていて、もうすぐ結婚すると、達夫さんが嬉しそうに語っていた。歳は渉の三つほど上で、真司君から聞いた所によると、渉の初恋の人だったみたいだ。
アリーサが怪我の状況を見る前に、口移しで金色の液体と赤い液体を飲ませる。おそらく、薬の様なものだろう。腹部の傷口を確認し、切られた様な傷がばっくりと空いている。次に腕の傷を確認したが、酷い状態であり、骨が見え、腱でぶら下がっている様な状態だった。それを見た健一君は、「うぁぁぁぁぁぁぁぁ」と発狂しながら死んだ男を蹴り始めた。
「*******(幸樹!邪魔だから止めて!)」
幸樹が健一君を取り押さえる。
アリーサは、健一君に目もくれず、腹部と左腕に手をかざし、魔法を唱えた。
「×××××××××」
腹部の傷は少しずつ塞がっている様にみえるが、左腕は治っている気配はない。
「公彦!早く車に乗れ!」
健一君を掴んだ幸樹、香織ちゃんを担ぎ上げたアリーサと共に軽トラへ走る。幸樹は健一君を助手席に放りこみ、運転席に座る。アリーサ達は荷台に飛び込み、治療を再開。自分も慌てて荷台に飛び込むと車は発進する。集中しているアリーサに、状況を聞く事も出来ず、家がある森へと向かっていった。
道中、魔獣が追ってきたが、幸樹が風の魔法を唱え、魔獣を吹き飛ばす。
「くそっ!うぜぇ!・・・てめぇ!しっかり掴まっとけ!」
軽トラはさらに加速する。
・・・森が見えてきた。幸樹は後ろの席を叩き、荷台に合図を送る。アリーサは治療の手を止め、別の魔法を唱える。
「×××××××××」
森の木々がすっと車一台分の隙間を空け、そこに車は飛び込む。村に行く際も同様の道を通ったが、助手席に座る健一君は信じられない光景を見ているだろう。
・・・家が見えた。
森の中にぽっかりと空いた木々の生えていない土地、そこに家があり、アリーサは香織ちゃんを抱え、幸樹と家の中に入っていく。行動に何も説明はない、事態は緊迫しているのだろう。何も言えず、思考停止している健一君を連れ、家の中に入る。
家の中に入ると幸樹が説明してくれた。
・出血がひどく、死にかかっており、予断を許さない事。
・腹部の傷に関して、縫合すれば、完全に塞がる事。
・左腕に関しては、処置できず、切除しないといけない事。
健一君は、手で顔を覆い、泣いた。
自分は健一君の背中をさすりながら、幸樹を見る。
幸樹は「こればっかりは分からん」と小さくつぶやいた。
・・・
どれくらい時間が経ったのだろう。泣き止んだ健一君は、水を飲みながら、少しずつこれまでの事を話し始めた。




