第1話 いつもの朝
見渡す限り田んぼが広がり、コンビニへ行くにも距離があり、車を使わないと行けない。そんなのどかな村の朝。
田植え時期の為、近所の農家は朝早くから、準備に勤しんでいる。
家は昔、酒屋をやっていたが、父の代には店をやめ、村の役場勤めをしていた。私、佐藤公彦(43)も父と同じ、村の役場勤めだ。
朝はいつもの様に、仏壇に手を合わ、父・母・妻の写真を眺める。
「父ちゃん、朝めし」
生意気な高校生、佐藤渉(17)が私へ声をかける。
「ご飯あるから、卵かけて食っとけ」
息子は仏壇前に座り、チーンと鳴らすと簡単に手を合わせ、台所へ行く。
「母さんに言う事はないのか」
「いつも手合わせてんだから、それでいいよ」
まだ、妻が亡くなってから5年しか立ってないのに、この息子は・・・
まあいい、いつもの光景だ。
「7時半前には、出るから準備しとけよ」
「あー」
準備の遅い息子が、スマホから目を離し、制服に着替え始める。私も妻もきっちりとした性格なのに、誰に似たんだか。
勤務先へ行く前に息子を駅まで送る、これも変わらない光景。
家から少し離れた直線の道路。途中に信号があり、赤。この信号で止まると、いつも面倒な事が起こる。いい一日ではなさそうだ。また吾郎さんが良く分からない書類を役場に持ってきて、聞きにくるかも知れない。家族がおらず、聞く人がいないからだが、役場に洗濯機の説明書を持ってこられても・・・うーん、高齢者一人住まいの対策が必要になりそうだ。
「今日は早く帰ってくるのか」
「帰りに友達と遊び行くから、遅くなるんじゃねぇの」
「そうか、帰りの時間、分かったら電話しろよ。駅迎えに行くから」
「うい」
年を重ねたら、送り迎えをしてくれる親のありがたみを知るのだろう。それまでは生意気な態度にも目をつぶる。私はそう自分に言い聞かせ、心を落ち着かせる。
信号が青になったので、車を走らせ様とした直前、大きな揺れが起こった。
車を停止したまま、揺れが収まるまで待機する。
周りの家から、人が飛び出してくる。
「うぉー、揺れでかくね!」
助手席にいる息子も、慌てている。
車内でも揺れを強く感じており、震源地は近いのかも知れない。
体感で数十秒ほどで揺れは収まった。周りの家を見ても倒壊している様子はないが、家の中は、色々と大変な事になっているかも知れない。
災害情報を見ようとスマホを取り出す。あれっ、圏外になっている。
「渉、携帯、使えるか?」
「いや、こっちも無理っぽい」
圏外になるって、大事おおごとなのか?
「電車は止まってると思うから、ひとまず家に戻るぞ」
「学校は・・・行けなさそうね。」
「今日は休め。・・・家の中、色々と大変な事になってると・・思う。」
父親の代で立て直しはしているが、少々古い家だ。倒壊はしていないだろうが、家の中はどうなっている事か。それに、役場で災害時の対策を始めているかも知れないので、渉に家を任せて、行くしかない。